真昼との水族館デート 前編

「つーことで、到着したな」

「そうね! もう、今から物凄く楽しみよ!」


 あれから電車に揺られつつ、俺たちは八景島まで到着した。やはりと言うべきか八景島も八景島で、直ぐ近くが海であるため、潮風が冷たい。


 因みに真昼は水族館に行けるからなのか、いつにも増してはしゃいでいる。それが本当に可愛い。それに普段とは違い、ヒールも履いてる事で、印象がガラッと変わってもいるからだろう。………………あ。



(やっべぇ……)



 ここまで真昼と話すのが楽しすぎて、伝えないといけない言葉をまだ伝えていない事を思い出した。今更言うのもなぁとは思うが、流石に言わない訳にもいかないので、怒られるのを承知で口にする。


「あぁー、真昼……」

「ん? どうしたのかしら、シンヤ」

「いや、そのぉ、……完全にタイミングを逃してたんだけどさ。そのヒール、似合ってる。それも喧嘩の時に履いてたヒールだろ?」


 その言葉を聞いた真昼は、ようやく言ってくれたと言わんばかりに、ぷくぅっと頬を膨らませ、『遅すぎるわよ!』と怒りだす。


「もう、いつになったら言ってくれるんだろうって、ずっと不安だったのよ」

「あははは……、いや、ほんとすまん」

「はぁ……、まぁいいわ。こうしてちゃんと褒めてくれたから」


「ふふっ、シンヤの助言通り、あれから少しずつ慣らしていったのよ。おかげで靴擦れはもう起きないし、今じゃ問題なく歩けるわ!」


 一度、繋いでる手から離れ、くるりと回りながら、そう嬉しそうに伝える真昼を見て、ついつい微笑んでしまう。なにはともあれ、気に入った物を捨てる事が無くて良かった。


「なら、今日の真昼は完全にあの時の雪辱を晴らせたんだな」

「うーん、そうね。あの時の心残りはもう無いわね。こうしてヒールも履けたし、今の私を褒めてくれたし、シンヤのおんぶも堪能出来たから」

「そっか」


 心残りがないなら良い。これで『あ、まだ健斗とのデートをやり直してないわね』とか言い出したら、反応に困る所だった。


 だが、真昼は思い出したかのように、『あ、もう一つ、大事なのが残ってたわ』と口にする。


「大事な?」

「ええ! ふふっ、でもそれは今日で解消されるから良いわ」

「なるほど、そう言う事か」

「そう言う事よ」


 まぁそれについては期待してもらうとして、今はとりあえず、水族館からだ。


「まぁそれは追々として、水族館に行こうか」

「あの時はデートじゃなかったから、物凄く楽しみ! なんで、デートにしなかったんだろうって、ずっと後悔してたの」


 なんだ、真昼もそう思ってくれていたのか。まぁあの時の真昼はまだまだ高橋に夢中な時期だったからな。でも、そう思ってくれていたのなら、あの時の選択にもちゃんと意味があったと言うことだ。


