第21話 後始末
オレと友梨が九頭島から襲撃を受けた事件から早くも1週間が経過した。
事件の翌日、オレは心配をかけたチームメイトたちに改めて事件について説明した。
なぜオレが狙われたのか、その原因は何なのか。
自分の生い立ちから全て。
つまり、やらされていたとはいえ窃盗の常習犯であったことも。
正直いって、ドン引きされて野球部を追放されることを覚悟していた。
「ハヤトはなんも悪くないじゃん。親がクズ過ぎるし、俺でも同じことになってるよ」
「今はもうやってないんだろ? 実際に俺らは寮で何も盗られてないし、問題ないんじゃね」
「今まで一緒に練習してきた仲間をいきなり見捨てるような薄情な奴は、この野球部にはいねーよ」
拍子抜けするほどあっさりと受け入れられた。
今まで隠し通していたのは何だったのかというくらいに。
結局、オレの方が他人を信用していなかっただけらしい。
延々と独り相撲を取っていたというわけだ……なんか恥ずかしくなってきた。
ただ、事件の発端となったコンビニでのイザコザの件は寮長にこっぴどく怒られた。
無断で夜間にこっそり抜け出したのがバレてしまったのと……その時相談してくれれば良かったのに、ということを言われた。
オレは自分でも驚くほど素直に謝った。
心配して言ってくれてるのがわかってるから。
友梨以外にもそんな人たちがいるということが身に染みたから。
ああ、それと……あの時一緒にいたソニアのことは、道に迷っていた外国人でどこの誰かもわからないと誤魔化し通した。
流石に異世界のことをうっかり言えないし嘘になるがやむを得ない。
友梨にはこっそり作った彼女ではないかと執拗に疑われて大変だったけど。
でもそれについては嘘はついていない。
で、警察に逮捕された九頭島とその手下のヤンキーたちだが。
当然ながら留置所に入れられて余罪を含めて取り調べを受けている。
まあ、今回の事件だけでもかなり長く刑務所に入ることになるだろう。
単なる逮捕監禁罪ではなく人質を取って強要した罪が加算されるので、6ヶ月以上10年以下の懲役に処される……のではと監督から教えてもらった。
その監督だが、事件直後に警察署で事情聴取され、翌日になって帰ってきた。
オレも後日事情聴取され、洗いざらい話した。
だけど、監督は過剰防衛が問われる恐れもあるという。
ヤンキーどもの中に未成年者もいて、反撃にしてもやり過ぎではないかと言われたらしい。
無茶苦茶言いやがるぜ……相手は10人で監督は1人で立ち向かったのに、手加減してたら殺されかねない。
実際には逮捕も起訴もされないだろうと監督は楽観していたが心配だ。
そういう状況なので、監督は活動自粛することになった。
大会直前に監督が高野連から処分を受けたらダメージが大きいのでやむを得ないのだと、校長先生から説明があった。
だからオレたちは練習を部員だけでやっている。
今は3年生のキャプテンがノック打ちをやってるところだ。
「外野ノックいくぞー!」
「おー!」
オレも外野手としてノックを受ける。
打球が空高く飛んできて……それを見ながら落下地点を目指すが、実は完全には場所を掴めていない。
足は速いのですぐに追いつくことはできるのだが……。
大抵は行き過ぎてから急いで戻り、なんとか捕球する繰り返しだ。
「神足ー! 打球が上がった瞬間に落下地点を予測して動けないと駄目だ!」
「はーい!」
威勢良く返事はしたものの、高校に入ってから野球を始めたオレは、どうしてもそういう感覚が掴めていないのだ。
数をこなすしかないが、他の部員もノックを受けるのだからずっとやり続けられない。
ウチの学校は練習時間終了後に居残りはできないルールだし、なんかいい練習方法はないものか。
「やーみんな、練習頑張っとるねー」
「校長先生! こんちわっす!」
「チーッス!」
そして当面の監督代行として校長先生が自ら入ってくれた。
何でも、監督が高校生の時に担任だったそうで、当時バリバリのヤンキーだった監督を苦労して更生させたらしい。
その関係で野球は素人ながら引き受けてくれた。
おかげで大会出場に支障はなくなり感謝しかない。
◇
集中して取り組んだ練習はあっという間に終了時間となった。
正直言って今のオレの打力と守備力じゃベンチ入りできるか微妙なところだが、大会直前まで全力を尽くすだけだ。
疲れて寮に戻り、風呂と食事を終えたあと、オレは自分の部屋で机の引き出しを開けた。
久しぶりのことだが、異世界へのゲートが開いていた。
これも今更中途半端に止めるわけにはいかない。
疲れは取れていないが、オレは引き出しから異世界へと入ったのだ。
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