第44話 クリソゲヌム・ペニシリウム
次の日、フラバスたちは集合場所のムルティードに集合した。グルタミカムという頭が狂った趣味をしている人から灰を貰い、その成分を分析しに行く。
「そんなの分析して、どうするの?」
「うーん、何だか直感がそう言ってるんだ。『分析しろ』ってね」
「何それ」
意味不明なセレウスの言葉に、フラバスも狂ってるんじゃないかと心配する。
「確か、分析は私たちの病院で行えますよ」
クリソゲヌムはそう告げた。
「あ、別に、サブチリスたちはついてこなくてもいいぞ。分析するだけだし、結果はまた後日報告するから。ご飯でも食べてきたらどうだ?ラクトジックたちとも仲良くなれるいい機会なんじゃないか?」
サブチリスは、ラクトジックのみんなとあまり関わりが無いらしい。
「確かに!」
「あ、あと、オリゼとグラウクスとソーエはちょっとついてきて欲しい」
セレウスにそう言われて三人は言うことを聞いた。
(ん?何でだろう?)
フラバスは疑問に思ったが、口出しはしなかった。
「そろそろ発動させるか」
サブチリスは、何が呟いた。
「ん?何を?」
「『ディメンションチェンジ』だよ」
フラバスは、そんなものあったなぁみたいな顔をした。
「おい、忘れるなよ。ストーリーを人為的に操れる唯一の方法なんだ。昨日のカンピロバクターとジフテリア戦が終わって効果が切れた。そして今日、オリゼ達と行動しているだろ?だからストーリーを極端に変遷させないようにするんだよ。頼むぜ」
「なるほど。そうだったね。ごめん……」
「大丈夫だ。では今ここで発動させる」
「え!?大丈夫なの!?」
「ああ。大丈夫だ。魔法陣も表れないし、唱えたのも気付かない」
「ふぅーん。すごいね」
彼は何事もなかったかのように魔法を唱えた。
「わ!すご!全然分からなかった!」
「だろ?」
ディメンションチェンジを発動させ、それからバイオレジスタンサーとセレウスとアスペルギルス家の三人とフラバスとサブチリス、ラクトジックの三人で別行動をとることになった。
◇◇◇
早速、サブチリスはラクトジックのみんなと仲良くなろうと思った。
「おーい!ラクトジックのみんな〜!俺は、『サブチリス・バチルス』だ!よろしく〜!」
「サブチリスさん!」
「口のピアスかっこいい!!」
「わーい!」
「なでなでして〜」
みんな人懐っこくてすぐに仲良くなれそうだと悟った。
「さあ!ご飯食べに行こうか!」
「うん!」
「ヨーグルトがいい!!」
「えー。チーズの気分!!」
「いやいや、漬物とかがいい!!」
みんなの食べたいものが渋すぎて驚いた。
このままじゃ何も決まらない気がしたフラバスは一つの案を出す。
「じゃあ!フードコートでいいじゃん!好きなもの食べられるよ!!」
するとラクトジックたちは目をキラキラ輝かせながら言った。
「わーい好きなもの食べたい!」
「楽しみ〜」
ラクチスは、まとめてくれたサブチリスとフラバスにお礼を言う。
「ほら。サブチリスさんとフラバスさんにありがとうは?」
「ありがとう〜ございました!!」
そしてそのままみんなは、フードコートに向かった。
◇◇◇
一方、セレウスたちは、病院について、成分を分析しようとしていた。
「よし、この機械で分析するんだな」
「はい。その名も!『成分分析機』です!」
「そのままじゃないか」
彼らに笑いが響き渡ったが、すぐさま真剣な表情に戻る。
「分析を始める前にオリゼは、研究を記録する用紙を持ってきて欲しい」
そうセレウスに命令されたオリゼは、全く知らない病院内で記録用紙を探し回ることになった。
「……は、はぁ、分かりました」
渋々了承し、研究所を徘徊した。
「さあ、分析を始めようか」
シャーレに灰を入れ、成分分析機にセットした。機械の電源を入れ、開始のスイッチを押す。けたたましい機械音が響き渡り、分析がスタートした。完了するまで二時間かかるみたいだ。
「暇だな」
「そうですね」
そんな中、セレウスは彼女たちに質問した。
「……そういえば、何でクリソゲヌムたちはバイオレジスタンサーになろうと思ったんだ?」
クリソゲヌムは少し話すのに戸惑ったが、質問されたので話そうと思った。
「……あ、それは、『病原体を駆逐するため』です」
「ん?病原体を駆逐?そう思った理由は何だ?」
クリソゲヌムは、覚悟してその理由を語った。
◇◇◇
実は、私の友達も家族も、とある病原体に殺されたんです。
こいつは、凄く残酷な手法で家族、友達を殺しました。私は、その光景を目の当たりにしてしまい本当にショックでした。
