「10」「羽」「命令」を峠のそば屋で考える。
「10」「羽」「命令」を峠のそば屋で考える。
そば屋専門店で、うどんのメニューを見つける。そばの種類は多岐に用意されているその店で、うどんのメニューは、たったひとつ。なぜ、そば屋専門店に、うどんのメニューが存在するのか、その一塊の疑念を見逃せる勇気はないとする。なぜ、どうして、そば専門店に、うどんが。まさか、誰かに命令されているのか、うどんも出せと圧力が。そして、もし、それが邪悪な組織だったとしたら、どうする。このうどん、どう扱うべきなんだ。あせるな、あせるな。ここはとりあえず、手羽先のからあげを頼んで考える時間を稼ぐとする。無論、手羽先のかはあげを待ちながらも考える、なぜ、そば屋専門店にうどんが、うどんが、うどんが。でも、おいちょっと待てよ、そば屋専門店に、なぜ、手羽先のからあげもあるんだ。ええい、やられぜ、この完全にやられた、この気分はさながら、さながら、そう。
最終の左コーナーでインを攻めて、すぐ迫る後続車のラインをブロックしていたのに、相手がバックミラーから、ふっと消えたかと思うと、まさかの大外から、しかも完全なオーバースピードでつっこんできたため、ついアワをくってしまった瞬間、ハンドル操作を二ミリあやまり、かつ前半のコースで消耗しきってダレ気味になったグリップ力皆無の後輪タイヤがきゅるきゅると悲鳴をあげてすべり、しまったと思ったときには、インに、ぎりぎり一台ぶんのスペースが生まれ、直後、後続車のフロントがシャープにつっこまれる。なんとかこっちのフロントでフロントを抑えこんで、抑え込みたい。だがしかし、もはや、こちらのタイヤには強引にラインをかえるだけのグリップ力がない、このまま無理に阻止へ動けばスピンしかねない、と、想像し、その恐怖がハンドル操作およびペダルコントロールの繊細さを欠如させ、そして、奴に、最後のコーナーで抜かれた。
そして、ゴールで10秒の差をつられて、敗北となる。
そば屋専門店に、うどんがあったばかりに、こんなことに。
そうさ、そば屋専門店にうどんさえなければ、勝てていたのかも、しれない。
でも、あの人は、こう声をかけてくれるだろう。
きっと、この負けがあなたをさらに早くする。
――――そば屋の店長から。
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