第5話 イリス視点2

 ダイスケ様が持っていたスキル【業務用スーパー】は最強のスキルでした。


 ある日、屋敷の中で家事をしながらダイスケ様を見ていると庭に出てコソコソと何かを操作し始めました。この人は何をしているのでしょう。


 しばらくするとダイスケ様の目の前にいきなりパンらしきものが出てきました。

 えっと、何ですか今のは?

 見間違いかと思い、目を擦りましたが大きなパンが確実にそこにありました。


 ダイスケ様はパンを大事そうに抱え込み、にやけ顔。

 そしてそれをとても美味しそうに食べ始めました。

 ダイスケ様のその行為は魔術なのかスキルなのかよく分かりませんが、そのパンには興味がありました。 


 「あっ、ダイスケ様が隠れてパンを食べてる!」


 私が外に出て声をあげるとダイスケ様はとても嫌そうな顔をしました。もしかして一人占めして食べる気だったのでしょうか。


 ダイスケ様が言うにはどうやらスキルで異世界から食料を取り寄せることが出来るようです。そんな話はすぐには信じられなかったのですが、目の前からパンが出てきたので信じるしかありません。


 私はそのパンを試しに食べさせてもらいました。

 

「これは最初からバターが塗られてるのですか?でも表面は真っ白で何も塗られていないですよね?というかパン自体が柔らかすぎる!口の中がまるで天国です!」


 ダイスケ様のスキルで出したパンはフワッフワでとても美味しかったのです。普段食べている固いパンは比べ物になりません。

 ですが追放された勇者であるダイスケ様はなぜこのような食料特化のスキルを持ってるのでしょうか。


 そもそも勇者様は特殊なスキルを持ってこの世界に召喚されます。

 普通は魔獣の討伐や冒険を進めるための有利なスキルが備わっているものと伝えられています。


 しかし、ダイスケ様の能力はかなり変わっていました。

 詳しく教えてくれましたが、その能力は異世界のとあるお店から料理や食材を持ち込むことが出来るというものです。


 一般的な勇者様は旅に出たりダンジョンと呼ばれる魔獣たちが生息するエリアを攻略するために戦闘能力やスキルが必要です。その場合、戦闘に使えるスキルがあれば有用でしょう。


 しかし、この国で生活をする庶民にとっては戦闘能力よりも必要なのは食料を確保する能力です。

 今の食料難の状況では食べ物の確保が一番大事です。ダイスケ様のスキルは食料を確保するという一点においては明らかに破格でした。


 現状では貴族や上流階級の方、一部の王都に住む人々を除いて多くの人が十分に食料にありつけることが出来ません。それは慢性的な食料不足と食べ物の値段が高すぎることが原因です。


 対策として外国から一部食料を輸入して補っていますが、それは貴族か王家の方々で消化されます。王都に行けば野菜や食べ物は売っていますが、はっきり言って値段は高めです。

 つまり自給自足出来る能力はそれ自体が貴重です。ダイスケ様のお陰でお腹が空いて餓死するなんて懸念は無くなったのです。


 この国では通常、何日も保存して固くなってしまったパンやジャガイモを砕いたスープなど簡素な食事をすることが多いです。現状、庶民はこのような食事をして慎ましく食事をするのが普通でした。


 一方私たちの食事は生地がフワフワでほのかに甘いパン。ジャガイモにチーズを乗せた料理。鮮やかな色をしたトマトスープ。

 どれも今まで食べたことがない素晴らしい料理の数々です。

 しかもダイスケ様の料理を食べているとなんだか体の調子が良くなっているような気がしました。


 このように夢のような食事をいただくことが出来て私はそれだけで幸せです。こんな美味しい食事を食べるのは貴族の方々、いや国王陛下でも無理でしょう。


 そんな幸せな日々をダイスケ様と過ごしていたある日、夜中に屋敷の窓が割れる音がしました。


 私はついにきたかと思いました。

 というのもここは有名な離れの屋敷。近くには森から魔獣たちが徘徊しており、いつ襲われても不思議ではないのです。


 私は覚悟を決めるとダガーを掴んでゴブリンたちの首を落とし、心臓を貫きました。

 庭がゴブリンの死体で汚れ、返り血を浴びましたが仕方ないでしょう。王都の外に一歩でも出てしまったらこれが普通です。

 

「庭が汚れてしまいましたね。ってダイスケ様大丈夫ですか?」


 その様子を見ていたダイスケ様は恐怖で震えているようでした。

 屋敷に魔獣が出ることを知らなかったのかもしれません。

 こんなことには早く慣れてもらうしかないのですが。


 ダイスケ様は本当にステータスが低く目立った能力もないようです。

 でも食料が生産できるという素晴らしいスキルに比べたら戦闘ができないことは些細なことでしょう。

 魔獣が出ることも大した話ではありません。私が魔獣に対処すればいいだけです。


 むしろ心配なのはダイスケ様のスキルが広く知れ渡ってしまうことです。

 もしダイスケ様のスキルが広く知れ渡ったらこのスキルを利用しようと企む悪い輩も現れるかもしれません。そうならないためにも私達だけの秘密として目立たないように生きていくべきです。


 と思っていたのですが、ダイスケ様は王都である事件を起こし王国で一番目立つ人物になってしまいました。


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