23章 ブラジャー暴動




 行進が進むにつれて、街のあちこちから女性たちが次々とその列に加わっていった。初めは控えめに遠くから見守っていた者たちも、やがて一歩ずつ列に近づき、最終的には勇気を振り絞ってその中に飛び込んでいく。彼女たちの多くはブラジャーを持たない者たちであり、ノーブラのままで堂々と行進に加わった。恥ずかしさや不安は一瞬で吹き飛び、代わりに胸を張って前を見据えるような強い表情が浮かび上がっていた。


 若く美しい女性たちの姿が、その列を鮮やかに彩っていた。彼女たちは手を取り合いながら、互いを支え合い、強い意志で前へ進んでいく。涙ぐみながらも微笑む女性、拳を握りしめながら前を見据える女性、静かに歩きながらもその瞳には確固たる決意を宿す女性——そのすべてが、この行進の意味を象徴しているかのようだった。


 通りの窓から顔を出して見守る人々の中には、最初は驚きの表情を浮かべていた者たちもいたが、やがてその勇敢な姿に感化され、拍手を送り始める者も現れた。商店の店主たちは、店の中から彼女たちをじっと見つめ、軽く頭を下げる者もいた。子どもたちは母親の後ろから興味深げにその光景を見つめ、その目にはこれまで知らなかった新しい世界が映し出されているかのようだった。


 女性たちの顔には決意がみなぎり、その足取りには一切の迷いがなかった。それぞれが胸の奥に抱える怒り、希望、そして未来への願いを込め、行進の一歩一歩を力強く踏みしめていた。誰もが、自分たちの存在を否定する社会に対し、もう二度と屈することはないと心に誓っていた。


 列は次第に大きくなり、通りの幅いっぱいに広がりながら進んでいった。その足音が街全体に響き渡り、まるで新しい時代の到来を告げる鼓動のように感じられた。どこかで鳥が空に舞い上がり、遠くの鐘の音が微かに聞こえてくる。行進はまさに、若く美しい女性たちの決意と誇りが織りなす一つの革命の光景そのものだった。



 蜂起の知らせは王宮にも届き、レイナたちブラレスレイブンにも出撃命令が下された。隊員たちが準備を整える中、軍の高官が現れ、レイナに意味ありげな視線を送った。


「我々も今から出撃しようと思うが、君たちにお相手をしていただければ、その間はここに留まることになるだろう。」


 その言葉が何を意味するかは明白だった。レイナは一瞬表情を硬くしたが、やがて微笑みを浮かべ、静かに頷こうとした。その時、副官のソフィアが一歩前に出て、冷静な声で言った。


「私が相手をします。隊長は任務を優先してください。」


 その言葉を口にした瞬間、ソフィアの心には複雑な感情が渦巻いていた。彼女は冷静な表情を保ちながらも、内心では屈辱と使命感がせめぎ合っていた。「これが必要な犠牲ならば、私が受け止めるしかない。」彼女は自らにそう言い聞かせ、わずかな震えすら隠し通した。


 レイナは迷うような表情を見せたが、ソフィアの決意を読み取り、感謝の意を込めて小さく頷いた。そして、他の隊員たちを率いて出撃していった。


 ソフィアは高官たちを前に毅然とした態度を崩さず、その場に留まった。彼女の背中には静かな覚悟が漂っていた。高官の一人が低い声で囁いた。


「君のような冷静な女性がいるとは、我々も安心だよ。」


 ソフィアは微笑みながらその言葉を受け流し、高官に穏やかな声で言った。「それは光栄なことですわ。時間をかけてじっくりお相手させていただきます。どうか今夜は、存分にお楽しみくださいませ。」


 その言葉に高官は満足げに笑みを浮かべ、ソフィアを一層気に入ったようだった。彼女はその態度を受け止めながらも、内心では冷静さを保ちつつ、目的のための演技を完璧にこなしていた。彼女の態度には一切の隙がなく、内心の動揺を感じさせない。



 蜂起した女性たちは街の広場に集まり、デモ行進を開始した。彼女たちの姿は圧巻だった。ブラジャー姿で堂々と歩く女性たちの列は、街の通行人たちを驚かせ、徐々に興味を引きつけていった。


