第14話 喪失
ー早朝 教会ー
「ふあ……」
いつもと同じように目を覚ましたアルテミスは、礼拝堂へと向かった。
しかし、そこには——
険しい表情をした 星野 の姿があった。
「う・・・ホシノ・・・?」
嫌な予感がする。
「そこに座りなさい、アルテミス」
有無を言わせぬ口調だった。
アルテミスは恐る恐る椅子に腰を下ろす。
すると、星野はすぐに話を切り出した。
「昨日のイリスへの態度・・・何であんなことをしたの?」
「・・・」
「かわいそうじゃない・・・」
「だ、だって・・・イリスがやったことは、ダメなことだったじゃないか・・・!」
アルテミスは反論するが、星野は首を横に振る。
「確かに、イリスのやったことは許されることじゃないわ。でも・・・」
星野は静かに言葉を継ぐ。
「ちゃんと謝ったじゃない」
「・・・っ」
アルテミスは何も言えなかった。
「イリスは約束してくれたの。もう二度としないって」
「・・・」
「だから、許してあげて。あなたたちは家族でしょう?」
その言葉に、アルテミスはしばらく黙り込んだ。
そして、ぽつりと呟く。
「・・・わかった。イリスが戻ってきたら、私からも謝る」
その言葉を聞いて、星野は微笑んだ。
「いい子ね、アルテミス。やっぱり、家族は大事にしないと……」
・・・・・・
ーステラ・ストリア開発局 星野専用の個室ー
「ふう、これで一件落着ね」
ゲームモニターの前
現実世界、星野は一息つきコーヒーを口にしていた
(家族、か・・・。あの子がもし生きていたらどんな家族になっていたのかな・・・?
イリスのように天真爛漫で無邪気な子なのか
アルテミスのようにしっかりしているようで甘えん坊さんだったり・・・)
そんな妄想をしていたところ
〜♪〜
突然電話が鳴りだす。上層部から
「はい、星野です!」
「・・・・え?イリスが!?」
突然表情が険しくなる
ー教会の礼拝堂ー
アルテミスは、一人で待っていた。
星野と、イリスを。
そんな中、礼拝堂の扉が開く。
入ってきたのは 星野 だった。
しかし、いつもの明るい雰囲気はなく、彼女の表情は暗い。
うつむきながら、ぎゅっと拳を握りしめている。
「ホシノ・・・? イリスはどうしたんだ?」
アルテミスが問いかけると、星野は顔を上げる。
そこには、溢れそうなほどの 涙。
「イリスは・・・イリスは・・・!」
涙が頬を伝い、声が震えている。
そして
「イリスは消えた」
突然、星野の背後から 男 の声が響いた。
その言葉に、アルテミスは耳を疑う。
「・・・は?」
「プ・・・プロデューサー! 言葉を選んでください!!」
泣き叫ぶように星野が男を睨みつける。
アルテミスは状況を理解できず、問い返す。
「消えた・・・? 消えたって・・・どういうこと?」
プロデューサーと呼ばれた男は、冷静に答えた。
「負けたんだ。冒険者に。そして——どういうわけか、データそのものも消去された」
アルテミスの胸がざわつく。
「・・・つまり、イリスは 死んだ のだ」
その瞬間、頭が 真っ白 になった。
「死んだ・・・? し・・・死・・・?」
理解が追いつかない。
自分の中で、言葉の意味がまとまらない。
「死って・・・何?」
アルテミスの問いに、プロデューサーは無情に答える。
「もう会えない ということだ」
「プロデューサー!!」
星野が叫ぶが、男の態度は変わらない。
アルテミスは震えながら呟く。
「そんな私、まだ・・・イリスに謝っていない。仲直りしていないのに・・・。」
喉の奥が締めつけられ、息が詰まる。
そんな彼女をよそに、プロデューサーは続けた。
「君たち双子は、もう少し危機感を持つべきだ」
「・・・危機感?」
「いいか? 負けたら消える。それが お前たちの運命 だ」
彼の目に、同情の色はない。
「それに、消えてしまうのは 我々にとっても困る ことだ」
「・・・!」
「なぜなら、君たちは 金になる からな」
その一言で、星野の怒りが爆発した。
「この子たちは、命を懸けて戦ってるんですよ!!」
「それなのに、何も感じないんですか!? 大切な家族が消えてしまうことが・・・どれほど辛いことか!!」
「辛かろうが悲しかろうが 所詮AI だ。人間ではない。作り物だ」
「・・・!」
