第15話 ピンチを切り抜ける
さて、どうする。
こんな連中相手に暴力沙汰とかやってる場合じゃない。
昔ほどではないけど、高校野球はまだまだ連帯責任で最悪、対外試合禁止になってしまうのだ。
おまけに今はオレとソニア2人ともに学校指定のジャージを着ているから、うっかり手出しできない。
「お前みてーな貧相な奴が金髪美少女連れて歩いてるとかよー、マジありえねーんだけど」
「俺らにボコられたくなかったら、その女置いてとっとと失せろや!」
お決まりの煽り文句並べて絡んでくるとか、その方がよっぽど有り得ねーんだけど。
と言いたいが余計な挑発はややこしくなるからやめておこう。
そんなオレの心の内を読んだかのように、ソニアは耳元で静かに囁いた。
「……よくわかりませんが、この者たちは何となく私たちに無礼な言動をしている気がします」
「まあ、それで合ってるんだけど。今は詳しく説明できないんだが、こっちはうっかり反撃できねーんだ」
「何故ですか? 危害を加えようとする者たちに反撃するのは当たり前では」
「そうなんだけど……オレだけじゃなくて、野球のチームメイトたちに迷惑かかっちゃうんだよ」
「……不思議な話ですね」
オレもそう思うが仕方がない。
多分だけど……大昔の野球選手はヤンチャなのが多かったみたいだから、むしろ野球部が周りに迷惑かけないように厳しいルールになったのかもしれない。
その名残がまだ残ってるのだろう。
「おい、何をヒソヒソやってんだよコラァ!?」
「そんなに怖がらなくてもさー、俺たちカワイイ女の子には優しいんだぜ〜?」
鬱陶しいな本当に。
そして奴らの1人がソニアに近づいて腕を掴もうとしてきた。
「かのじょ〜、俺らと一緒に遊ぼうぜ? そんな貧弱男よりも、ココロもカラダも満足させてやっからさ〜?」
「私に気安く触るな! 無礼者!」
ソニアはそう叫んで男の手をバッと振り払った。
もちろん彼女の行動は正しい。
こうなったら覚悟を決めてやるしかなさそうだ……!
「何それ、無礼者〜ってw 日本語わかってる? もしかして本当に外国人?」
「ああ、その通り彼女は外国人で、さっきのは覚えた日本語をそのまま言っただけなんだ。だからもうここらで勘弁してくれよ」
「テメーには用はねーんだよ! 殺されたくなかったらそこどけやコラァ!」
男は片腕でオレを突き飛ばそうとしたが、踏ん張ってソニアの前に立ちはだかる。
いつも練習で沢山走らされて足腰鍛えてるから、その程度で負けるかってんだ。
「そう言わずにさ、頼むよ〜」
それでもオレは下手に出て、ソニアに近づいて来る男を手で押し返すだけに留める。
「テメー……いい加減うっとーしいんだよ!」
「本当にボコボコにしてやろうか、あぁ〜!?」
「おい女! 痛い目みないうちに大人しくこっち来いやあ!」
男たちが次々と近づいて来るたびにオレも回り込んでソニアの前に立つ。
2、3発パンチを当てられたが、腕でガードしつつもとにかく手で押し返し続ける。
そうこうしているうちに、統制がとれずバラバラに動いた男たちは囲みを崩した。
オレはソニアの腕を掴んで隙間から囲みを抜け出すことに成功した!
しかし奴らに行く手を遮られていることに変わりはない。
「テメー、俺らをコケにしやがって……もう容赦しねえ」
「男は死ぬ寸前まで散々ボコってよぉ……女はその生意気な顔をいろんな意味で歪ませてやっから!」
そろそろやばい雰囲気だが、まずはソニアの方にボソッと一言呟く。
そしてオレは密かに膨らませたジャージの腹の部分から、いくつかの物を両手で取り出した。
「オレをボコるより先に、お前らのコレ、どうなってもいいのか?」
「あっ! オレの財布!」
「オレはスマホを! テメー、いつの間に!」
「いらねーならどっかのドブにでも捨てといてやるよ!」
驚いてる奴らの虚を突いて一気に突破し、コンビニの外へと逃げ始める。
「待てやこらあ!」
「返せや! マジで殺すぞ!」
よしよし、怒り心頭でこっちを追いかけてきた。
お前らじゃオレの足に追いつけやしねえよ!
オレは奴らを引き付けながら逃げる。
◇
(ハヤトさんは私に、男たちがいなくなったらコンビニというあのお店の中に逃げ込めと言ってましたが)
(1人だけここに残っていますね……どうしましょうか)
「おい女、逃げんじゃねえぞ! 男の方を仲間たちがボコって戻ってきたら、お前を俺らのアジトに連れ込んでやっからよぉ」
(また何か下品なことを言っているようです……本当にハヤトさんと同じ民族なのでしょうか?)
(正直なところ、この男たちが束になってかかってきても負ける気はしませんが……彼に迷惑がかからないように、穏便にすませなければ)
「わかりました。貴方の近くへ参ります」
「そうそう、最初から素直にしてりゃー、男が痛い目みずに済んだのによー」
「そうですか。貴方たちでは無理だと思いますが……あっ!」
「えっ!?」
トンッ!
「ウウッ……」
(他愛もない……向こうに顔を向けるように誘導して、首筋の後ろをトンッてしただけで簡単に落ちました)
(他の方の通行に邪魔になってはいけませんから……端のほうに移動させて座らせて、と)
(これでいいでしょう。あとは彼が戻ってくるのを待つだけです)
◇
ハアハア、とりあえず財布とスマホは全部本当にドブへ捨てて、奴らが叫び声を上げてる隙に撒いてきたのはいいが……。
奴らの人数が一人足りない。
急いで戻らないと、彼女が。
そうして戻ったコンビニの前で、ソニアは一人で立って待っていてくれた。
「おかえりなさい、ハヤトさん」
「ああ、ただいま……って男が一人残ってたんじゃ」
「彼ならあそこで眠っていますが」
「え? 何で」
「さあ。急に眠りこんでしまいました」
「まあ何でもいいや、すぐに寮に戻ろう」
◇
そしてオレは、寮の部屋に戻るときもまた、叫び声を我慢することになった。
ソニアはたすき掛けにして下げているバッグからロープと鉤爪を取り出して、塀の有刺鉄線に引っ掛けた。
それからまたオレを左腕で抱きかかえると、一気に塀の上、有刺鉄線を張るための棒の上にトンッと軽やかに立つ。
続けざまにオレの部屋の開いた窓にロープを投げて引っ掛け、間髪入れずに飛び上がる!
オレは口を手で塞いで我慢するので精一杯だった。
そして寮の壁に一度着地したあと、素早く登って部屋の中に入ったのだ。
ふう、なんとかひと安心。
「おい、神足! ガタガタうるせーぞ!」
おっと、下の階の先輩から窓越しに苦情が来た。
「す、すみません。もうおとなしく寝ます」
「頼むぜ本当に!」
ちょっとあれだったけど、移動中を見られなくてよかった。
「……それでは、私は戻りますね。長居するのはご迷惑になりそうですので」
「すまない、バタバタして。ダンジョンのことが落ち着いたら、改めてゆっくり案内するよ」
「はい、楽しみにしておきます。では、次のゲートはお手洗い以外の場所にしておきますから、しばらくは注意しておいてくださいね」
ソニアはそう言い残してドアの向こうに消えていった。
色々と疲れ切ったオレは、すぐにベッドに入って眠ってしまった。
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