第8話 アンファサマブル・ジオメトリ――再構築の記録
迷宮の最奥部。あなたとイサールはナリティが遺した構造物――「アンファサマブル・ジオメトリ」と向き合っていた。それは単なる物理的な建造物ではなく、空間そのものを変形させる力を持つ幾何学だった。
その構造は刻々と形を変え、見る者の認識に合わせて異なる姿を映し出す。イサールはそれを凝視しながらつぶやいた。
「この構造そのものがナリティだ。彼らが残した『記録』であり、『意志』なのだろう。しかし、理解するにはまだ未知の法則が隠されている。」
あなたが目を凝らすと、その複雑な幾何学の中に周期的なパターンが浮かび上がった。それは一見ランダムに見えた形状が、実は秩序と無秩序の境界にあることを示唆していた。
イサールは迷宮を歩きながら、ゼノリンギスティクスの専門家であるヴァーラ・アムラダの話を思い出していた。彼女はかつてこう語っていた。
「ナリティの言語は、宇宙そのものを再定義する鍵だ。ただ解読すればよいというものではない。それは共鳴し、受け入れ、問いを理解する力が必要なのだ。」
彼女はまた、ナリティが選択を恐れた理由についても述べていた。
「ナリティは、自らの選択が他者を巻き込むことを恐れたのだろう。それゆえに、言葉と形という形で未来を託したのだ。選ぶのは私たちだ、と。」
イサールの目には、その言葉が現実となっているように映った。
あなたとイサールがさらに構造を調べると、奇妙な現象が起こり始めた。一歩近づくごとに、時間の流れが歪み、過去や未来の断片が目の前に現れる。それは単なる幻ではなく、ナリティの記憶の一部が空間に映し出されているようだった。
その断片の中で、ナリティがこの幾何学を構築している様子が見える。彼らの姿はぼんやりとしているが、その意志ははっきりと感じ取れた。彼らは虚無から「形」を創り出すことで、崩壊を超えて新たな秩序を生み出そうとしていたのだ。
イサールがふと口を開いた。
「ナリティの言語とこの幾何学には深いつながりがある。もし言葉が響きであるなら、この幾何学は視覚的な言語と言えるだろう。」
彼は解析を進めながら、中心に触れるべきかどうかを慎重に考えているようだった。そして意を決したかのように、幾何学の中心にそっと手を伸ばす。
その瞬間、迷宮全体が震え、完全な静寂に包まれた。続いて現れたのは、まばゆい光の存在だった。それはナリティの意志そのもの――明確な言葉を発することなく、感覚として直接伝わる「問い」だった。
「君たちは選ぶ準備ができているのか?」
その問いは言葉ではなく、あなたの意識に響く。それは、ナリティが遺したすべてのもの――虚無、迷宮、そしてゼノ・フレーズ――が新たな未来を紡ぐための基盤であることを暗示していた。
イサールが慎重に答える。
「答えを出すのは君だ。だが忘れるな。選択には責任が伴う。ナリティが言葉と幾何学を遺した理由をどう受け取るかがすべてを決める。」
あなたは光の存在を見つめ、言葉にできないほどの重みを感じる。それは恐怖ではなく、希望にも似た感覚だった。
未来の選択が今、あなたの手に委ねられている。
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