星野の瞳が揺れる。
拳を強く握りしめながら、叫ぶように問いかけた。
「だったら・・・なぜ『心』を持たせたんですか!?」
プロデューサーは 微笑すら浮かべ、答えた。
「話題作りのためだ」
それだけ言い残し、彼は 消えた。残されたのは——
呆然とする アルテミス。
「イリス・・・」
魂が抜けたように、呟く。力なく、崩れるように座り込んだ。
そんな彼女を見て、星野は静かに 抱きしめた。
「大丈夫・・・
あなたは・・・絶対に消えさせはしない」
「私が・・・絶対に守るから・・・!」
震える声で、強く、強く誓う。
「今日は……お休みしましょう……」
優しく語りかけると、アルテミスは小さく頷いた。
「………ああ」
ただ、それだけがやっとだった。
ー現実世界 ステラ・ストリア開発局 星野専用の個室ー
星野は机に積まれたデータと資料を手早く引き寄せ、モニターに向かってひたすらプログラムの検証を進めていた。
指先は止まらない。目の奥には焦りが滲む。
(ありえない……イリスが消えるなんて……)
(そんな仕様にした覚えはない。やられても消滅しないよう、きちんと設定してある……)
(原因を突き止めなきゃ。あの瞬間を確認する……)
開発局ではユーザー間のトラブル防止のため、全フィールド内の出来事を常時録画している。
星野は該当する映像を呼び出し、再生ボタンを押した。
「……これは?」
⸻
ー現実世界 東京・とあるアパートー
狭い個室で、ひとりの男が険しい顔でモニターを見つめていた。
彼こそ後のリュウセイ、そしてゲーム内で「ナガレ」と呼ばれるトッププレイヤーだった。
「……なんだったんだ、あれは?」
⸻
ーゲーム内 フィールドー
時は、イリスがナガレとオリオンに追い詰められていた場面。
特にナガレの攻撃は容赦なく、イリスは防戦一方だった。
「悪いが……これで終わりだ」
ナガレが刀を振り下ろす——その瞬間。
「
「な……!?」
突如、ナガレの腹部を複数の光線が貫いた。
同時に、イリスの身体にも光が突き刺さる。
「ぐ……が……っ!?」
ナガレは苦痛に顔を歪め、振り返った。
そこに立っていたのは——オリオン。
その指先から、なおもレーザーが迸っていた。
「お……まえ……!?」
イリスは胸を押さえ、膝をつく。
「そ……そんな……? 私、負け……たの……?」
混乱しながら、ナガレはオリオンを睨む。
(馬鹿な……奴の能力は物体操作のはず……!)
(複数の能力……? いや、そんなことをすれば通常は能力の質が下がる……)
(まさか……不正か!?)
「オリオン……お前……」
問いかけに、オリオンは不気味な笑みを浮かべた。
「クク……フハハハハハハ!!」
次の瞬間、オリオンはイリスへ向かって駆け出す。
「イリス……もらったぞおおおお!!」
「え——?」
光が爆ぜ、イリスの身体は跡形もなく消えた。
まるで、吸い込まれるように。
ナガレの瞳が見開かれる。
「お……前……」
オリオンは狂気の笑みを浮かべ、叫んだ。
「ついにイリスを手に入れたぞ……! これで俺は……!」
ログアウトのエフェクトが彼を包み、姿は消える。
残されたナガレも光の粒子となり、崩れ落ち——消滅した。
⸻
ー現実世界 開発局ー
映像を見終えた星野は息を呑んだ。
「……何、これ……? 本当に奪ったみたい……」
「もっと詳しく調べないと……」
⸻
ーゲーム内 教会ー
アルテミスはひとり、礼拝堂で立ち尽くしていた。
頭の中を、イリスの姿が離れない。
(……アルテミスにも教えてあげるよ。プログラムの書き換え方を……)
「プログラムの……書き換え……!」
次の瞬間、彼女の周囲に黒い靄のような気配が漂い始める——。
⸻
ー夕暮れ 開発局 星野専用個室ー
星野はなおも原因を追っていた。
ふと時計を見ると、すでに17時を回っている。
「あ、もうこんな時間……アルテミス、寂しがってないかな……様子を見に行こう」
ログインし、教会の中に降り立つ。
しかし——そこは静まり返っていた。
「アルテミス……?」
誰もいない。空気は冷え切り、わずかに重苦しい気配だけが残っていた。
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