第44話 ゲイブランド魔人国殲滅計画


「私たちはゲイブランド魔人国を殲滅することを決めました」


 ある日、女王であるナーシャは屋敷に来ていきなりそう宣言した。


 ゲイブランドはセデリア王国の北に位置する魔人で構成された国だ。セデリアとは歴史的経緯から険悪な関係が続いている。


 そして最近、セデリア北部に領地を持つ辺境貴族・ヴェルター家がゲイブランドへと寝返った。さらに、魔人幹部レヴィを匿っていたとして南部のモンクレール家も身分を剥奪され、追放されるという事態に至った。


 このまま魔人国を放置すれば、他の領主たちにも離反の動きが広がる恐れがある。それを重く見たナーシャはゲイブランドの討伐を決断したのだ。


 現在、ゲイブランド軍は「三傑魔」と呼ばれる幹部たちを中心に、常に国境沿いに軍を展開しセデリア側の国境警備兵と緊張状態を保っている。


 ナーシャは、国境の村バーネスに駐留する警備兵に加え、騎士団と魔術師団の一部を派遣し、ゲイブランドへの侵攻を開始する方針のようだ。その進軍部隊の指揮はベルトランが務めるらしい。


「目標は、残る三傑魔の排除。そして最終的には魔人王の打倒です」


 三傑魔の一人、死霊術を操るエリシアはかつて王都の戦いでドロシーによって討たれた。もう一人は、かつてモンクレール領に潜んでいたレヴィ。俺のスキルを見抜いたあの少女だ。残る一人は魔人の騎士らしいが、まだ姿を見たことはない。


 現在ゲイブランドには、残る二人の幹部と魔人王カルヴァンが健在だ。国境で戦闘が起こったとしても、魔人王自らが前線に姿を現すことは考えにくい。だがいずれはカルヴァンを引きずり出すのが作戦の核心らしい。


 クラリスとドロシーも召集を受け、戦場へ向かうことになった。屋敷で穏やかな日々を共に過ごしたのも束の間。二人と別れる時、柄にもなく名残惜しいと思ってしまった。


 「戦いだから仕方ないよ。でも僕たちが勝つって決まってるけどね」


 「ダイスケも達者でな。戻ってきたらまた美味い料理を作ってくれ」


 ついこの間まで他人だったのに、最近では二人のことを仲間のように感じ始めていた。だからこそ思う。戦場でもちゃんと食べて元気でいてほしい。

 

「ダイスケ様は同行できませんよね?」


 ナーシャはおずおずと聞いてきた。北方の国境地帯に位置する村は食糧事情が厳しく、王都の暮らしに慣れた兵士たちが生活するには不満が漏れることが想定されている。そこで【業務用スーパー】で軍の食糧を確保して欲しいとのことだった。


「俺は争い事に向いてないんだ。セドリックの件で分かったよ」


 平穏なスローライフを求めていたはずが、これまでに散々な目に遭ってきた。その結果得た結論は“ややこしい事態には有能な人間が対処すべき”ということ。俺の出る幕ではない。ただし、クラリスとドロシーが困っているなら話は別だ。


「もしもクラリスとドロシーに助けを求められたら、その時は参加してやる」


 俺が折れると、ナーシャは安堵の笑みを浮かべて頷いた。


 その日は屋敷でイリスとお互いに好きな料理を用意して夕食を食べた。食べている最中だというのに、あのクラリスとドロシーのことを考えてしまう。

 

「どうしたんですか?」


「早くゲイブランドとの争いが終わればいいなと思ってな」

 

 二人の話をするといつもイリスは笑みを浮かべる。


 とにかく二人とも無事に帰ってきて欲しい。途中で何かあの二人に何かあったら助けてあげよう。そう思って過ごしていたが、その日は意外と早く来た。



 ナーシャがゲイブランド討伐を決断し、軍を派遣してから数日後のことだった。


「国境に行ったクラリスとドロシーがダイスケ様を呼んでいるのですが」


 ナーシャは屋敷に来るなり苦笑いしてそう言った。


 要件は戦地の食事が壊滅的に不味く士気が著しく低下しているため、何とかしてほしいというものだった。現場の飯が不味いのは確かに問題だが、それにしても緊張感がない。戦況そっちのけで真っ先に飯の話を持ち出されるとは。


 ナーシャは不安げな表情を浮かべていたが、呼ばれたからには行かざるを得ない。飯を作るだけで役に立つなら喜んで行こう。

 

「分かった。バーネスとやらに行ってドロシーとクラリスを助けに行く」


「ですが、モンクレール邸で襲われた時と同じように争いに巻き込まれる可能性がありますよ?」


「それでも、行くって決めたんだ。あいつらは俺の仲間だからな」


 イリスを屋敷に残し、俺は北方の村バーネスへと急ぐことにした。


「必ずこの屋敷に戻ってくるからそれまでこの屋敷を守ってくれ」


「もちろんです!」


 イリスは真っ直ぐに頷いてくれた。俺は荷物をまとめ、ゲイブランド国境へと向かった。

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