「なら、これもちゃんと今の想いに上書きだな」

「勿論よ、シンヤ!」


 真昼はそう微笑みながら、再度手を繋いだ状態で水族館へと向かって行った。



***



「きれ~い!」

「流石、関東で1番大きいと言われてる水族館だな。広いし、内装も綺麗だ」

「そういう所を気にするの、シンヤくらいよ」

「別視点と言うのもアリだと思うぞ」

「そう言う事じゃないと思うわ……」


 因みに俺たちは現在、LABO1という小さい魚たちが展示されているエリアにいる。キイロハギやカクレクマノミ等、様々な小さいながらも人気の魚たちが多くいる。


「昔、カクレクマノミは今以上に人気だったらしいぞ」

「そうなの?」

「何かの映画で流行ったって話だ」


 何だったかな……。ガキの頃に親のDVDで見たような気がするが思い出せん。


「シンヤって博識よねー。ねぇねぇ、このお魚さんは?」

「流石に魚までは網羅してないよ。つーか、それキイロハギじゃないか」

「やっぱり博識じゃない」

「それは、シーパラのキャラクターフィッシュだ」

「ふぇ?」


 まさか、知らなかったのだろうか。ジーと真昼を見つめていると、次第に顔が赤くなってくる。どうやら本当に知らなかったらしいな。



「ぷっ、あはははは! 知らなかったのか!」

「わ、笑い事じゃないわ! し、仕方ないじゃない。お魚さんを見るのは好きだけど、その、種類とかまでは……」

「あははは。いやまぁ、それが普通だよな」

「むぅぅ、笑うなんて酷いわ。シンヤのバカバカバカバカバカ」


 可愛く怒りながら、ポカポカと叩く真昼は何ともまぁ可愛い。それに真昼の表情は怒っていると言うより、何処か楽しげな表情を浮かべている。


「いやぁ、すまんすまん。ほれ、次の展示に行こう」


 手を繋いでいるので、優しく引いてあげると、はにかみながら真昼は付いてくる。


「シンヤ」

「ん、なんだ?」

「手、離さないでね」


 その言葉と共に、真昼はぎゅっと繋いでる手を強く握る。まるでもう何処にも逃さないかのように……。


「離すも何も、真昼が離さない気満々だな」

「ふふっ、餌にかかったお魚さんね」

「真昼が?」

「シンヤが」


 この際、両方でも良いだろと思ったが、敢えて口にするのは止めた。真昼の表情は何処までも俺に優しげな笑みを浮かべていたからだ。


 とは言え、魚に例えるのはどうなのかと思い、少しからかうことにした。


「そうか。俺は魚だったのか……。つまり、釣り上げた真昼にいつかは喰われるのか」

「ん? シンヤ、それはどう、いう……」



 何を想像したのかは知らないが、真昼の顔はさっきよりも一層赤くなる。からかうのはここまでだな。



「さ、行くか」

「…………うん。……バカシンヤ」



***



「ねぇねぇ、シンヤ! ペンギンさんよ!」

「分かってる分かってるから、引っ張るなよ」


 それからLABO2、3と見ていき、今はLABO4にいる。まぁここは真昼なら絶対にはしゃぐだろうなと思っていたが、案の定だった。ここはホッキョクグマやペンギンなど、氷の海で住む動物たちが展示されている。


 そこに着いてからの真昼は目を輝かせながらペンギンやホッキョクグマを見ている。どう見ても、真昼は魚より、こっちの方が好きだよな。


「うわぁぁ、可愛いぃぃ」

「いやほんと、真昼の方が可愛いから……」

「ふぇ!? し、シンヤ? い、今……」

「あ、やべ」


 思わず口に出てしまった。そういや、前も似たような事を口にしたっけ。


「……もう一回、言って」

「ペンギンは?」

「ペンギンよりも、大事なの!」

「…………真昼の方が可愛い」

「っーーーーー!!」


 その言葉がかなり嬉しかったのか、ペチペチと真昼は俺の肩を叩く。


「えへへへ、シンヤが可愛いって、言ってくれたわ」

「嬉しそうだな」

「だって、デート中に可愛いだなんて、始めて言ってくれたから……」

「そうだったか?」

「そうよ」


 そういや、真昼と2人でデートするのって、真昼が落ち込んでた時以外だと、無かったな。だとすれば言っていなかったかもしれない。


「ま、俺はずっと、真昼の事は可愛いと思ってるよ」

「……そうやって平然と恥ずかしい事を言う。だからタラシなのよ」

「いつになったら、卒業出来るのかねぇ……」

「無理ね」


 ついに真昼からも不可能宣言を受けてしまった。げんなりしていると、『あははは!』と真昼は笑っている。



「割と死活問題なんだけどなぁ」

「なら、これからは私だけにしなさい。そうすれば解決よ!」


 良い考えだと言わんばかりにドヤ顔をする真昼を見て、ついつい笑ってしまった。なるほど、確かに真昼にだけタラシプレイをする分には問題ないだろう。


「そう出来るよう、頑張るよ」

「えぇ! 楽しみにするわね」

「へいへい。ほれ、そうこうしてるうちに、ペンギンが水に飛び込もうとしてるぞ」

「え、本当!? ……あ、見つけたわ。可愛いぃ!」



 やれやれ、今日も今日とて、真昼の表情はコロコロ変わる。今日はあと、どれくらい変わるのか、それがちょっとした楽しみでもあるが、今は真昼とのデートを堪能しよう。

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