純白の輝き

かいんでる

小さな饂飩屋

「いらっしゃい!」


 客席わずか五席の小さな饂飩うどん屋。

 オープンしてから二回目の冬を迎えていた。


「兄ちゃん、いつもの」

「かしこまりました! かけ一丁入りました!」

「その掛け声、兄ちゃん一人なんやからいらんやろ」

「活気があっていいと思いません?」

「まあな、陰気な店よりゃいいわな」


 五十代半ばと思われる常連客の男は、コートを脱ぎながら会話を続ける。


「兄ちゃん、いくつになった?」

「三十になりました!」

「ほうか。そろそろ結婚とか考えとらんのか?」

「考えた事もありますよ」

「お相手はおるんか」

「う~ん、居るような、居ないような」

「なんじゃいそりゃ」

「まあ、人生いろいろですよ。はい! かけ饂飩うどんお待たせしました!」


 ネギと蒲鉾かまぼこが乗ったシンプルな饂飩うどんを客の前に出す。


「う~ん、これこれ。この香りがたまらんのよ」

「うちの自慢は――」

「わぁ~っとる。つゆも旨いが麺が自慢なんやろ」

「はい!」

「もう~何回聞かされたことか」


 呆れ顔で割り箸を割る常連客。

 その割り箸で饂飩うどんを持ち上げ、目尻を下げながら見つめる。


「自慢するだけのことはあるわな」


 そう言って口に運び、だしがまとわりついた饂飩うどんを一気にすする。

 饂飩うどんを愛おしそうに味わい、至福の表情を見せる。


「このコシ、舌触り、喉越し、いつ食べても最高やな」

「ありがとうございます!」

「そう言や聞いた事なかったけど、どっかで修行でもしたんか?」

「師匠からほんの少し教わりましたが……」

「なんや、はっきりせんな」

「……これは二人で作り上げたものなんですよ」

「二人? 相棒がおったんかいな。そいつはどうした」

「別の道を歩んでると思います」

「なんぞあったんかいな」

「人生いろいろですよ」

「まあ、言いたぁない事もあるわな」


 店主が笑顔で返すと、常連客は再び饂飩うどんの世界へ帰っていった。

 つゆまで飲み干し、饂飩うどんを堪能した常連客は笑顔で席を立つ。


「ありがとうございました! またのお越しを!」

「おぅ、また来るわ」


 入口の扉が閉まり、店内に静寂が訪れる。

 

「人生いろいろ、か……。元気でやってるのかなぁ」


 その表情は、懐かしむようでもあり、悔やんでいるようにも見えた。

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