第13話 ソニアの来訪

 オレとソニアは異世界からゲートを通って、オレの部屋へと戻ってきた。


 まあ、ソニアにとってはこちらにやってきたってことになるけど……細かいことは気にしない。


 というわけでゲートの出口であるトイレの前に2人で佇んでいる。


「あの……ハヤトさん。ゲートの出口がお手洗いの前で、自分の部屋の中、と聞いていましたが」


「ああ、その通りだけど」


「ここは物置きか納屋ではありませんか? 部屋にしては狭すぎるのですが」


 なんか腹立つなあ……。

 まあ、異世界の、しかも貴族のお嬢様からすれば、日本の高校生の寮なんぞはそんなふうにしか見えないんだろう。


「いやいや、これがオレの部屋なんだ。この世界でも日本は面積が狭い方だから仕方がないんだ」


「そう、なのですか。失礼いたしました」


「わかってくれればいいよ」


「では、ずっとお手洗いの前というのもどうかと思いますので、くつろげる場所へと行きましょう」


「くつろげるって、部屋の中は机とベッドで一杯で、そんなスペース無いに等しいんだけど……ってそっち違うから!」


 ソニアは部屋の玄関の方へと歩いていき、いきなりドアノブを握ったので慌てて止めにいった。


「何が違うのですか? あちらが寝室で、このドアの向こうにリビングがあるのですよね?」


「そんなものは無いんだ! ドアの向こうは共用の廊下で、オレの部屋はこの空間だけなんだ」


 この説明を聞いたあと、ソニアの表情にはとても信じられないという感情がありありと見えた。


 とにかく向こうに連れて行って詳しく説明しよう。


 そう思った瞬間のことだった。


「おーい、ハヤト! さっきからお前の部屋から女の声が聞こえる気がするんだけど!」


 隣室の住人で練習仲間の茂山五郎だ。


 今ドアを開けられたらヤバいことになる。

 慌ててドアノブを握りつつ鍵をかける。


 その後もドンドンとドアをノックし続けやがる茂山。

 普段は諦めが早いくせにこんな時だけしつこい!


 オレはソニアに向かって、自分の唇に人差し指を当てて声を出さないように注意を入れつつ、茂山に対して苦しい言い訳を始めた。


「オ、オレさあ。最近、TS転生モノにハマってて、女声で喋る一人遊びしてたんだよ、オホホホ!」


「え〜、そんな汚い声じゃなくてもっと美少女っぽい声だったけど」


「そ、それはこんな感じだったかしら〜? うふふふ!」


「……やっぱり違う気がするけど、まあいいや。遊ぶなら静かにやってくれよな」


 ふう、やっと諦めてくれたか。


 オレとソニアは静かに部屋の中へ移動し、彼女を椅子に座らせてこの寮のルールとかを説明した。


「……女子の出入り禁止ですか。それは困りましたね……この狭い部屋の中を歩くだけでは必要な情報を得られません」


「じゃあもういいよ、ゲートはトイレのままで。オレ、ここを追い出されたら行くあてないんだ」


 オレはもう諦めたのだが、ソニアは立ち上がって窓に近づき、そろっとカーテンを開けながら呟いた。


「ここから外に出ましょうか。それからこの建物の周囲を歩きましょう」


「出るって……ここ3階建ての最上階だぜ? さすがに飛び降りるのは無理だし、ロープとか窓から垂らしたらすぐ見つかっちゃうよ。それに囲っている塀もそこそこ高いし」


「それならば心配ありません。丁度良い高さの塀が窓の前にありますので」


 彼女はそう言いながら、肩にたすき掛けにしているバッグからワイヤーロープみたいなのものを取り出して右肩にかける。


「こんな事もあろうかと、用意しておいてよかったです。では外に出ましょうか、ハヤトさん」


 ソニアはやおら窓を開け放ち、驚くオレの身体を左腕で抱きかかえる。


 そして、いつの間にか右手に持っているサンダルみたいなのを履きながら窓枠に乗り、そのまま飛び降りたのだ!


 ぎょええええ〜!


 と叫ぶわけにいかず口を手で抑えながら恐怖に耐える。


 それより、塀まで10メートルはあるから、いかに彼女の脚力が凄くても届くわけが……。


 というオレの心配を他所に、彼女はワイヤーロープを塀の上部にある有刺鉄線に向かって投げ、絡ませる。


 それから塀に足を一度着地してから反動をつけ、一気に塀を飛び越えたのだ。


 そして塀の外側にまた着地しつつロープを起用に外し、そこから大したことなかったかのように軽く着地した。


「い、いきなりこんな怖いことしないでくれよ! 生きた心地しなかったぞ」


「これは意外ですね。向こうではどんな魔物を相手にしても臆せず飛び込んでいく貴方が、この程度で恐怖を感じるなどと」


「こっちじゃスキルが無いから、こういうのは本能的に怖く思うんだよ!」


「まあ、次からは気をつけますね。それはともかく、このサンダルを履いてから着地してください。それまで身体を抱えておきますから」


 そうだった……オレは今、一見華奢な女子に片腕で抱きかかえられているという、見られたらちょっと恥ずかしい状態なのだった。


 それにしても彼女の用意周到っぷりはすごいな、あのカバンは収納アイテムだったりするのだろうか。


 それに難なく3階から飛び降りてそこそこ高い塀も簡単に飛び越える……スキルも無しに魔物とやりあえるわけだ。


 異世界人の身体能力パネェっす。


 オレは急いでサンダルを履き、やっと自分の足で立てたのだった。


 まあ、寮の周囲には人通りもないし、さっさと一回りして用事を済ませちゃいますかね。

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