金魂絶鋼侯（きんたまぜっこうこう）・ガルグゴルムさま。

魔王様の腹心であり、魔王軍の総指揮官であり、そして私たち四魔侯にとっては『上司』とでも言うべき存在。

その彼の執務室へと喚び出された私は、告げられた言葉によって絶望の滝壺へと叩き落とされていた。

表向きこそ何とか平静を装ってはいるものの、内心は絶望や恐怖、苦悩や混乱で千々（ちぢ）に乱れ切っていた。

重々く咳払いをした金魂絶鋼侯（きんたまぜっこうこう）さまは、私をじっと見下ろしながら再びその口を開く。

「壖土侯（ぜんどこう）殿よ、宜しいな。

貴侯には勇者一味の『威力偵察』に趣いて頂きたい。

本気で戦いを仕掛けるのでは無く、探るように攻撃を仕掛けて奴らの能力や戦い振りを見極めるのだ。

明日にでも城を出発し、早々に務めを果たされよ。

これはな、魔王軍の盛衰にも関わる重大な任務である。

急を要する事態なのだ。

宜しく頼み申す」

私は俯いたままで、頭の上から響き来る重々しい言葉に耳を傾けていた。

金魂絶鋼侯（きんたまぜっこうこう）さまの背丈は私の倍ほどもあるので、彼が椅子に座っていたとしても、そのお顔は仰ぎ見るような高さに在る。

聳え立つ巌（いわお）のようなお身体から響き来る重々しき声音は、まるで死の宣告のように思えてしまう。

まるで冷たい水のように、絶望が身体に染み渡って行くかのようだった。

私は心の中でこう絶叫する。

『嫌だっ！

絶対に、絶対に嫌だ！』と。

部屋の中をふわふわと漂う浮遊蝋の赤紫の灯がゆらゆらと揺らめく。

それはまるで、怯えきった私の内心を嘲笑っているかのように思えてしまった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい