アラフォーおっさんの異世界国家転覆〜外れスキルでスローライフしてたらなぜか俺の元に王国の実力者たちが集まって物騒な計画を企んでいるんですが~

アガタ シノ

第1話 外れスキル取得

「皆さま、私と一緒に国家転覆しましょう」


 王都から北に数kmにある屋敷。

 いつも通り夕食を食べていたら王女はいきなりそう言った。


 俺はその言葉を無視して料理を食べていたが、周りのメンバーはその計画に乗り気だ。王女はいつものように反乱計画をみんなに話し始めた。


「この王国がどうすればもっと良い国になるかを考えてみました。その方法は一つ、私たちが団結して王都に攻め込み国王を退位させる。そして・・・」 


 一瞬、間を置く。


「私が次期国王になります」

 

 王女の言葉に周りは拍手喝采した。中には涙を流す奴もいた。


 まずい。このままでは俺の平穏なスローライフが台無しになってしまう。なんとかしてその計画を止めなければ。


「ダイスケ様、もちろんあなたも参加しますよね?この計画には貴方のスキルが必要ですのよ」


 ダイスケというのは俺の名前だ。どうやらその物騒な国家転覆計画のメンバーに入っているらしい。


 しかし、俺はこの世界でゆっくり一人でスローライフがしたいだけだ。国家転覆なんかには絶対参加しない。


 王女の問いかけにみんなは期待の眼差しを向けてくる。


 みんな何を俺に期待しているんだ?俺はただの外れスキルを持ったおっさんだぞ?


