一見ありがちな浮気バレのシチュエーションを、意外な展開で料理した秀作である。
冒頭から丁寧に描かれる主人公のほろ酔い具合が、その後の展開の伏線として効果的に機能している。
特に巧みなのは、読者の期待を逆手に取る手法だ。
浮気現場という危機的状況で、誰もが想像する「修羅場」の展開を避け、むしろ主人公の頭の中で進行する思考の混乱に焦点を当てる。
そして最後の「すいません、部屋を間違えました」という台詞。
この何気ない一言で、それまでの状況が完全に異なる意味を持ち始める瞬間の面白さは見事である。
酔った勢いで他人の部屋に入り、一瞬だけ自分を既婚者だと思い込んでしまうという設定は、日常の些細な勘違いを絶妙なユーモアへと昇華させている。
短い作品ながら、読後に思わず笑みがこぼれる、心地よい余韻を残す物語だ。