第12話 サプライズ
「それじゃあすぐにゲートを繋げてくれよ、王女様。オレは早く帰りたいんだ」
「ハヤトさん、少し待ってもらえますか? ゾフィも」
「はい、お姉様」
気がはやるオレに対して少しのんびり構えるソニア。
ダンジョンでは勇猛果敢な姿を見せる彼女だが、普段は割とマイペースなところがある。
持参していたバッグを持って部屋の奥へ引っ込もうとする……と、急にこっちを見て厳しく言い放つ。
「ハヤトさん。こちらを覗き込まないでくださいね」
「え? ああ、そんなつもりもないけど、何するつもりだ?」
「……それは、見てのお楽しみということで」
ソニアはいたずらっぽい微笑みを浮かべて奥に消えた。
なんなんだよいったい。
それはともかく、テーブルを挟んでゾフィと2人の状況になってしまった。
どうしよう、何話せばいいかわかんない。
ゾフィとは召喚された時と、あと1、2回会ったきりで、正直言えばよく知らない人なのだ。
共通の話題も……ソニアならダンジョンのことを話せばいいのだが。
だけど幸いにもゾフィから話しかけてくれた。
いや結果として幸いではなかったけど。
「ねえ、ハヤト様。ソニアお姉様とは、ひょっとして親しい間柄なのでしょうか?」
「いや、親しいってほどじゃねえけど。ダンジョンに潜る冒険者仲間としては、頼りになるというか」
「そう。それならば良いのですが。先程の微笑み……お姉様は親しい人にしか見せないものなので」
「そうかなあ? いつも微笑んでいると思うけど」
「先程のは、それとは違います……! 私にはわかるのです」
「そうなんだ。で、もし親しい間柄だったらどうだってんだよ?」
「ハヤト様は私が召喚した能力者ですが……『私の』お姉様とこれ以上親しくなることは、断じて容認できませんので。くれぐれもお忘れなきように……!」
ひえええ、眼がマジだ!
ゾフィがここまでソニアのことを好きだとは思いもしなかった。
双子なのに引き離されて育ったことが影響しているのだろうか……ここは黙って頷いておこう。
「お待たせいたしました。ん? 2人とも、何かあったのですか?」
「いや別に……って、その格好は!」
「うふふ、驚きましたか? 貴方の世界ではポピュラーだというこの服を、特別に誂えてもらったのです」
なんと、オレが寮の部屋着代わりにしていて、異世界に来る際はいつも着用している学校指定のジャージじゃないか!
それを彼女の体型にピッタリ合わせたものに着替えて出てきたのだ。
「いや、確かにポピュラーといえばそうなんだけど……何で着替える必要が」
「貴方の住んでいる日本という国では長らく戦乱が起きていないと、以前に教えていただきました。ならば鎧を着たまま赴くわけには参りません」
「それはそうだけど、部屋の中だけなら誰にもわからないよ」
「いえ、座標の情報を正確に得るためには、周辺も歩く必要があるのです」
「そうなのかよ……まあ、オレから頼んだことだから仕方ないけどさあ」
それにしても、サプライズのつもりでジャージのことは黙ってたんだな。
それがさっきの微笑みの理由というわけだ。
ダンジョンの中で見る厳しい表情とのギャップ……女子はよくわからん。
ところで、どうせならウチの高校の制服を着てほしかったな。
でも、それじゃオレがその格好でここに来ないといけないのか。
それはちょっとキツイ。
……いやいや、よく見るとジャージ姿もなかなか。
彼女の体型に合わせてピチッとしているせいか、特に胸のあたりの膨らみがよくわかる。
普段は鎧姿だからか着痩せして見えたが、実は結構な……!
「ハヤト様! 先程からお姉様のお姿、特に胸のあたりをジロジロと。いったい、どういうおつもりでしょうか……!」
しまった! ゾフィの怒りを買ってしまった。
ソニアもバッと両腕で胸を隠して……このままだとマズい、何とか釈明せねば!
「違う! よく再現できてるなと思わず見てしまっただけだ。特に胸のあたりのエンブレムまで精巧にってさ」
「……」
「不快な思いをさせたのなら謝る! そしてソニアの姿をもう見ないようにするから!」
「いえ、そこまでする必要は。次からは気をつけてください」
「お姉様! そんな甘いことでは殿方はつけあがるだけです!」
「大丈夫ですよゾフィ。あちらへ行けば神のご加護が無くなる……すなわち彼はスキルが使えなくなります。であれば、私が彼にお仕置きすることは造作もない事」
「それはそうですが……」
「さあ、そろそろ行きましょう。ゾフィ、申し訳ありませんがゲートを繋げてください」
「……わかりました。お気をつけくださいませ、お姉様」
ゾフィが右手を前にかざすと、すぐさま空間に歪みが発生した。
オレとソニアはそこを通り抜け、オレの側の世界へと戻ったのだった。
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