 そもそもなんでこんなことに巻き込まれたか。この話はある日いきなり異世界に飛ばされることから始まる。



 俺は加賀大輔かがだいすけ。独身36歳。


 大学を卒業後、IT系中小企業に就職。しかし、会社はいわゆるブラック企業だった。


 会社は残業が当たり前で納期が厳しく、会社内で寝泊まりする人間もいるほどの過酷な環境。


 入社以来人間関係は悪く、先輩に仕事を教えられたことはなくまともな新人研修もないまま仕事をさせられた。それ以降我慢を重ねてずっとこの会社にいたらこんな歳になった。


 新入社員はほとんど1年以内にこの会社を辞めた。みんな自分の仕事で手いっぱいで後輩に仕事を教えるほど余裕のあるやつはいないので新入りはすぐにやめていく。


 そして新入社員の仕事がまた中堅社員に戻ってくる。そしてまた忙しくなる。そんな悪循環が続いている会社だった。


 そんなストレスが溜まる環境にいると現実逃避したくなるのは自然だろう。いつか仕事をやめて、どこかでのんびりと暮らしたい。日々そんな妄想をしていた。


 誰にも邪魔されずに好きな時間に起きて好きな食べ物を食べる。そうやって一人で生きたい。いわゆるスローライフ願望というやつだ。それが唯一の夢だった。


 そんな忙しい日常の楽しみと言えば自宅で料理を作ることだった。特に最近は家の近くに業務用スーパーができて料理が捗っている。


 日常のストレスの反動で一人で出来る趣味に楽しさや自由を感じたのかもしれない。美味い飯を食っていると日常のストレスから救われるような気がした。


 業務用スーパーとは普通のスーパーより値段が安く、しかも商品が大容量のスーパーだ。自炊する人にとって天国だった。


 使いやすくカットされた冷凍野菜、揚げるだけで飲食店並みに美味しくなる揚げ物、各国から取り寄せた珍しいお菓子。


 そんな商品たちを見ているとどんな料理を作ろうかと考えながら、ついつい大量に買ってしまう。


 とある休日のこと。いつも通り近くの業務用スーパーの店内に入ると、なぜかあたりは真っ暗闇だった。


 あれ?今日は定休日だったか。そういえば客や店員を一人も見かけないな。そんなことを考えているといつの間にか気を失った。



「陛下!勇者の召喚に成功しましたぞ!」


 誰かの叫ぶ声で意識は戻った。

 周りを見渡すと、そこは今まで見たことのない城のような建物。


 目の前には魔法使いのようにローブを着た老人がいる。奥には玉座があり、豪勢に着飾っている王様のような初老の男性。


 訳が分からず混乱していると近くで騒がしい声がした。


 「なんだ?何が起こったんだ!?」

 「おかしい、さっきまで学校にいたはず・・・」

 「みんな大丈夫!?ここはどこなの!?」


 どうやら俺の他にも召喚された人間がいるらしい。


 その3人はあきらかに若く、高校生のような制服を着ていることから一緒に日本から転移したということが分かる。


 いまいち状況が飲み込めない中、年老いた国王が片手を挙げると威厳ある口調で話始めた。


「そなたらはこのセデリア王国を救うために召喚されたのだ。勇者として旅に出て魔人王を倒し、この王国を救ってほしい」


 異世界、国王、勇者。

 もしかしてこれはいわゆる勇者召喚というやつか。俺は異世界に飛ばされて勇者になり魔王を倒すという話に巻き込まれているのかもしれない。


「さて勇者たちよ。教会に行ってスキルの鑑定をしてもらってくれ」


 言われるがまま俺達4人は教会に移動すると、そこには神父が待っていた。ここでスキル鑑定を行うのだろう。


 ほどほどのステータスであることを祈りつつ、自分のスキル鑑定の順番を待った。どうやら目の前で行われている高校生3人の鑑定は良い結果が出たようだ。


「これは驚きましたな。体力、攻撃、防御どれもハイスペックです。スキルも神に祝福されているとしか思えないものばかりですぞ。もちろんランクはA。これは期待できますな」


 スキル鑑定をした神父は水晶玉を見ながら驚きの声。その結果を聞いて高校生たちは得意げな様子である。


 そして俺のスキル鑑定の番が回ってきた。

 神父に促されるまま水晶玉に手をかざすと自分のステータスが見える。


―――――――――――――――

カガ・ダイスケ


冒険者ランク : Eランク

HP:11

MP:7

攻撃:6

防御:5

速さ:8

賢さ:12


【攻撃スキル】

なし

【魔法スキル】

なし

【固有スキル】

業務用スーパー


―――――――――――――――

 

 水晶玉から浮かんだステータスを見て苦笑した。予想はしていたが一目でわかる能力の低さだ。


 しかし、気になる単語がある。それは固有スキルの業務用スーパー。

 

 確かに元の世界ではよく業務用スーパーに通って買い物をしていたし、その食材で料理を作るのが趣味だった。 


 これはどういうスキルなのだろうか?スキル名だけでは何が発動するか分からないが、少なくとも戦闘などに使えるスキルではなさそうだ。


「大変申し上げにくいのですが、ダイスケ様は他の勇者に比べて格段に低いステータスとなっております。普通、召喚された勇者というのはほとんどBランク以上でステータスが高く有用なスキルをたくさん持っているはずなのですが」


 神父はステータスを見て首を傾げる。


「しかし、この奇妙な固有スキルは見たことありませんな。固有スキルは過去の経験やその人物の思想が具現化して取得されていることが多いのです。もしや強力なスキルかもしれません。試しにスキルの説明を見てみましょうか」


 神父の言葉を聞いていたのか、高校生たちから笑い声が聞こえる。


 「ぷっ、業務用スーパーなんて何の役に立つんだよ」


 馬鹿にするような高校生たちの言葉。それを無視してスキルの説明を見る。


―――――――――――――――

【業務用スーパー】


このスキルを使うと業務用スーパーと通信を行い、スーパーの品物をこちらの世界に取り寄せることが出来ます。


商品はGP(業務用スーパーポイント)を消費することで購入可能です。

...

