第10話 和解と快進撃

「痛ってーなぁ! いきなり何すんだよ!?」


 いきなり頬をひっぱたかれたオレは、まだ右手を降ろしていないソニアに向かって怒りの声を上げた。


 しかしソニアは逆に表情をより険しく変えてオレを非難した。


「……危ない状況になったら、すぐに戻ってくださいと、そう言ったはずです!」


「危なくねーだろ、余裕で倒したんだからよ」


「どこが? 左腕を血だらけにして、それでよくそのようなことが言えますね!」


「ちょっと怪我しただけじゃないか」


「ちょっとどころではありません……リラさん、お願いします!」


 ソニアから強い口調で指名されたヒーラーのリラは、オレの左腕に両手を近づけてパアッと温かい光のようなのを患部に当てる。


 すると少しずつ傷口が塞がってきたのだ。


「ありがとう、リラ。それより、何が気に入らないんだよソニア! オレは倒せると思ったから挑んで実際に倒した。それの何がいけないってんだよ?」


「……私は、元々この世界……いえこのダンジョンに無関係な貴方を、無事に帰す義務があるのです!」


「そんなこと言うなら、最初っから呼ぶんじゃねえよ! オレはいつも補助的な役回りばかりなの、ウンザリなんだ!」


「そんな、子供みたいなことを言わないでください。チームで動いているのですよ!?」


「もういい加減、落ち着けって2人とも! とにかくハヤトが無事だったんだから、それ以上はもういいだろう? ソニア」


「……はい」


「ハヤトも、パーティリーダーの指示を無視したんだから……言うことあるよな?」


「ああ。悪かったよ」


「……今回だけは許します」


 タンク役のラファウが間に入ってくれて、ようやく言い争いは収まった。


 恐らくこのパーティで最年長っぽいラファウの落ち着いた対応に救われた。


 それからオレは、リラに治療を受けつつ何が起きていたかをメンバーに軽く説明した。


 リラは特にナイフに興味が湧いたらしく、じっと見たあとに口を開いた。


「へぇ〜、そのナイフってそんなに切れ味抜群なんだ。どうして僧侶のライサさんがそんなの持ってたの?」


「元々は、この王国内で暴れ回っていた盗賊団の長が持っていたものです。ある時彼がそれまでの罪を悔いて懺悔しに現れた時、もう不要だと私に預けたの」


「ふーん。確かに滅茶苦茶高そうな品だもんね、盗んだ金で作らせたってとこかな」


「詳しくは存じませんが、私には扱い辛い武器だったので……何となくハヤトさんなら上手く使ってくれるかもと渡したのが正解でしたね」


「それじゃあ一か八かでオレに渡したってこと?」


「そういうわけでは……だけど私の勘はよく当たるんですよ?」


 なんだかなあとは思うけど結果オーライで納得することにした。

 そしてここまではフンフンと話を聞いていたラファウが顔を寄せてきてオレにスキルのことを聞いてきた。


「新しい能力って……コアを自分の手に引き寄せられるなら、今までよりも格段に討伐しやすくなるじゃないか。よく思いついたな」


「まあ、もしかしたらできるのかな〜って」


「へっ、スリみたいな能力ってか〜。そりゃあスリだから……」


 またヨハンの奴がウザ絡みしてきやがった。


 しかし今度は他のメンバー全員が黙ってヨハンの方に視線を向ける。


「……わかった、もう言わねえって。俺としても仕事が楽になるなら文句はねえ」


 さすがにしつこ過ぎるのは嫌われる。

 特にこんなダンジョンの中で騒ぐようなのは鬱陶しいだけだ。


 その後、階層を進むにつれて魔物の数もレベルもあがってきたが、ようやくまとまってきたパーティは次々と撃破していく。


 前衛のラファウとヨハンが雑魚敵を引き受け、ソニアは魔法の弓矢で支援攻撃をする。


 そして露出させたコアはオレが回収し、ライサがカマイタチのような真空の刃で次々と破壊していく。


 その階層のボスクラスみたいなのは、全員が支援してくれるお陰でオレがコアを体内から擦りとっていく。


 慣れると魔物につけた傷口にサッと手を入れるだけでコアを手元に引き寄せられるようになったのだ。


 そうやって第10階層の手前まで快進撃は続いたが……。


「ここまでにしましょう。ひとまずこの地点に拠点を構築する準備をします」


 ソニアの判断でここまでとなってしまった。


 まだ行けたのにな〜。


 僧侶のライサが入口に念入りな防御結界を張り、それが終わると全員引き上げ始めることになった。


 引き上げる道でメンバーたちはソニアに疑問をぶつけた。


「このあと、誰が拠点を構築するんだよ?」


「王国軍の専門部隊が、結界の効力が切れる3日後までに突入して対応します」


「え、それじゃソニアって王国軍の人?」


「……いえ、違います」


「でも王国軍を動かせるんでしょ」


「逆です。王国軍が、冒険者ギルドに出入りしている私に依頼してきたのです。それを、クエストという形でギルドで募集しました」


「じゃあ、今回の報酬の出処は王国軍ってわけか」


「大元はそうですね。それをそのまま報奨金に当てました」


「それだと、ソニアはまた無報酬じゃないのか? もちろん詮索はしないが、何の使命感があってそんなことを」


「……いえ、さっきのは誤りでした。私の取り分を差し引いた分が今回の報奨金です」


「なるほど、それならば納得だ」


 途中からオレは、誤魔化しばかりの話に心の中では苦笑していたが……彼女が言わない以上はオレがバラすわけにもいくまい。


 そして地上に出たあと、オレとソニアは他のメンバーたちと別れた。


 さて、今日はいっぱい盗れたからグッスリ眠れそうだ。

 早いところ元の世界に帰ろう。


「じゃあ、悪いけどゲートのところまで案内してくれよ、ソニア」


「……今日は、もうゲートを閉じました」


「ちょいとまて! それじゃ帰れねーじゃねーか! 何してくれてんだよ?」


「あちらの世界の出入り口を別の場所にしたいというハヤトさんのご希望について、今日は準備が整いましたので。これから一緒に来てもらえますか?」


「っていうか行くしかないけど、どこに行くんだよ?」


「ハヤトさんもよくご存知の場所……私たちが初めて出会った場所です」


 あそこかな……そう思い浮かべつつオレは彼女についていくのだった。

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