21.技師の到着

 ステファンとのお茶会から数日、オルテンシア国からの技師が到着した。

 その日の午後にステファン殿下を迎えた謁見室で一行と対面する。


「遠いところよく来て下さいました。この国の女王シルヴィアです」


 挨拶を述べると一行の中から壮年の男性が進み出る。代表はこの男性のようだ。


「一行を代表してグレイシス国の女王陛下にご挨拶を申し上げます。私はジョエル・プラハシュと申します。この度は我が国の技術を必要となさっていると伺い参りました。我が国の技術でグレイシス国の助けとなれば光栄です」

「ステファン殿下からオルテンシア国の素晴らしさはよく伺っています。ブラハシュ殿らには期待しています」

「ご期待に添えるよう励みます」


 ブラハシュが一礼をする。そこで、一行の中から一人の少女が歩み出た。年の頃は十五歳前後だろうか。他の技師とお揃いの制服を着ているが、ステファン殿下とそっくりの金髪で、ルビーのような深紅の瞳が勝気に輝いている。


「へぇ、あなたが。私はスカーレット。スカーレット・オルテンシア」

「ス、スカーレット様! 大人しくしてくださるとお約束して下さったではないですか」


 ブラハシュが悲鳴のような叫び声を上げる。

 スカーレットは、一瞥すると言い放つ。


「ええ。だから、道中は大人しくしていたでしょう」


 彼女の名前は聞き覚えがあった。天才と名高いステファンの妹だろう。


「スカーレット殿下。ようこそ我が国に。歓迎いたします」

「もてなし楽しみにしているわ。ああ、でも特別な気遣いは不要よ。他の者らと同じ扱いで構わないから」


 尊大に言うスカーレットに、ブラハシュは顔色を青くしている。

 スカーレットは言いたいことを言って満足しているようだ。

 ステファンは彼女が来ることを知っていたのだろうか。

 ひとまず、謁見はブラハシュのためにも早く切り上げたが良いだろう。


「では、皆様長旅お疲れでしょうから、本日はゆっくりとおくつろぎください。お願いしたい件については、また後日改めて話をさせましょう」


 私の言葉にブラハシュは明らかにほっとした顔をした。

 その様子に気づかないふりをして、私は謁見の部屋を後にした。



 執務室に戻った後、ステファンにスカーレットの件を問い合わせを送る。

 返答を待つ間に、侍女と侍女長を呼び出した。


「オルテンシア国の王女、スカーレット殿下がいらっしゃっています」


 顔色を変える侍女長に落ち着くよう促す。


「約束なくいらっしゃったのはあちらです。それで不備があるとはおっしゃらないでしょう。それに、私は皆のもてなしが最高のものだとは知っています。ただ、殿下は少し難しいお方のようだから、いつもより気をつけるように侍女達に伝えてください」

「かしこまりました」


 その後、懸念事項を聞き取り、人員を増やし対応することとなった。

 侍女長が退室したところで、ステファンがやってきた。


「シルヴィア陛下。ステファンです。今、よろしいでしょうか」

「ええ。遣いをやった件だけれど、スカーレット殿下のことステファン殿下はご存じだったの?」

「いいえ! 信じていただけないかもしれませんが、存じ上げていたならお伝えしていました」


 ステファンは、頭を下げる。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「殿下に謝罪いただくことではありません。頭を上げてください」


 顔を上げたステファンは申し訳なさそうに眉を下げている。私はその表情にふっと表情を緩めた。


「悪いと思ってくださるなら、スカーレット殿下がいらっしゃった理由を伺っておいてください」

「かしこまりました」

「技師らとの面会も特に制限を設けません。きっとステファン殿下が会いに行かれれば喜ばれるでしょう。任せましたよ」

「ご信頼くださりありがとうございます」


 ステファンが退室した後、執務机の上にいる小箱が目に留まった。

 いつもなら小鳥のさえずりを聞いて気分を切り替えるところだが今日は何故かそういう気分にはならず、不在の間に持ち込まれた書類を手に取るのだった。

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