第4話 死神と勇者

 「なあ、勇者さんよお。」

暗闇から手が伸びてきた。

ぐいっと闇に引き込まれる。

俺はとっさに、剣を抜く。

「誰だっ!」

「俺は、死神。お前さんを殺しに来たぜ。」

「どういうことだ?」

「お前さんは、運命に抗おうとしちまった。だから、消さなくちゃならないんだ。」

「運命_?」

「ああ、お前さんは本当は異世界で死んで、地界に来たところまでは正しかった。ただ、配信者をはじめて、お前さんは復讐しようとしてやがる。しかし、地界ではそこまでの自由は保障していない。お前さんは復讐してはならないのだよ。」

そう言って、黒いローブを着た少女の姿の死神が鎌をかまえた。

「意味が分からないな。運命とは抗うためにあるんだろう。それに、復讐しようがしまいが貴様らには関係ない。俺の自由だ。」

そう言って、俺は剣を構えなおす。

「お前さんが死んだ以上にはそういうわけにもいかん。」

そう言って、死神は瞬き一つの間に俺の背後に移動して俺の首筋に鎌を近づける。

速すぎる。

視えなかった。

これほどの速さで動けるものは、俺が戦ってきた中でもなかなかいなかった。

まあ、魔王と比べてもやはりこいつの方が速い。

そんなことを考えていると、死神は

「最後に言い残したいことはあるか_?」

と、聞いてきた。

「ねえよ。もう死んだだ。」

俺は、がっくりと腕を下ろした。

そして、死神の隙をさがす。

しかし、死神は名前の通り神様だと聖典に書いてあった。流石というべきか、やはり一切の隙がない。どうするべきだろうか。

「あ、そうだ。お前、契約するなら助けてやってもいいぞ_?」

急に気まぐれを起こしたかのように死神はそう言った。

「契約_?」

「ああ。私がお前に力を貸してやる。その代わりに地界での死後、お前の魂は私のものだ。」

「地界でも死ぬことはあるのか_?」

「あ、うん。一応あることはある。」

「契約したら俺の事殺さないか_?」

俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。俺から全てを奪ったあの国王を殺すまでは、何があっても死ぬわけにはいかないのだ。

「ははっ、やはり面白い。それを聞いたのは貴様が初めてだ。」

「答えをはぐらかさないでもらえるか_?」

「ああ、わかったよ。殺さない。運命の輪から外れようとするものを外れさせて怪物にするのもまた一興だ。」

死神は底冷えのするような心地のいい笑みを浮かべてそう言った。

「なら、契約しよう。」

復讐は自分の力でやり遂げる。

絶対に死神こいつの力は借りない。

しかし、この場で死ぬわけにはいかないから契約をするか。

復讐が終わった後で俺の魂がどうなろうと俺はどうでもいい。

復讐を成し遂げられればそれでいいのだ。

「よっしゃ。契約成立だ。」

死神はそう言って、俺の胸に指をした。

「何かしたのか_?」

不思議に思い、俺がそう聞くと、

「心臓の部分の皮膚を見ればわかる。」

と、ほほ笑んで言われた。

意味が分からない。

そう言えば、いつか読んだ本に死神と契約をすると胸に契約のしるしが現れる、と書いてあった気がする。

家に帰ったら確認するか。

「で、お前の家はどこだ?」

「家に来るのか_?」

「当たり前だろう。契約している以上は勝手に死なれると困るし、いつだってそばを離れないからな。」

「そうか。俺の魂が欲しいのに俺に死んでほしくないのか_?」

「お前の地界でのせいなど、この私からしたらまばたきをするほど短い時間だ。せっかくだから、そのくらい待ってやってもいい。」

「そうか。」

確かに、相手は一応神様なのだ。

俺の地界での生など、本当に短いのだろう。

「で、どこだ?」

「ああわかった、ついてこい。」

そう言って俺は歩き始めた。

この事がこれからの復讐に少しずつ影響が出てくることを知らずに。

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