第25話 ラスボス戦とその後

 グワアアアアアアアッ!


 オレたちの前にいるのは巨大な漆黒のドラゴン。


 遂に最下層に足を踏み入れたこのパーティーにとって、最後のボス戦だ。


 全員で一斉に攻撃しているが、鱗の強度が凄まじく、全ての攻撃が弾かれてしまう。


 そして時折放たれる黒炎がオレたちを苦しめる。


 ブワアーーーーッ!


「あぐああっ! 腕が焼き尽くされるみたいだ!」


 タンク役のラファウが盾で黒炎を受け止めたが、隠しきれなかった右腕に当たってしまったのだ。


 ユリサがすぐさま水魔法を当てたがなかなか炎は消えない。


 ライサがすぐに結界を張ってとりあえず防いだが、ドラゴンはすぐさま鋭い爪を何度も叩きつけて無理矢理結界を破ろうとする。


「酷い火傷! すぐに回復しないと腕を切り落とすしかなくなるよ!」


 ラファウは当然ながら右腕にも防具を装着していたが、それは半分溶けて隙間から見えている腕は炭のような黒さだった。


 リラが全力で回復しているが、ドラゴンは容赦なく攻撃を続けてくる。


「結界がもう持ちません!」


 ライサからの悲痛な叫び声。

 もう一人の聖職者ユゼフは既に鋭い爪で壁まで吹っ飛ばされて気絶している。


「コノヤロー、調子乗んなよ!」


 レックが魔力でレーザー砲を放つが鱗はビクともしない。


 何処かに弱点はないのか……!


「ハヤトさん! お願いがあります。私をドラゴンのすぐ側まで運んでください!」


「ソニア、どうするつもりだよ?」


「説明している暇はありません。早く!」


「……わかった」


 彼女の覚悟を決めたような目を見て不安をおぼえたが、オレも散々彼女に心配をかけるようなことをしてきたのだ。


 オレは何も聞かずに協力することにした。


 すぐに近寄ってソニアをお姫様抱っこし、高速移動で秒より早くドラゴンの足元へ。


「すぐに降ろしてください!」


「いいけど、どうするつもり……うわああっ!」


 今度はオレがお姫様抱っこされて、ソニアはそのままドラゴンの身体を足場に4回ジャンプを繰り返し、左肩に登った。


 ライサの結界へと攻撃を繰り返すドラゴンの身体は上下左右に大きく揺れるが、ソニアは事も無げにバランスを取って立っている。


 抱っこから降ろされたオレは鱗にしがみついて落とされないようにするのがやっとだ。


「ハヤトさん。私がドラゴンの口を開けさせますから、あとはお願いしますね」


 そうか、確かに口の中なら鱗に覆われていない。

 でもどうやって……と問いかけたところでソニアはドラゴンの首筋を駆け登っていく。


 そして顔まで到達すると、左目を目掛けて剣を振るう!


「やあああああっ!」


 ガキーン!


 しかし目は瞬時に硬い膜に覆われて剣は通らない。


 ドラゴンは顔を振ってソニアを振り払い、彼女は空中に投げ出された。

 そしてドラゴンの口が彼女に向けて開けられる……まずい、すぐに行かないと!


 口の中に炎を溜めて放とうとする、その寸前にオレは口元へと高速移動した。


 そして露わになった歯茎にナイフを突き立てる。


 アギャアッ!


 ドラゴンは口内に異変を感じて小さく叫んだあと、口を閉じようとして上顎が迫ってくる。


 オレは急いで手を突っ込み、コアを呼び寄せる。


 身体が大きいのですぐに来ないが……口が閉じる寸前にコアを掴み無理矢理手を引っこ抜く。


「ソニア! あと頼む!」


 空中にいる彼女に向けてコアを投げつけると、瞬く間に粉々に砕かれた。


 アンギャアアアアアアアアアーーーー!!!


