第14話 2人で歩いて回る
オレとソニアは、オレが住んでいる寮の周りを歩いている。
異世界に繋がるゲートの出入り口がオレの部屋のトイレになっているのを変更するために、ソニアが魔力で位置情報を取得しているのだ。
「どう? ゲートの位置を変えるための情報は取れた?」
「……そうですね。もう少しです」
「すぐにパッと取れないんだな」
「こちらの世界には魔法は存在しないので、私の魔力がかなり減衰しているようです。それで思ったよりも時間がかかるのではと」
「そういうことか。でもあと少しならいいよ。終わったらサッサと部屋に戻ろう」
「……あの、それなんですが。できれば他の場所の位置情報も取得しておきたいと思いまして」
「他の場所って……何でさ?」
「ここは基本的に寝泊まりするだけの場所なのですよね?」
「まあ、そうだな」
「であれば、ハヤトさんが日中活動している場所や、よく訪問する建物などを知っておきたくて。でないとこの先、できる限り早くこちらの世界に来てもらいたい場面が発生する事も増えると思いますので」
「わかったけど、もう夜も遅いし、2箇所だけでいいか?」
「それで十分です。早速参りましょう」
まずは日中活動している場所、それは学校に決まっている。
寮から歩いて10分ほど、こちらはそれほど手間はかからない。
学校の敷地をぐるっと一周回り始めたオレに、ソニアが好奇心丸出しであれこれと尋ねてくる。
「あの建物はなんですか?」
「あれは校舎、生徒たちが勉強する場所だよ」
「そうなのですね、大きな教会かと思いました。真ん中に時計塔がありますし」
「そう言われたら構造がちょっと似てる……かな。普段は気にも止めなかったけど」
「それで、貴方の学び舎はどこなのですか?」
「えーと、あの校舎の3階の真ん中辺り。そこがオレの所属するクラスの教室だ。って、まさかあそこにゲートを繋げるつもりか?」
「はい。いけませんか?」
「教室はそんなに広くないし、オレがいきなり消えたら騒ぎになりかねない」
「そうですか。では、あちらの屋根がアーチ状の建物は?」
「あそこは体育館……屋内の稽古場、と言ったらわかるか?」
「何となく。それにしては大きいです。あの場所にゲートを繋げるのは、支障はありますか?」
「そうだな……体育館の裏なら、問題ないかな」
「わかりました。ところでグラウンドの隅から白い線が2本、90度に別れて引かれているのは何ですか?」
「あそこが、オレがやってる野球の練習場所だよ。ピッチャーが投げたボールを打ったあと、まずはあの白線に沿って走るんだ」
「ピッチャー?」
「えーと、2本の白線に挟まれて少し盛り上がってる箇所があるだろ? あそこからボールを投げるポジションのことだ」
「……イマイチよくわかりません」
「口だけで説明するのは難しい。実際に見てもらえればすぐわかるんだけど」
「では、機会があればぜひ。ハヤトさんがやっているところを見てみたいです」
「おい、またこっちに来るつもりかよ」
「ダンジョンでの魔物討伐が落ち着いたら。それぐらいはいいのでは?」
「まあ、いいけど。それより、その近くにある小さな建物が野球部の部室。あそこでユニフォーム……野球の戦闘服みたいなのに着替えるんだ。その中にあるオレのロッカーにゲートを繋げたりできる?」
「位置情報は取得できましたから……あとは、ロッカーに染み付いているハヤトさんの気配を感じ取ることができれば」
染み付いているって、なんか表現がアレだけど。
位置が把握できてたら気配も探れるなんて、異世界の魔力ってのは、それだけでもこの世界の人間にとってはチート能力だよな。
話しながら学校をぐるっと回り終えると、それからオレたちは街の方へ歩いていく。
「……夜だというのに、とても明るいのですね」
「まだこの時間だと居酒屋とかコンビニとか開いてるから」
「それにしてもこの明るさ……火を灯しているわけでもないのにどうやって」
「電気の照明って言ってわかる?」
「電気……静電気ならばわかりますけど」
「そうそう。ビリっとくるあれを、この世界では大量に作り出して照明として使えるようになってるんだ」
ソニアは少しの間絶句してしまった。
まあ、お互いの世界の技術力にだいぶ差があるから、すぐに理解できないのも仕方がない。
オレは行きつけのコンビニに入ってお気に入りのガムを買った。
ソニアは自動ドアにまず驚いていたが、店内で品物の豊富さやレジを見て逆に感動を覚えたらしく、目を爛々と輝かせていた。
まあ、細かい説明は寮に帰ってからにしよう。
どうせ質問攻めにされるのが目に見えている。
そんなことを考えながらコンビニの自動ドアから外に出ると……車が止まってない駐車スペースにヤンキーっぽい連中が数人たむろしていた。
まあよくある光景なので無視して通り過ぎようとしたのだが……。
「おい、お前ら。ちょっと待てよ」
「ハヤトさん、私たちに声をかけているのではありませんか?」
「無視無視」
「おい! 待てっつってんだろが!」
「へへへ……いい女連れてんじゃん、ボクちゃんよぉ〜!」
ボクちゃんなんて呼ばれるほどガキじゃねえんだけど。
オレはジャージ姿だとヒョロく見えるらしい。
それはともかく、ヤンキーどもに囲まれてしまった。
夏の大会まであと2ヶ月ほど、揉め事は起こしたくないのに……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます