第11話 王女と騎士

 オレとソニアは今、王城内の謁見の間で片膝を着いて頭を垂れている。


 オレたちの視線の先には、数段の階段の奥に一段高く設置されている椅子に腰を掛けている女性と、それを取り巻く護衛の騎士たちがいる。


 女性はまだ若く、ソニアと同じような薄い金色の長い髪と、優しい目元をしているがどこか儚く感じさせる雰囲気をまとっている。


 その女性が、威厳を精一杯示そうとしているような話し方で問いかけてくる。


「騎士ソニアよ。例のダンジョンの件、首尾良く計画どおりに事を運んでいるのか?」


「はっ、ゾフィ王女殿下。本日、第10階層の手前まで一気に魔物を討伐し、結界を張ることに成功いたしました」


「それは上出来である。では直ちに王国軍へ命じよう。そこに拠点を構築する準備を進めよと」


「はっ。恐悦至極に存じます」


「では謁見はこれで終わりますが……騎士ソニアと従者ハヤトは後で別室に来るように。そこで今回の働きへの報いについて協議したい」


「はっ、承知いたしました」


 オレたちは謁見の間から退出を促され、衛兵に案内されて別室へと案内された。


 剣やナイフを衛兵たちに預け、中でソファに座ってしばらく待っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 どうぞ、とソニアが返答すると同時にオレたちは立ち上がり、ゾフィ王女が入るのを出迎えた。


 王女は伴の騎士に部屋の外で待つように指示を出し、ドアがバタンと閉められた……次の瞬間、王女はこちらへ駆け寄ってきた。


「今日、こうやってお会いできて嬉しいです! ソニアお姉様!」


 王女はソニアに抱きつくと喜びの感情を包み隠すことなく叫んだ。


 そう、この2人は姉妹……というか2卵生双生児なのだ。


 だから容姿は似てはいるがソックリではない。


 そしてソニアも嬉しそうな表情をしている。

 だけど少し戸惑ってる感じで王女に話しかける。


「そんな大袈裟な……つい先日も会ったばかりですよ?」


「あの時は謁見の間でしか会えませんでしたから。本当は毎日でもこうやって普通にお話したいのに」


「仕方がないでしょう。私はあくまで大臣の養女であり、臣下なのですから」


「……双子が忌み子などと、そのような根拠のない風習にお父様とお母様が従わなければ、私たちはずっと一緒に居られたはずなのです」


「それも運命です。私は結構今の生活を気に入っているのですよ?」


「ですが養女である以上、大臣の財産すら相続できません……本当はお姉様こそが王女に相応しいというのに、あまりに不憫で」


「いや、私のようなじゃじゃ馬よりも、いつも穏やかなゾフィこそが相応しい。それに父上……大臣には実の娘のように育ててもらいましたし、なんだかんだ言って何とかしてくれるはずです」


「いえ、私なんて。やはりお姉様こそが」


 運命に翻弄される姉妹の会話は感動的……ではあるが、今日は走りまくってさすがに下半身が疲れている。


 そろそろ終わってほしいなあ……ソニアはそれを察したのかオレに声をかけてくれた。


「すみませんハヤトさん。先に座っていただいて構いませんから」


「そう? それじゃ遠慮なく」


 ふう、一息つけた。


 因みにオレを異世界召喚したのはゾフィ王女の方で、ソニアは彼女からゲートを繋げる権限を与えられているだけなのだ。


 感受性がとても強いゾフィ王女は、1年前のダンジョン出現で王国軍に多数の犠牲者が出たことに心を非常に痛めてしまったらしい。


 それで禁断魔術とされる異世界召喚で強力なスキルを持つ者を呼び出し、できる限り犠牲者を少なくダンジョンを完全制圧したかったそうだ。


 まあ、オレだから良かったけど、他のやつならただただ迷惑な話だ。


 だからソニアはオレを無事に元の世界へ帰すことにこだわっているのだろう。


 と余談が長くなったが、そろそろ本題に入らないと。

 ようやく落ち着いて席に座った2人にオレは問いかけた。


「それで、オレの側の世界での出入り口、どうやって変えるのさ?」


「先日も少し話しましたが、私が一度あちらへ趣き、座標軸などの情報を取得する必要があります。そのため、今回はゲートをゾフィに繋げてもらう必要があり、彼女の体調がいい時を見計らっていたのです」


 騎士として活躍しているソニアと違って、ゾフィは魔力は強力だが身体が弱いのだ。


 まあ、そういうことなら納得した。

 それじゃ早速あちらに戻ろう。

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