第9話 新たな能力

 第4階層に着いたオレは、その光景に目を奪われた。


 オレは第3階層までしか来たことないので、初めて目のあたりにしたのだ。


 なにせ、オレが呼ばれるのはこの前みたいな緊急の案件のみ。


 危険なレベルの魔物が地上に近づいている時にそれを退治するためだけのクエストのみに参加して、それが終わればさっさと地上に引き返していた。


 まあ、それはともかくとして。


 ここまでは何の変哲もない洞窟だったのに、急に壁のあちこちがパァッと明るくなっている。


 その光の元になっているのは、鉱石みたいな結晶だ。


 冒険者たちはこれが目当てでこのダンジョンに潜るんだろうな。


 オレはとにかく真っ直ぐ進んでいく。


「ギギギギ……」


 突然現れたのはサソリみたいな魔物がいっぱい……数十匹!


 こっちに気づいて近づいてくる。


 逃げるか……いやどうせ奴らじゃオレのスピードについてこられない。


 さっき貸してもらったナイフを取り出して、一人でどこまでやれるか試してみよう!


 オレはフルスピードでサソリどもの間をすり抜けつつナイフで切り刻んでいく。


 奴らはギギーッ! と次々と叫び声を上げていく。


 このナイフ、スゲー切れ味だ。

 戦闘訓練とか受けたことないオレでも軽く力を入れただけで切り裂くことができるのだ。


 切り裂いた箇所にコアが見えた個体から即座に回収しつつ一回りして、一旦距離を取る。


 そして回収したコアを片っ端からナイフでパリンパリンと割っていくと、ドンドン奴らの数が減ってきた。


 このナイフさえあれば、オレだけで討伐できるじゃん!


 それから2周回って同じことを繰り返すと、遂に全滅させることができたのだ!


 オレって実はスゲー!

 今まで攻撃力が無かったから補助的な役割に終始したけど、これならオレ一人でダンジョン制圧できんじゃね?


 問題があるとすれば体力だけだが……現役高校球児のオレにその不安はない。


 それじゃドンドン奥に進もう。


 現れた魔物たちをあっという間に蹴散らし、いよいよ第5階層へ。


 そこは何故か壁が石垣みたいので覆われていて、今までの洞窟っぽい雰囲気から一変した世界だ。


 だいたい魔物しかいないはずなのに誰がこんなものを構築してるんだ?


 まあ、オレとしては走りやすいからむしろ好都合だけど。


 そして調子よく走り出したのはいいのだが。


 いきなり前から大きな炎の塊がブワッと!


 間一髪避けた先にまた炎が。


 それを3度繰り返した先に現れたのは、ドラゴン!


 いやちょっと違う。

 巨大なトカゲみたいな姿で全身が赤く、いかにも炎属性のモンスターって感じだ。


 そして接近すると、今度は大きな口をグワァーと開けて瞬間的に首を伸ばしてきた。


 ガブッと口を閉じる前に避けたが、油断ならねえな。


 離れると奴はグアァーッと威嚇するように咆哮し、すぐさま炎の塊が飛んでくる。


 これじゃあ攻撃どころじゃない。


 だけど必ず隙があるはずだ。

 それを待とうって考えたが……今度は四足歩行で近づいてきて、思ったよりも速い。


 またもや首を伸ばしての攻撃を避けて、炎を避けて。


 ヤバい、この繰り返しで追い詰められそうだ。


 こうなったら奴の攻撃のどっちが来るかを読んで、炎を吐く隙に懐に飛び込んでみよう。


 攻撃に移る前のモーションは途中まで首を一旦すくめるという、ほぼ同じものなんだけど……。


 炎を吐くときは少しだけかぶりを振る!


 ブワッと炎がすぐ横を通り過ぎていくのを感じながら懐に入ったオレは、横を駆け抜けながらナイフで切り裂いて……。


 ガキィッ! と刃が弾かれてしまった。

 鱗か……なんつう硬さだ。


 驚いて奴の傷がつかなかった皮膚に見入っていたら、今度は前から何かが飛んでくる気配が。


 ブンッ! と尻尾が振られてくるのをなんとか飛んで避け、着地際を狙ったかぶりつき攻撃も凌いでまた距離を開ける。


 オレ一人でコイツを倒してみたい……だが流石にそろそろ決着をつけないと、こっちの体力が保たない。


 次でダメなら、悔しいが全速力で撤退しよう。


 もう一度炎を吐く瞬間に懐に入り込み、今度は足を止めてナイフを思いっきり突き立てる!


 鋭い刃先が鱗を貫通し、ザクッと小気味良い音が聞こえたあと、更に皮膚を横に切り裂いていく。


「ギィヤァァーー!」


 悲鳴を上げて身体をよじらせ、オレを振りほどこうとする。


 うわあああああ!

 必死でナイフの柄にしがみつき、それでも左手を傷口の中に差し込んでいく。


 もし、オレのスキル『窃盗』が現実のオレの能力に関連しているなら……コイツの身体の中で『手探り』してコアを擦ることができるんじゃないか?


 そしてその予感は当たっていた。

 オレの手がコイツの体内に伸びていって探り当てようとするみたいな感覚が頭の中に広がっていく。


 そして遂にコアを手掴みした感触が……!


 しかしそうしている間にも傷口が塞がってくる。


 急いで腕を引っこ抜かないと。

 しかも魔物の前脚がオレを振り払おうと、上から振り下ろされてくる。


 ダーン!


 前脚が地面に振り下ろされた……が、オレは間一髪で腕を引っこ抜いて避けることができた。


 ただ、無理矢理だったので左腕は傷だらけだが。


 それはともかく、急いでナイフでコアを真っ二つに割る。

 ギィヤァァーー! と断末魔を上げるトカゲの魔物。


 ようやく戦いは終わった。

 オレはとうとう、一人で強い魔物を倒したのだ!


「おーい! ハヤト、大丈夫なのかー!」


 ラファウの声が階層の入口の方向から聞こえてくる。


 やっとあいつら追いついてきたらしい。

 でもオレだけで倒しちまったけどな。


「どーだ! オレ一人でコイツ倒したんだ、スゲーだろう! わははは!」


 オレの側に近寄ってきたソニアに自慢してやろう、そう軽い気持ちで叫んだのだが。


 パーン!


 次の瞬間、オレの頬はソニアの平手打ちを食らっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る