「胸の自由を取り戻せ!」


「私たちの胸は私たちのもの!」


 女性たちのシュプレヒコールが響き渡る中、行列は次第に大きく膨れ上がった。


「胸の自由を取り戻せ!」


「私たちの体は私たちのもの!」


「私たちにブラジャーをつける権利を!」


 それぞれの声が交互に響き、街の通りに響き渡った。道端で見守っていた住民たちの中には、涙を浮かべながら手を振る者や、声を合わせて叫び始める者もいた。シュプレヒコールは次第に力を増し、その熱気に街全体が包み込まれていく。


 行進が進むにつれて、その列に加わる女性たちが増え、隊列はますます長くなった。途中、ブラレスレイブンの兵士たちが進軍を阻むように現れた。全員が統一された姿で立ちはだかり、彼女たちの胸元には華やかなブラジャーがはっきりと見えた。その光景に、エリスたち女性は立ち止まり、驚愕の表情を浮かべた。


「自分たちだけブラをつけているなんて!」


「私たちには禁止しておいて、お前たちはブラジャーをつけているなんて!」


 女性たちから非難の声が次々に上がった。エリスは兵士たちを睨みつけながら、さらに強い調子で声を張り上げた。


「私たちはもう恐れない!胸の自由を取り戻すために、どんな犠牲も払う覚悟です!」




 その言葉を受け、ブラレスレイブンの隊列の中からレイナが前に出てきた。彼女は冷静に深呼吸をすると、女性たちに向けて毅然とした口調で答えた。


「私もあなたたちの味方です。そして、私がブラジャーをつけているのは、すべての女性がつける権利を持つべきだという信念からです。」


 女性たちは一瞬驚き、ざわめきが広がった。


「お前たちは敵だったはずだ!」


 という叫びが上がる中、参加者の中からはさらに激しい非難の声が飛び交った。


「私たちからブラジャーを無理やり剥ぎ取ったくせに、今さら何を言うつもりだ!」


「辱めを受けた私たちの気持ちが分かるのか!」


「信じられない!あなたたちなんて絶対に許せない!」


 恨みや怒りに満ちた声が次々に響き渡り、女性たちの視線には鋭い敵意が宿っていた。次の瞬間、レイナの背後から王女シャルロットが姿を現した。


 王女は穏やかな声で語りかけた。


「私は彼女を信じます。だから、あなたたちも信じてください。」


 その言葉には強い意志と誠実さが宿っていた。


 女性たちは戸惑いながらも、王女とレイナの真剣な態度に心を動かされ、彼女たちを受け入れることを決めた。



 進軍の中、王女の脳裏に昨夜の出来事が鮮やかに蘇った。蜂起の知らせが王宮に届いた後、王女は意を決して自室に向かい、王女は自室の扉を閉めた後、ため息をつきながらブラジャーが並ぶ棚を見つめた。

 これらは普段、彼女の特権を象徴するものであったが、今は女性たちの尊厳を取り戻すための道具となる。その矛盾に胸が締め付けられるような感覚を覚えながらも、彼女は手を伸ばし、決然と大量のブラジャーを取り出した。


「これが私たちにできる第一歩。女性たちに希望を届けるの。」


 王女が現場に合流した時点で、彼女の覚悟はすでに固まっていた。王宮から持ち出したブラジャーを手に、彼女はエリスの前に立つと毅然とした口調で語った。


「これをノーブラの女性たちに渡してください。」


 エリスはそれを受け取り、仲間たちに配布した。女性たちはブラジャーを身につけ、さらに上半身の服を脱ぎ捨てた。


 その場の熱気がさらに高まる中、エリスの目に、ブラレスレイブンの隊員たちが鎧を外し始める姿が映った。彼女たちは静かに自らの胸を覆っていた鎧とシャツを脱ぎ、華やかなブラジャーを露わにした。