何も食べられなくなって、まともに喋ることも出来ずに、生きる意味も感じられない辛い日々を送ってました。
家族として残ったのは、妹の『カマンベルティ』だけ。
カマンベルティは、幸いに殺される姿は目の当たりにしてなくて。今も多分、現実を受け止めきれてないんです。
何も喋れなかった私は、カマンベルティに看病されてました。情けないおねぇちゃんですよね。
そして、私を心配してくれたカマンベルティが精神科に連れて行ってくれたのです。私がそこに行かなかったら、カマンベルティがいなかったら、私は死んでいたでしょう。その精神科の先生がそこにいる『グリセウス・ストレプトミセス』です。
「そ、そうなのか?」
「はい。以前は、精神科医として働いていましたね」
私は、グリセウスに救われました。声も言葉も顔も性格も全てが優しくて、いつも癒してくれました。私の生きがいでしたよ。
それから毎日グリセウスに会うようになって、症状もだんだん良くなってきたのです。
でも暫くして、グリセウスは、バイオレジスタンサーの一人として大きな病院で働くことになったのです。もちろん私は、反対しました。グリセウスがいない精神科なんて私にはあり得なかったのです。
でも、現実そう上手くは行きません。グリセウスは転勤が決まってしまいました。そして、精神科から姿を消しました。
最初、私は酷く落ち込みました。次第に症状が悪化して、もう駄目なんじゃないかとも思いました。
でも、今度は、カマンベルティが私を癒してくれて……。グリセウスがいるまで、私は、一番大切な物に気づいてなかったのです。
カマンベルティは本当に寂しかったと思います。時にはカマンベルティを一人にして精神科に行ったこともあります。
ああ、私は最低なおねぇちゃんなんだなってそこで自覚しました。こんな私にカマンベルティは見捨てないで優しくしてくれたのです。
だから、私はカマンベルティのために生きようと思ったのです。
私は、グリセウスの言ってた『バイオレジスタンサー』という言葉が凄く耳に残ったので、調べる事にしました。
それは『抗生物質を生成する人間』だということを知って、もしかして、私も抗生物質を作ることができるのかもしれない!そう思ったのです。
そこからは、猛勉強です。勉強してたら、いつの間にか鬱は治ってたみたいです。
これもカマンベルティとグリセウスのお陰なんです。
クリソゲヌムは、涙ながら過去を語った。
「こんな重い過去、ごめんなさい」
「いやいや、全然大丈夫ですよ。辛い経験をなさったのですね。我で良ければこれからも頼って下さいね」
セレウスは優しい笑みで対応した。
クリソゲヌムは、更にその先の過去について語る。
◇◇◇
「何?謎の感染症!?」
グリセウスは、驚きの表情を浮かべた。
「はい。グリセウスさんの『ストレプトマイシン』が全く作用しません」
「……どうしよう、このままだと全世界に広がって治療出来ずに、不治の病として流行してしまう……!」
「それは大変ですね!」
「なんとしても回避しなくては!!」
グリセウスとその医師は、部屋中の薬を掻き集め、すぐに感受性検査をする。
「この薬を溶かしてマウスに投与してくれ。」
「「「はい!」」」
この事態は、病院全ての医師が動いた。
ざっと五百匹の謎の感染症に罹ったマウスに全ての薬を投与させた。
「これで全てのマウスが死んだら……」
グリセウスは顔を真っ青にする。
「大丈夫だ!絶対に一匹は助かるだろう!!」
しかし、その言葉は夢のまた夢だった。衝撃的に全てのマウスが死んだのだ。
「……嘘だろ……!!」
グリセウスは、その場で崩れ落ちた。
「グリセウスさん!」
「私に出来ることは……何があるんだ……!病気を治して人々の役に立ち、みんなに笑顔になって欲しいから医者になったのに……!私は、何のために勉強してきたのか……!!」
グリセウスは自暴自棄になった。
次々に緊急で運ばれてくる患者、収まらないパンデミック、そして、謎の病気で死んでゆく人々。もう、グリセウスは人を見殺しにしている感覚になり、心がボロボロになっていく。
グリセウスだけじゃなく、医者みんなが限界だった。
「人を救える医者になれなかったら、私の存在意義って……」
グリセウスが絶望したその時だった。
「グリセウス!貴方は、救った人の人数を覚えてないみたいね!!」
何だか、聞き覚えのある声だった。
その姿は水色の長髪、純白な白衣、そして、バイオレジスタンサーの象徴といった帽子とバッジを付けた女性だ!
