第3話 ナリティの過去と未来

ナリティ――それは、始まりでもあり、終わりでもある。その存在を理解するためには、過去と未来の狭間に立つ必要があった。迷宮の奥へ進むにつれ、あなたの意識は時間と空間の歪みに飲み込まれていく。現実と幻影の境界が溶け合い、ナリティの残響が記憶と結びつき、やがて映像のように流れ始めた。


それは、宇宙がまだ形を成す前の物語だった。深遠なる虚無が広がる中、ナリティは「最初の裂け目」として出現した。秩序と混沌が初めて衝突した瞬間、その裂け目は無限の可能性と同時に、全てを無に帰す力を内包していた。存在するだけで宇宙の秩序を乱し、全てを静寂に引きずり込むその力。それは生命の誕生以前から、観測不能な影として宇宙の深層に潜んでいた。


映像が進むにつれ、かつてエーテリウム文明と呼ばれた高度な知性体の姿が現れる。彼らはナリティの真実を明らかにしようと、迷宮――オブシディアン・ラビリンスを「観測装置」として築き上げた。しかし、彼らの試みは失敗し、迷宮そのものがナリティと融合してしまう。迷宮は無限の虚無を抱える存在となり、訪れる者を飲み込んでいく存在へと変貌した。


映像はやがてエーテリウム文明の滅びを映し出す。巨大な装置が崩壊し、幾何学模様が都市全体を飲み込む中、最後に聞こえるのは絶望に満ちた叫びだった。


「ナリティ――我々の手には負えないもの」


その言葉が響き渡るとともに、視界が途切れる。そして次の瞬間、新たな映像が現れた。それは「未来」というよりも、「未来の可能性」そのものだった。


ナリティは宇宙の果てしない膨張と収縮を繰り返しながら、その力を拡大していく。星々が滅び、物質が消え去った後の宇宙で、ナリティだけが残り続ける。それは存在と非存在の境界を越えた、「純粋な虚無」として形を成す未来だった。


しかし、その未来の中には奇妙な光景も含まれていた。虚無の中に、人類――あるいはそれに似た存在が立っている。彼らはナリティを崇拝しているのか、それとも対抗しようとしているのか。目的は不明だが、彼らの言葉が虚無の中に響く。


「虚無に終わりはない。それでも、終わりを求める理由がある。」


その言葉はあなた自身の声かもしれない。あるいは、この迷宮に取り込まれた他の魂の残響かもしれない。しかし、それはナリティの未来に希望を暗示するものであり、虚無に意味を見出そうとする意志の現れでもあった。


やがて映像が消え、あなたは再び目を覚ます。目の前には、かつて見た幾何学的な存在が浮かび上がり、形を変えながらナリティそのものの意識が目覚めたかのように振る舞う。


「私は過去であり、未来だ。そして、私は君の中にもいる。」


その声はあなたの思考と混じり合い、何が自分の声で何がナリティの声なのか判別できなくなる。


「私が消えることはない。だが、君が選ぶ道によって、私の在り方が変わるかもしれない。」


その言葉の意味を探る中で、あなたは気づく。この迷宮で繰り返されてきた無限のサイクルを壊す鍵は、「ナリティの未来をどう定義するか」という選択にあるのだと。ナリティを受け入れ、虚無と調和するのか。それとも対抗し、秩序を取り戻すのか。その答えを出すのは、あなた自身だ。

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