 ドラゴンはダンジョン中に響き渡る程の断末魔を轟かせ、コアを失った身体は崩壊を始める。


 そこにレックとユリサが魔法攻撃で追い打ちをかけ、その身体は原型を留めなくなっていく。


 ソニアはそのまま落ちていったが、ライサが結界をまるでクッションのように地面の上に展開して事なきを得た。


 オレもついでにそこに飛び降りさせてもらったが、顔面から落ちて酷い目にあった。


「イテテテテ!」


「大丈夫ですか? 鼻血が出てますよ」


「うわっ……でも鼻は折れてなさそうだ。それより、ソニアがあんな無茶するとはな」


「ふふふ。いつもはハヤトさんに心配させられてばかりですから。お返しです」


「……返す言葉がねえよ」


「これで終わりましたね……今までありがとうございました」


「そうだな」


「何かお礼をさせてください。金銀財宝でも、爵位でも何でも。貴方はそれだけの功績を残したのです」


「いいよべつに。オレもお陰で盗みの衝動が発散できて、最近は悩まされなくなったし」


「ですが」


「じゃあ今度美味しいものを御馳走してくれ。それで終わりということで」


 彼女は黙って頷いた。

 その表情は寂しさを我慢しているかのようだったが、嬉しいはずのこの場面でなぜそうなったのか、オレにはわからなかった。


 その後は駆け寄ってきた仲間たちともみくちゃになって、何がなんだかわからないくらいに喜び騒ぎ続けたのだった。



 最下層は至る所に封印の結界が施され、オレたちは地上へと引き上げた。


 オレはいつものようにみんなと別れ、ソニアの見送りで現実世界へ通じるゲートをくぐる。


「……お礼は、後に必ずさせていただきます。ですからゲートはまだ完全には閉じませんので」


「わかった。楽しみにしとくから、そのときになったら呼び出してくれ」


 そうしてゲート出口である机の引き出しから、自分の部屋へと戻ってきた。


 なんか、終わったら呆気ないもんだな。


 でもこれで野球に専念できる。

 ベンチ入りは絶対に……もちろんレギュラー取りが目標だ。


 そうして練習に精を出すうちに、オレは異世界のことを考えなくなっていった。



 あれから2ヶ月が経って、今日は夏休み明けの始業式の日。


 夏の大会は残念ながらレギュラーにはなれず、地区予選ベスト16で敗れ去った。


 まあ、創立3年目にしては上出来なのかもしれんが、やはり3年生たちの悔し涙は忘れられない。


 そして春のセンバツの参考となる秋季の県大会まであと僅か。


 そんなタイミングで、まさか異世界のことを思い出すことになるとはな。


「えー、転校生を紹介する」


「センセー、カワイイ女子ですか?」

「それよりイケメン男子のほうがいいんだけど」


「カワイイとかイケメンとかはともかくとして……二卵性双生児の女子2人を受け入れることになったから。みんな仲良くしてやってくれよ」


「はーい」

「えー、残念」


 反応は様々だが、しかし双子とは、久しぶりにあの姉妹のことを思い出した。

 元気でやってるかな。


 そして先生に促されて入ってきたのは……!


「2人共自己紹介して」


「皆さん初めまして。私は双子の姉の方で、ソニアと申します。どうぞよろしくお願い致します」


「……あの、妹で、ゾフィと申します」


「スゲーッ! 双子の超絶金髪美人キター!」

「毎日学校に来るのが楽しくなるぜ!」

「なんだか、女子でもウットリしちゃうねー。特にソニアは凛々しいっていうか」


 男女ともにメッチャ好印象な2人はすぐに人気が出そうだ。


 って、なんでアイツらがここに!


 彼女たちは、オレと友梨が隣合って座っている場所の後ろに用意された席に歩いてきた。


「……なんでお前らがここに」


「実は、あのダンジョンが魔物を生み出す負のエネルギーが、この世界から流れてきていることが判明しまして。このままだとまた魔物が復活するので、その発生元を探し出して断つ為です」


「私は、ソニアお姉様一人で行かせるのが心配で」


「だからって何もここに来なくても。っていうか年齢詐称じゃないのか?」


「……失礼ですね。私たちは貴方と同い年なのですよ?」


 2人共大人びているから、てっきり大学生くらいだと思ってた。


 それはともかく、友梨がオレたちのことを怪しんで問い詰めてきた。


「ちょっとハヤト! 2人となんで知り合いなのよ。ワケを話しなさい!」


「あ、いや、そういうわけじゃ」


「ハヤトさん……いえハヤト。約束通りにご馳走を振る舞いますから、早速ウチに来てくださいね?」


「ハヤト! 一体どういうことかしら〜!」


「もう勘弁してくれー!」





<あとがき>

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

連載中にいただいたフォロワー登録と応援を励みとして途中で折れずに完結させられました。

重ねて御礼申し上げます。

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