 行進に加わっていた女性の一人が、


「ブラジャーをまとった彼女たちは、もうブラレスレイブン(ノーブラのカラス)じゃないわ……

 彼女たちは『ブラクラッドレイブン』(ブラジャーをつけたカラス)よ!」


 その呼び名が次第に行進の中に広がり、歓声となってこだました。


「ブラクラッドレイブン!」


「彼女たちは私たちの味方だ!」


 レイナはその声を聞きながら、一瞬だけ微笑みを浮かべた。そして、堂々と胸を張り、力強い声で答えた。


「私たちはすべての女性の尊厳を取り戻すために戦います!」


 その言葉に女性たちはさらに士気を高め、行進の熱気は最高潮に達した。





「これは私たちの未来のための戦い。ブラジャーを再び我々の胸に!」


 エリスの声が響き渡ると、女性たちはその言葉に力を得て、再び声を合わせた。


「ブラジャーを再び我々の胸に!」


 というシュプレヒコールは、次第に大きくなり、行進する女性たちの中で繰り返されていく。


 ある女性は涙を浮かべながら叫び、隣の女性と手を取り合い、声を張り上げた。


「私たちの胸は私たちのもの!胸の自由を取り戻せ!」


 列の中では、一人ひとりの表情が決意に満ち、声が重なるごとに熱気が広がっていった。住民たちもその情熱に心を動かされ、道端から拍手を送り始めた。


 エリスの声に続き、女性たちは次々と声を上げた。その堂々とした姿は、街の住人たちを深く感動させた。性的な目で見ようとしていた男性たちも、やがてその勇気と決意に心を打たれ、拍手を送り始めた。そして、女性たちに気を使うように視線を下げ、あるいは背を向けながら応援を続けた。


 エリスを先頭に、王女、レイナ、ジョセフィーヌ、ブラレスレイブンの隊員たちがその後に続き、彼女たちは王宮へと向かう道を進んでいった。その途中、エリスは声を張り上げた。


「これは私たちの未来のための戦い。ブラジャーを再び我々の胸に!」


 それを受け、王女も毅然とした声で続けた。


「私たちは女性の自由のために立ち上がった。確かに胸は神から賜ったもの、しかしその権利は私たち女性が持つ!」


「ブラジャーを再び我々の胸に!」


 と女性たちは次々に声を上げ、そのシュプレヒコールは次第に大きなうねりとなって広がった。


「ブラジャーを再び我々の胸に!」


「私たちの胸は私たちのもの!」


「胸の自由を取り戻せ!」


 声が繰り返されるたびに、行進に加わる女性たちの顔にはさらに決意が宿り、列の熱気が高まっていく。住民たちもその力強さに胸を打たれ、道端で拍手や声援を送る者が増えていった。その熱気は行進の列全体に広がり、誰もがその場に立ち会うことの意義を感じ取っていた。その姿は、自由と尊厳の象徴として語り継がれることになる。



 この進軍の様子は、後に『ブラジャーを掲げる自由の女神」』して絵画化される。その絵画は、鮮やかな青空を背景に、エリスが片手を高く上げ、王女から渡されたブラジャーを掲げる姿を中心に描かれている。彼女の周囲には、レイナやジョセフィーヌをはじめとする女性たちが堂々と立ち、その表情には決意と誇りが宿っている。


 特に注目されるのは、すべての女性がブラジャー姿で描かれている点だ。粗末なものから豪華なものまで、様々なデザインのブラジャーが彼女たちの個性と団結を象徴している。衣服の色彩は庶民の粗末な布の茶色や灰色、王女の豪華な衣装の金色、そしてブラジャーの多彩な色合いが絶妙に配置され、全体として統一感と多様性が見事に表現されている。


 絵画全体は温かい光に包まれ、自由と尊厳への希望を強く印象付けるものとなっている。


 エリスの隣にはレイナとコレットが、後方には王女とブラレスレイブンの兵士たちが続き、それぞれの表情や姿勢が歴史的な瞬間を刻み込んでいる。その絵画は、女性たちの戦いと勝利を後世に語り継ぐものとなった。


 進軍の際、エリスは心の中でこう思った。


「これが私たちの手で掴む未来の第一歩だ。」


 その決意は彼女の表情にも表れ、周囲の女性たちに勇気を与え続けた。

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