第18話 過去の因縁と要求
「それじゃハヤト、バイバイ」
「いいのか? 送っていかなくて」
「まだ夕方だし大丈夫よ。それよりゆっくり休んで、明日から元気出してちょーだい」
喫茶店を出て少し買い物に付き合わされたあと、オレたちは別れた。
友梨の家は商店街を挟んで、寮とは反対側にあるからだ。
それはともかく、友梨のおかげで気晴らしはできた。
今はスッキリした気持ち……だけど寮に帰ったら、今度はどんな振る舞いをしたらいいんだろう。
みんなの前で謝る……って、そこまで悪いことをしたわけでもない、と思う。
チームのことを第一に考えるって、そもそもどうしたらいいかわからない。
オレは今まで、盗塁も走塁も自分の判断でやってきた。
それを止めればいいのか……でもなんか違う気がする。
そんなことを考えていたら、行きつけのコンビニの前まで来ていた。
とりあえずパンとガムだけ買っていくか。
しまった、袋は何も持ってない。
仕方がなく3円払ってレジ袋も購入する。
これって環境にどうとか言って有料になったらしいけど、本当に意味あんのかね。
支払いをしながら、そんなことを考える。
オレにとっては3円だって貴重なのだ。
次からは出かける用事が不明でも、ちゃんと袋かカバンを用意してこよう。
そんな暢気なことを考えながらコンビニの自動ドアから外に出て、少し歩いた先のことだった。
「よぉ〜、そこのお前。ちょっと止まってこっち向けよ」
後ろからガラの悪そうな声が聞こえてきたが、誰に向かって言ってんだ?
まあ、オレにだとしても厄介事はゴメンなので無視するが。
大会前に事件を起こすわけにいかないのだ。
しかし、次の呼びかけでオレは止まって振り向かざるをえなくなった。
「おい、お前! 確か、ハヤトだっけか? 止まらねーと、友梨って女がどうなってもいいのか?」
驚いたオレはすぐさま振り向いた。
そしてそいつらの顔を見ると、1ヶ月前にこのコンビニの前で揉めたヤンキーどものうちの2人だった。
「……テメーら、友梨になんかしたのか?」
「おー、すげぇ形相だな。で、その女だけどよぉ、俺らの仲間が身柄を預かってんだわ」
「なんだと……!」
「黙って付いてこいよ。でねーと、女がどうなっても知らねーぜ?」
「へへへ、ちょっと声聞かせてやるよ」
奴らのうちの一人がそう言ってスマホをオレの耳の近くまで近づけてきた。
「よー、ハヤトくーん。元気〜? 俺だよ俺!」
「……テメーは、九頭島! なんでここにいるんだよ? 刑務所にいるはずじゃ」
「俺みたいなコソ泥、そんな大した刑期になんねーよ。それよりも、友梨ちゃんの声聞かせてやっから。おらっ、さっさと出ろや!」
「……ハヤト、わたしは大丈夫だから、逃げて! それで警察を呼んで……痛い、髪の毛を引っ張らないで!」
「テメー! 友梨に酷いことすんじゃねえ!」
「そうされたくなかったら、大人しくその場にいる2人に付いてこい。逃げたら……わかるよな?」
そこで音声が切れた。
オレは言われた通りにするしかなかった。
とにかく友梨を助け出さないと。
彼女に何かあったら、それこそオレはアイツを……!
オレ自身の過去の因縁に彼女を巻き込んでしまった罪悪感と、彼女を狙った九頭島への怒りで頭が沸騰しそうだ。
それにしても、何がコソ泥だ、九頭島の奴。
九頭島は……オレの両親と知り合いで窃盗団に所属する男だ。
クズの両親がオレをアイツに紹介し、オレは窃盗団の仕事を手伝わされていた。
両親はその成果の一部を対価として受け取っていたのだ。
だけど、両親が警察に捕まった際に窃盗団も摘発され、九頭島も服役したのだが。
散々悪いことをしていたアイツが、たった2〜3年で出てくるなんて、日本の法律も司法も甘すぎだろ。
そんなことを考えながら歩いていくと、やがて倉庫街にたどり着き、そのうちの一つ、というか廃倉庫っぽい建物の中に入った。
照明はほとんど点いておらず薄暗い雰囲気で、空気は何となくほこりっぽい。
「よぉ〜、久しぶりだなぁ、ハヤト! こっち来いよ」
顔を合わせるなり笑顔で馴れ馴れしく喋りかけてくる九頭島。
だけどオレはコイツには嫌悪感しか感じねーっての。
九頭島はまだアラフォーくらいだったはず。
ツーブロックで上側を金髪に染めた髪型に、日焼けした筋肉質の身体、そしてピチピチの黒Tシャツ姿。
そして首にはタトゥーが見えており、典型的な半グレスタイルと言ってもいい。
奴の周りにはこの間のヤンキーが勢揃いしており、奴らの笑い声が倉庫内に響く。
そして……。
「ハヤト! なんで来たのよ!」
九頭島の横に、縄で縛られている友梨の姿が。
見たところ、髪の毛が乱れている以外は問題なさそうだ。
だけどオレは、彼女を確認できたことで、逆に怒りに火がついた。
「九頭島! 友梨に何もしてねーだろうな、あぁ?」
「してねーよ、心配すんなって。でも、これから先はお前の態度次第ってことになるな」
「どういうことだよ?」
「俺の要求をお前が素直に聞けばいい」
「……さっさと言え!」
「また俺の元で働け。お前の窃盗の能力、手放すのは惜しいからよ〜。俺がキッチリ使いこなしてやるよ!」
コイツ……またオレに窃盗をさせるつもりか!?
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