第24話 毒の砲弾

「何かが飛んでくるぞー!」


 18階層へと降りてすぐにドーンと打ち上げるような音がした。


 先頭を歩いていたラファウがパーティーメンバー全員に聞こえるように叫ぶと、聖職者のユゼフと僧侶のライサがバッと両手を上にかざす。


 バババッと展開された防御結界に濃い紫色の液体の塊が当たると、まるで水風船が弾けたみたいにそれが広がる。


 それと同時に多数の煙が上がっていて、触れたらヤバそうにしかみえない。


 それにしても、この18階層はやたらと天井が高い。

 どれくらいだろう……少なくともドーム球場の天井くらいの高さはありそうだ。


「皆さん気をつけて! 来ます!」


 ソニアの声で注意を前に向けると、前方からわちゃわちゃと雑魚魔物の大群が!


 あれ、前方は結界張ってないのか。


「なんで前に結界ないんだよ!」


「結界を張って防御ばっかしてたらよー、ジリ貧になって結界が解けたら溜まりきったとんでもねー数の魔物に蹂躙されんだよ! そんなんもわかんねーかクソガキ!」


 言い方は腹立つが、レックの言う通りだ。


 砲弾のように降ってくる毒々しい液体は聖職者2人に任せて、残りのメンバーで前を切り開いていくしかない。


 ソニアとラファウで次々と切り刻んでいき、レックとユリサが後ろからコアを魔法で狙い撃ちにする。


 その戦法の間隙を縫ってオレも高速移動とナイフ攻撃で魔物を狩っていく。


 意外といけるかも、もっと前に押し出していこう。


 そう考えてオレは一人飛び出し、どんどん狩りを続ける。

 それを待っていたのだろうと思える洗礼を奥にいる魔物から受けた。


「ハヤトさん! すぐ後ろに下がって!」


 ソニアの声でふと前を向いたら紫色の塊が目の前に!


