特別刑務作業 09
翌日――。
「起床ーー!!」
朝の鐘と共に、刑務官の声が監房内に鳴り響く。
ショウジは目をこすりながらベッドのハシゴを降りるとちょうど自身に変身魔法をかけていたヴィクトルと目が合った。
「………」
「………」
ショウジは昨日の事を思い出し、目を逸らすと無言のまま房を出た。
「さて、今日から貴様らはボルガノフの本質を知ることになる」
監房前広場で刑務官が不敵に笑いながら説明を始めた。
「今日は朝から貴様らにとって初めての特別刑務作業。即ち魔物討伐だ。
知っている者も多いと思うがこの監獄都市ボルガノフの西側には広大な自然が広がっている。
年中地上に日が差し込むことのない濃い森林、
一万年雨が降っていない砂漠、
魔物最強種ドラゴンが多数住み着く丘陵地帯、
未確認の魔物が多く潜む巨大洞窟、
血液までも凍らす永久凍土地帯
…少々話が逸れた。
つまり、これらの魔物が増えすぎて監獄を襲わないよう定期的に間引きするのが特別刑務作業の目的だ。
今回の貴様らの討伐対象は先日確認されたオオカミ型の魔物『スパイクハウンド』の群れ約30体。場所はこの島の南部森林地帯だ」
刑務官の声が、冷たい空気に響き渡った。
「スパイクハウンドが30体!?」
「おいおいヤベェ仕事を押し付けられたぜ。
軍レベルの討伐作戦だぜ?ま、俺なら余裕か」
「誰が生き残るか賭けねえか?
ちなみに俺はあの根暗アホ毛野郎に1000ボル賭ける」
「おぬしもギャンブラーですねぇ…」
囚人達がざわめく。
知らぬ間に賭けの対象になったショウジは生き残れるか不安でしかなかった。
ショウジだけでは無い。元詐欺師や元泥棒など、元々腕っぷしに自信がない者達は皆一様に絶望していた。
「嫌なら辞退しろ。ただし、その場合は反省の色無しとみなされ、刑期は伸びるがな」
ショウジは震え拳を握り、ヴィクトルの方を見た。
彼女は顔色一つ変えていない。
彼女の謎はまだ多い。が、それでもその精神力の強さだけは確かなものだ。
こうしてショウジ達は刑務作業へと向かうのだった――。
◆◆◆
ショウジとヴィクトルは他の囚人たちと共に目的地である森の少し入った開けた場所へと連行された。
「……何だよこれ」
森の中は昼前だというのに薄暗く霧がかかっていた。
獣の腐臭が立ち込め、地面には骨が散らばっている。
「ここから10キロほど入ったところがスパイクハウンドの出没エリアだ」
刑務官はニヤリと笑う。
「討伐した証としてスパイクハウンドに見られる特徴的な首の突起部分を採取してもらう。
勿論多ければ多いほど刑期は短縮され
「死んだら?」
囚人の一人がおずおずと聞いた。
「無論、ここで死んでも監獄はなんの責任も取らないし、死体の回収も認めない。ああ、言い忘れていたが特別刑務作業中の囚人同士の殺し合いは禁止だ。もし殺したとしても刑期の短縮は行わない」
ショウジはホッと息を吐いた。
少なくとも後ろから刺されることはないらしい。
魔物の討伐だけに集中していればいいのだ。
「それでは8時間後にここに迎えに行く。そのまま逃げようなんて思うなよ?
貴様らの居場所は全てその腕輪で把握している。
ま、俺達が処罰する前に魔物に食われて死ぬだろうがな」
刑務官達は笑いながら去っていった。
「テメェら!狩るぞ!
殺した魔物はまず俺に献上しろ!終了間際に分配してやる!」
「行くぞ、囚人達!我ら労働派には団結と商人派から供給される物資と武器がある!我々だけでも生き残るのだ!」
獄王派と労働派のそれぞれの幹部は各々のグループをまとめ出立していく。
商人派は労働派、そして獄王派にも半々ずつ別れてついていきおこぼれと引き換えに物資を提供するようだ。
残されたのは孤独な中立派数人のみだ。
ちなみに獄厨派はいない。
彼らは刑期が短縮されるという刑務作業の特性上その全てをボイコットしている。
勿論罰は受けるがそれでも気にしないのが彼らの狂気だ。
「行くしかないか…」
ショウジは震える脚を叩き、暗い森の中へ中立派数人と共に進んでいった。
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