―――――――――――――――


 スキル説明を読んでしばらく考え込む。


 なるほど。web小説のスローライフ系にありがちなポイントと交換して商品と交換できるタイプのスキルみたいだ。前世ではそういった類いのアニメやweb小説を見ていたので難なく説明を飲み込めた。


 冷静に考えるとさっきの弱小ステータスでは勇者になるのは不可能に近い。そうだ、勇者とかめんどくさいことは辞退してどこか辺境の地でのんびり過ごそうじゃないか。


 前世ではブラック企業で散々な目にあったし、もう誰かのために働くのは嫌だ。スローライフのお決まりである野菜畑を耕したり、収穫した野菜で料理をして自分のためにゆっくり生きるのだ。それが良い。


 スキル鑑定が終わると俺は別室で長いこと待たされた。高校生たちは兵士たちに守られ、国王とともに玉座の間へと移動したようだ。


 高校生と国王はこれから勇者になるべく段取りなどを話し合っているのだろう。しばらくして兵士に呼ばれ玉座の間に行くと、国王の態度はさっきと一変していた。


「ダイスケだったか。貴様はステータスも低く、スキルも魔人王討伐には使えそうもない。はっきり言って勇者としては使い物にならん」


 国王は急に見下すような態度になった。ステータスが低すぎて怒っているのだろうか。


 「貴様は魔人王を倒す勇者になど絶対になれない。だから誰の迷惑にもならないように隠れて暮らしてくれ。王都の郊外に離れの屋敷があるからそこで静かに暮らすと良い。くれぐれも大いなる力を持った勇者の邪魔はしないで欲しい」


 国王は一方的にまくしたてると、勝手に話を進めてしまう。


「そうだ、イリスはおるか。ついでにお前もその屋敷で暮らせ」


 国王が呼び掛けると、周りを取り囲んでいた兵士の中から一人、メイドが顔を出す。小柄で柔和な雰囲気の少女だ。


「この者はイリスだ。分からないことはその者に聞け。無能同士仲良く屋敷で生活するが良い」


 イリスは無能と言われて一瞬顔が引きつったが、律儀に礼をした。


「は、はい。ダイスケ様の身の回りの世話をさせていただきます、イリスです」


 国王は立場が低い人間には冷徹な対応をする人物のようだ。


 この国の事情はわからないし、とりあえず目上の人間には無駄に逆らわない方がいい。そう思って黙って話を聞いた。


「最近は魔獣共が各地に発生している。せいぜい死なないように気を付けるが良い。まあ貴様らが死んでも誰も悲しまないがな」


 そんな捨て台詞を最後に俺たちは兵士たちに囲まれて城から追い出された。


 仕方なく離れの屋敷に向かうため馬車に乗り込む。馬車ではイリスと軽い自己紹介をしながらお互いの話をした。


「イリスさん、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ない」


「いえ。従者ですのでイリスと気軽に呼んでください」

 

 話をしているとやがて国王が言っていた屋敷が見えてきた。周りを平原で囲まれている静かな場所だ。


 こんな大きな屋敷に一人で住むとなればとても快適だろう。一軒家で静かに暮らすことに憧れを持っていたのでテンションが上がった。


 屋敷に入るとイリスが案内してくれた。部屋はいくつかに別れており、家具も一通り揃っている。住むのには不自由ない環境である。


「ところでイリスはあの城からここに毎日通うのか?」


「いえ、この屋敷に住み込みで働きます」


「そうなのか。使う部屋はどうする?」


「ダイスケ様は一番大きい部屋を使ってください。私はリビングに近い部屋を使うことにします」


 イリスは身の回りの世話を住み込みでしてくれるらしい。一人でのんびりと住むつもりだったが、まあいいだろう。


 屋敷や部屋を一通り見て回ると自分の部屋で早めに休むことにした。

 

 振り返ると大変な一日だった。

 異世界に召喚されたかと思ったら国王はなぜか無能扱いして怒って、そうかと思えば屋敷に追放された。


 あの国王と一緒にいるのは疲れそうだし、追放みたいな形だがこの屋敷に来ることが出来て良かったかもな。とにかく自分なりにこの屋敷でのんびり暮らすとしよう。


 明日は本格的に固有スキル【業務用スーパー】について調べたい。もしかしたらこのスキルが意外と使える可能性もある。


 しかしスキルを使うにはGPが必要と説明にあった気がする。GPってどうやって稼ぐのだろう。そんなことを色々と考えているうちにいつの間にか眠ってしまった。

 

 次の日【業務用スーパー】が意外と有用なスキルであることを知ることになる。









 





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