「覚えているかしら?まあ、覚えてなくても無理は無いわね。だって十年前だもの」
グリセウスは誰だか分からなかった。
「私は、貴方に生きる意味をもらった『クリソゲヌム・ペニシリウム』よ!」
「!!!!」
グリセウスは、名前で漸く思い出した。
「……私も、誰かに生きる意味を教えたくて医者になったの。じゃあ精神科医とかカウンセラーになればいい?ノーノー。私を支えてくれた人、生きる素晴らしさを教えてくれた人、そんな人の後ろを追いかけようって。私は、人の命を救う、生きたかった人の命を救う、そして、誰かに生きる意味を与えたい。そんな『
グリセウスはその言葉にはっとさせられる。
「だから、諦めないで!患者さんが助からなくても、薬が効かなくても、グリセウスたちに出来ることは山ほどある!!限られた時間でも、患者さんたちを少しでも『生きてて良かった』って思わせられるでしょ?かつて、私にしてくれたように!グリセウスは、十分みんなの役に立ってるよ!お願いだから、自分を責めないで!全ては病原体が悪いのよ!お願い、グリセウス…。生きる意味を失わないで……!」
彼女の涙は、十年ぶりでその言葉と涙は彼の心の傷を塞いだ。
「クリソゲヌム……。君は私のために……」
クリソゲヌムは、光る星を流しながら笑顔になって言う。
「当たり前でしょ!!」
そう言って彼女は、病棟に駆けつけた。
「喰らいなさい!病原体!私の抗生物質――『ペニシリン』をね!!」
そう言って、患者約千人以上に休まずペニシリンを投与した。
すると、みるみる患者が回復した。
その光景を後から見ていたグリセウスは、驚愕の表情で見る。
それから、彼女の活躍でこの病原体は根絶され、患者は居なくなった。
「……ありがとう。クリソゲヌム」
「ううん。これも全部グリセウスのお陰だよ」
グリセウスは、昔を思い出すような声と表情でぼそっと呟いた。
「……今度は、私が生きる意味を貰ってしまったな…。バイオレジスタンサーになってくれてありがとう」
その言葉を聞いたクリソゲヌムは、満面の笑み出グリセウスに言った。
「ただいま。グリセウス!」
◇◇◇
そのストーリーにセレウスたちは深く感動した。
「凄い感動したよ。まさか、二人にこんなにも深い過去があるなんて、人生の経験のレベルが桁違いだな」
「クリソゲヌムさんたちは、こんなにも壮大な人生があったのか」
「まるで漫画の世界ですね」
「いえいえ、この物語があるのも、私が生きてるからです。生きることって壮大で素晴らしいことなのです。だから、生きている自分を癒してあげてください」
「そうだな。今日も生きてる自分、偉いぞ……」
セレウスは自分を讃えた。
「生きていることって素晴らしいことなんですね」
「こんな壮大な人生ゲーム中々ないぜ」
ソーエとグラウクスもクリソゲヌムの言葉に深く感銘を受けた。
すると、成分の分析が終わった。
「よし。終わったぞ」
「本当ですか?見てみましょう!」
グリセウスたちは興味津々で結果を見る。
「「「……えっ……???」」」
なんと、その結果に五人は深い衝撃を受けた。
その途端!
「ふっ、付けてきた甲斐があったぜ」
「!!」
セレウスはその声に瞬時に反応する。
「貴様は……!!!」
「おお、丁度いい獲物が五人…。これは殺りがいがありそうですね……」
「!!」
バイオレジスタンサーもその声の正体を知らない訳が無かった!
「貴方は……!!ボツリヌス!?!?」
ボツリヌスという言葉を聞いて反射的にグラウクスが叫ぶ。
「んだと!?ボツリヌスだって!?」
「……ふふっ、声で分かってしまうみたいですね。どれだけ私たちを知ってるのか……。身に染みて分かりますよ」
セレウスは、もう一人の男性に話しかける。
「まさか……!貴様、リステリアなのか!?!?何故生きてる……!!あの時、我が殺した筈だ!!!」
セレウスは動揺が隠しきれない。
「あんな雑魚魔法で死ぬと思ったのか。魔法を学び直したほうが良さそうだな」
「くそ!お前は……絶対に生きて返さない!!『セレウリド』!!」
セレウスは防衛反応として不意打ちの魔法を放った。
しかし、
「『デファルケーション』」
ボツリヌスが反射で打った魔法で相殺した。
「!?」
「セレウス。貴様は、私を自殺まで追いやったな。絶対に許さない!私の苦しみの何億倍にして返してやろう!!」
「ボツリヌス……」
ボツリヌスの顔は正気じゃ無かった。
いつも温厚な顔のボツリヌスだが、今回は殺意しか芽生えてない顔に流石のセレウスも寒気が走る。
グリセウスたちも初めて見るボツリヌスの殺意の顔に、腰が抜けた。
強気な性格のグラウクスも恐怖を覚える程だった。
しかし、セレウスはボツリヌスに何かを伝えたい顔をした。
「ボツリヌス!!」
「……ん?何だ、セレウス。最後の言葉を残したいのか?」
「違う……!違うんだ!我は……!」
セレウスは何かを言いたかったようだが、ボツリヌスは無視をした。セレウスは無言で潤んだ瞳で何かを伝えたがっていた。
「貴様の声は聞きたくない。寝てもらおうか!」
そう言われた途端、強い眠気が彼らを襲った。
それに抗うことはできなかった。
完全に眠りについた五人を見て二人がニヤける。
「さあ、パーティーの始まりだな」
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