第38話 冒険者少女と育ての親
俺は冒険者で斥候のレニ。
気配を殺しての迷宮の探索や索敵が仕事だ。
故郷や親のことはよく覚えていない。
はるかに広がる大草原のうっすらした記憶はあるが、気が付いたら人間のオスに飼われていた。いつも腹が減っていたし、俺は発育が悪かったのでオスは気に入らないのか雑用を言いつけては動きが遅いと俺を殴っていた。
「獣人は殴ってしつけなきゃな」
人間のオスは殴ってくる。
ギルド長に買ってもらえたのは幸運だった。
この老いた人間は俺を見て「見込みがある」と言って、飯をくれては迷宮に潜っていろいろ教えてくれた。
冒険者登録をしてからはいくつかのパーティに参加してひたすらに稼いでいた。
パーティメンバーは稼いだ金で飲んで騒いで遊ぼうというのだが、俺は興味がない。
稼いだカネは全部ギルド長に渡している。俺を買い取るのに結構なカネを使ったらしい。ギルド長は返さなくていいと言って嫌がっていたが無理にでも押し付けている。
借りは返さないといけない。それが誇りだ。
かすかな親の記憶の中にそんな言葉があったようななかったような。
ギルド長のくれる飯のおかげで、ちゃんと成人することができた。
子供のころに飯が足りなかったせいか、背が伸びないし、あまりメスらしくなってない。ただ、人間のオスが言い寄ってこないのは助かる。
気まぐれな奴が寄ってこないように、黒い鎧と頭巾でできるだけ姿を隠すようにしている。
― ― ― ― ―
最近、ド素人の冒険者が増えた。
なんでも人間の領主が流民をたくさん受け入れたんだそうだ。
ド素人でもちゃんと働いて借りを返そうとしているのは良いことだ。
なんかド素人は動きが遅いが、あれは昔の俺だ。飯が足りないから遅くて怒られるのだろう。
初級冒険者たちが新入りと喧嘩することが増えた。
そもそも冒険者同士の喧嘩は冒険者ギルドの掟で禁止だ。
そうしないと迷宮の中で素材の横取りや強盗など何でもありになってしまう。
ただでさえ魔物が危険なのに冒険者まで襲ってくるなら探索なんて無理だ。
ギルド長は仲良くするようにみんなに言い聞かせてるが、文句を言うやつが多い。
そういうやつらを注意して回ったら「狂犬レニ」というあだ名がついた。
別に誰に何を言われようとなんともない、ギルド長がわかってくれればいい。
だから低層階を巡回して喧嘩を防いで回っている。
母さん……じゃなくてギルド長のためだ。
たまにギルド長のことを母さんって呼びたくなるけど、売り物だった犬族が娘だなんてギルド長には迷惑なはずだ。
だから言わないようにしている。
― ― ― ― ―
で、なんで領主の息子と娘がスライム掃除してんだ。
この間兵隊率いてゴブリン退治してただろ、ギルド長の護衛についていたから顔は知ってる。
迷宮探索するならもっとちゃんとしたパーティ組めよバカか。いくらでも兵隊いるんだろうが。
初級冒険者どもと流民の喧嘩に巻き込まれてるし、何やってんだマジで。
とりあえずギルド長に報告するために連れ帰ることにした。
― ― ― ― ―
ギルド長と領主の息子はなんかずっと難しい話をしている。
俺にはよくわからん。
カネがないならもっと働けばいいし、報酬が少ないならもっと潜ればいいだろ。
領主の娘はなんかずっと兄に引っ付いてるし。
ミルク美味い。
「まぁ、でも喧嘩にならなくてよかったねぇ」
「うん!そちらのギルドの規律の守護者、有能で可愛いレニさんのおかげでね!」
「ぶふぁう!?!」
ミルクを吹きだした。
か、可愛い……っていや、冗談だよな。人間のオスはよくバカにしてこういうことをメスに言う。
「本心だけど?」
……母さんじゃなくてギルド長助けて?!まさか大人のメスになった俺を狙ってる?!
あ、妹みたいって意味……って可愛いとは思ってるってことか?
え、ソイツにお礼を言えって?言うけど……
でも嘘だ。絶対嘘だ。そんなこと人間のオスに言われたことがない。
「ボクは本当のことしか言わないし、やると言ったらやるよ」
本当なのかよ?!やるのかよ?!
「うん、たしかに若さまは言ったことはやる方だ」
母さんまでそう言うの?!俺やられるの?!
「グリムホルン冒険者ギルドは若さまに全面的に協力させていただきますよ、
もしまた迷宮に潜る場合は必ずこの子をお供させておくれ、上級の斥候だから危険はずいぶん減るよ」
母さん?!こいつと一緒にいたら可愛いとか言われて妹にされるよ?!でも母さんの指示だし……うう。
俺は恨めし気に若さまとかいう人間のオスを見上げるしかなかった。
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