第5話 堕蛇、旅立つ
バクが旅立つ決意をして一週間後、彼女は必要な物を用意して、いよいよ旅立つことになった。着るものは転生した時に着ていた制服のブレザーとスカートであり、そんな装備で大丈夫なんですか?とトニオは心配したが、バクは着慣れている物の方が戦いやすいと言った。
バクの旅立つ姿を一目見ようと村の門のところに集まる村人達。バクは自分の為にこれだけの人が集まったのかと思うと誇らしくなったが、また調子に乗ってしまうといけないと自分に言い聞かせる。
「辛くなったら、いつでも帰って来て下さいね」
トニオが優しい言葉を掛けてくれた。それはバクにとっての甘言であり、そうならない様にしないといけないのであり、トニオの元に帰るのは魔物の活性化現象の原因を突き止めて解決してからでなければいけないと心に固く誓っている。
けれどトニオの優しさに応える為にバクは「うん、ありがとう」と笑顔で返答した。
その後に魔猪から助けた子供がトコトコと歩いて来て、バクにペコリとお辞儀をした後「ありがとー」と言ってくれた。バクにとってみれば、助けたのはたまたまであり、どちらかといえば自分の身を守るために魔猪を倒したのだが、お礼を言われて悪い気は全然しなかった。
最後にトニオと熱い抱擁を交わし、自分が舞い降りた村を後にするバク。この村に降りたことはバクにとって幸運であった。どうしても彼女には立ち直る時間が必要であったし、トニオの温かな愛がなければ、どうなっていたか分からない。
ナスカの村から出ても、暫くは後ろを見ながら歩くバク、トニオと村人達がいつまでも手を振ってくれているからである。人から見送られるなんて経験はバクにとっては初めてであり、心が温かくなるのを感じ、あの村の人達の為にも頑張ることにした。
見渡す限りの草原を歩くバク。何の当てもなく闇雲に歩いているわけでは無く、とりあえずナスカから一番近い町であるオームを目指すことにしていた。そこになんでも昔、邪竜を封印するのに使っていた丈夫な鎖があるらしく、それを手に入れる為ことがバクにとっての最優先事項であった。
バクの能力は自分が手で触れたことのある紐状の物を操る能力であり、それ以下でもそれ以上でも無かった。上手く操ることもさることながら、紐状の物体その物の強度が重要になっている。
死ぬ前に使っていた鎖を砕かれ、魔猪との戦いで使っていた鎖も一度使っただけでヒビが入ってしまい使えなくなってしまった。それを考えると強い鎖を手に入れなければ死活問題に関わってくる。
「絶対成り上がってやるんだ」
ぼそりと呟くように喋るバク。今度こそ幸せになるのがバクの目標であり、真っ当なことをして人々から賞賛されることを彼女は望んでいる。自分の信じた人に裏切られて使い捨てられた惨めな人生を払拭し、蛇が脱皮する様に新たな自分に生まれ変わる。そうなる為にはいかなる手段も辞さない心構えであった。
はたして異世界転生した堕蛇は成り上がることが出来るのか?それは今の現段階では分かりかねる。
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