第41話 親子揃ってのタイマン
……その頃、別の場所では。
「……む」
私―――親船正雄は、リビングを掃除しているときに嫌な予兆を感じ取ってしまった。これはいつもの、家族に危機が迫っているときに感じるものだ。今の時間であれば、妻も娘も学校だろう。
「行くか」
丁度掃除も一段落ついたし、そうでなくとも家事より家族の安全のほうが大事だ。私はすぐに家を飛び出して、学校へ向かう。
「……!」
だが、すぐに足を止めることになった。見覚えのある男が、私の進路を塞いでいた。
「おう、また会ったな。あの時の続きといこうぜ!」
その男は、私と同じくらいの大柄で、私以上に乱暴な人間―――いや、人間のようだが人間ではない相手だ。確か、名前は……。
「アル、と言ったか」
「覚えててくれたか! んじゃあ、早速やるぜ!」
アルは拳を握ると、そのまま殴りかかってきた。相変わらず凄まじい勢いだ。
「くっ……!」
私は拳を受け止め、そのまま戦闘態勢に入る。……このタイミングで仕掛けてきたということは、十中八九私の足止めが目的だろう。つまり、学校で由美たちが危ない状況にあるのは確実ということだ。
「ならば、押し通るまでか」
時間稼ぎに付き合うつもりはない。とはいえ、簡単に通らせてくれる相手でもないのは、先日対峙して分かりきっている。厄介なことになったと考える間もなく、そのまま殴り合いに突入したのだった。
……その頃、学校では。
「こうして見ると、とんでもないことになってるね……」
屋上にて。魔法少女姿に変身した私たちは、校舎を見下ろして戦慄していた。……校舎全体がBEMウイルス特有の黒い靄に覆われて、外壁の色合いが完全に変わっている。いつの間にか、ここまでされていたなんて。
「とにかく、早く事態を収拾しないと」
「そうだね。みんな、行くよ!」
私たちは飛行能力を使って、グランドへと飛び降りる。……飛行能力は相変わらず扱いが難しくて戦闘には不向きだけど、移動だけなら問題なく使えるので、こういうときには便利だ。
「……来ましたね、魔法少女」
グランドの中央近くに降り立つと、丁度その前方にはボスクラスの姿が。燕尾服の青年、セプテンだ。その後ろには、人型BEMが四体―――さっきよりも増えている。
「わざわざ学校に乗り込んでくるなんて、どういうつもり? ずっこく迷惑なんだけど」
「でしょうね。だからこそ、乗り込んだ甲斐があるというものです」
輝美の文句に、セプテンはそう言いながら、後ろの人型BEMに手を伸ばす。……何となくだけど、嫌な予感がする。
「リーフ! イノセント! 止めて!」
「させるとお思いで?」
私は咄嗟に奈美と一美に指示を出して彼を攻撃させようとするけど、セプテンのほうが先に動いた。空中に黒い靄で出来た槍が何本も生成され、こちらに飛んでくる。
「させない!」
輝美がバリアを張って私たちを守ってくれる。お陰で槍は防げたけど、そのせいでセプテンの行動は止められなかった。
「この方法はあまり使いたくなかったのですが……こうなっては、手段を選んではいられませんからね」
セプテンの両腕が、人型BEMの首を掴む。すると、彼の腕が黒く染まり、人型BEMと同化していく。そのまま人型BEMの形が崩れ、まるで巨大な腕のように変形していった。
「あれ、ヤバくない……?」
「どう見てもヤバいでしょ……」
そうして、セプテンは両腕だけが異形の姿となった。胴体の大きさに見合わない、巨大な黒い両腕。普通に考えたらバランスが取れなくてまともに動けないだろうけど、そこはBEMという存在故か、そんな様子もない。
「とにかく、エボリューションフォームで―――」
「ですから、させるとお思いで?」
輝美が切り札を切ろうとするも、セプテンの腕はそれよりも早く動いた。見た目に似合わぬ俊敏さで、その大きさを生かして彼我の距離を物ともせずに彼女に掴みかかる。
「ぐっ……!」
輝美はバリアで防ごうとするけど、そのバリアごと掴まれて、そのまま投げ飛ばされる。
「ブラウン……!」
彼女はそのまま、遠くへ飛んで行った。……バリアは張っているし、落下の衝撃だけなら問題なく耐えられるだろう。飛行能力で合流するのも難しくはないはずだ。だから今は、彼女の心配をするよりも先に、目の前に立ち塞がる敵に集中しないと。
「みんな! とにかく距離を取って! 私が足止めするから!」
「遅いですよ」
「きゃっ……!」
「くっ……!」
だけど、私が指示を出すよりも早く、他の二人が巨大な腕に掴まれてしまう。……二人とも私よりも後ろにいたのに、わざわざ私を無視して二人を狙ったんだ。
「一度に四人の相手は厳しいので、分断させてもらいますよ」
そうしてセプテンは、奈美と一美も遠くへ放り投げた。輝美と違って二人は防御能力がないから不安だけど、飛行能力でうまくダメージを抑えてくれることを祈るしかない。というか、二人を心配している余裕がない。
「まずはあなたからです」
セプテンがそう言うと、巨大な腕が消えて、元の大きさに戻る。せっかく強化したみたいなのに、もう解除してしまうのか。
「ああ、この腕ですか? 体に負担が掛かるから多用出来ないんですよ。……ですが、あなた相手には十分でしょう?」
「……っ!」
私の疑問を察したように、セプテンが言ってくる。要するに、私を舐めているのだ。しかも、わざわざ口に出して煽っている。……確かに、私はエボリューションフォームが使えない、みんなより弱い魔法少女だ。ボスクラスを一人で相手取るのは厳しい。そうでなくても、プリメラ相手に失態を演じたように、人の姿をした相手を殴るのには抵抗がある。舐めプされるのも仕方ないのかもしれない。
「……負けない」
でも、だからって諦めるわけにはいかない。……彼の背後には人型BEMがまだ二体控えている。校舎を覆う黒い靄はまだ消えていないから、多分あの二体がその発生源なのだろう。あれを倒さないと、学校のみんなを助けられない。
「私が、何とかしないと……!」
私はステッキを構えて、セプテンと対峙するのだった。
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