 オレは後ろに緊急回避し結界の内側へ戻る。


 それから元いた場所を見たら……雑魚魔物たちの身体が溶けていってる。


 魔物にはやはり仲間意識なんてもんはないんだな。

 ああなるのをわかってて躊躇なく打ち込んできやがった。


「ハヤトさん! あまり独断で飛び出しては駄目です!」


「すまない。でもチマチマと前進してたら一向に終わらねーぜ」


「それでもこれが一番安全で……且つ堅実な方法なのです」


 ソニアの言うことにも一理あるけど、これで最後まで持つかな。


 とはいえ他にいい案は思い浮かばない。

 オレたちは大群を一掃してから次が来るまでの間に、弾幕のように降り注ぐ毒の砲弾を防御しながら少しずつ前進して、を繰り返す。


 さすがにみんな疲労してきたので、今度はヒーラーのリラが活躍しだす。


 オレはリラを抱えながら走り回ってみんなを回復させ、またまた魔物たちを狩って、と一息つく間もない。


 そしてみんなの疲労感がピークに達しようかというところで、オレは思い切って提案した。


「オレが前に出るから、砲弾がこっちに集中している間に一気に前進してくれ!」


「待ってください! そんな作戦は許可できません!」


「ソニア、そんなこと言ったってさあ」


「俺はその案に賛成だ。どこかでリスクを取らないと勝てる相手じゃない」


「おれもそれでいいぜー」


「……ハヤトちゃんならできるってワタシ信じてるから」


「わたしは、賛成じゃないけど反対はできないかな」


「出る前にあたしが毒耐性をできるだけハヤトにかけておくよ」


「……無事に戻ってきてくださいね」


 ソニア以外は案に乗ってくれた。

 目を伏せてふうっと溜息をついたあと、ソニアもやむなくではあるが認めてくれた。


「貴方のスピードなら避けることはできるでしょうけど、危うくなったらすぐに撤退するのですよ?」


「わかってるって!」


 雑魚魔物の群れを一掃した直後に飛び出す。


 早速雨あられと砲弾が降りそそいできたが、避けるだけなら問題ない。


 しかし相手は巧妙なやり方で撃ってくる。

 オレがいる地点よりワザと手前にバラバラと着弾させて弾幕を張ってくるのだ。


 やむなく用心して進む行く手にバシャバシャっと着弾し、一旦大きく下がってまた進む繰り返しだ。


 その間に奥から湧いてくる雑魚魔物たちも避けねばならない。

 雑魚はタンク役のラファウが引き付けてくれるから相手はしなくていいんだけど、このままでは体力を浪費するだけだ。


 ここでふと思い出したのは、野球部の守備練習だった。

 外野フライに素早く追いつくには、打った瞬間にある程度は落下地点が予測できなければならない。


 今回の場合は着弾点を即座に予測して、弾幕を躱しつつ一気に突破してやるのだ。


 野球部の練習仲間から教えてもらったコツを思い出していこう。


 ドカドカ打ち込まれた砲弾を、正面からではなく少し横から見るイメージで左足を後ろに引く。


 これで着弾点を予測して、実際の着弾点と答え合わせする。


 これを5回続けたオレは、打ち上げられた瞬間に予測ができるようになった。


 次々と打ち上げられる砲弾の着弾点を避けながら前進していく。


 そして相手の姿がはっきり見えるところまで接近したオレの目に映ったのは、巨大なアンモナイトみたいな魔物だった。


 ヤツは10本くらいある触手全ての先端から毒の砲弾を撃っているのだ。


 そして今度は一斉に水平射撃してきたが、むしろこの方が避けやすい。


 そうして遂に目の前まで接近した。

 

 触手の一つをナイフで刺して傷口に手を突っ込み、窃盗スキルでコアを手元に引き寄せる。


 あれ、来ない。

 と思ったらいつの間にか触手は本体から切り離されていた。


 襲いかかってくる触手を躱して後ろに回り込んだはいいが、硬い殻を破れずどうしようもない。

 どうすれば……!


「ハヤトさん! 大丈夫なのですかー!」


「まだ生きてるなら返事してくれー!」


 ソニアとラファウの声が。

 みんないつの間にか前進してきてたんだな。


「もちろん生きてるぞー! 殻の裏にいる!」


「そのままじっとしておいてね〜!」


 ユゼフの声が聞こえたと同時に多数の魔法攻撃が前から飛んできた。


 一斉攻撃で触手が全部ボロボロになって切り離されていく。


「クソが、本体が中に逃げ込むぞ!」


 レックの声。

 逃げ込まれたら厄介なことになる。


 オレは思い切って前に回り込んで殻の中に吸い込まれる寸前の本体に突撃する。


「駄目ですハヤトさん! こっちへ戻ってきて!」


 ソニアの声が聞こえたが構わず魔物の目玉の隙間に手を突っ込む。


 そしてコアを掴み握り潰した!


 ギヤアアアアアアッ!


 魔物は断末魔とともに本体が膨れ上がり、ヤバそうなのでみんなのもとに下がる。


 ユゼフとライサの結界が前に展開されたと同時に本体が爆発し、毒の砲弾と同じ色の液体が結界の前方視界を覆い尽くした。


 危ねえ……浴びてたら恐らく全身溶けてなくなってた。


「ハヤトさん……やめてっていったのにまた勝手なことを」


「指示を聞かなかったのは悪かったよソニア。でもあのチャンスを逃すわけにいかなかった」


「……いえ、今回の作戦を許可した時点で覚悟すべきことでした。ハヤトさんの活躍で難敵を倒せたことを素直に感謝いたします」

 

「今回も見事だったぞお前がいなかったらジリ貧でやられてた」


「ちっ、また美味しいとこ取りやがって。でも実力は認めてやるよ」


「噂の神速、確かに見せてもらったよ!」


「ワタシ、もうハヤトくんにメロメロにされちゃた」


「ハヤトには神のご加護があるようです」


「身体見せて。傷から毒が回らないように回復させないとね」


 みんなから称賛やら色々と話しかけられてもみくちゃにされた。

 でもみんながサポートしてくれたから上手くいったんだ。


 これで一応は目標達成したが、この勢いでダンジョン制覇を目指すことでみんなの意見は一致したのだった。

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