18走目 決着 レティシアVSヴィオラ

 ヴィンテール・ジュニアサマー・カップの終盤戦。ヴィンテール市のレース場は観客の歓声で最高潮に達し、私はアウリスさんと共に観客席で観戦している。


「すごいですね……」

「そうだな。特に今回はあの子たちが主役と言えるだろう。新人と呼ぶには完成しすぎている」


 そう言ってアウリスさんが指差す先にいるのは、ヴィオラさんだ。レティシアとヴィオラさんは回転刃ゾーンを抜け、最終障害物「天空の橋」ゾーンにたどり着く。レースはもう二人の一騎打ちだ。


「どっちも頑張れ……」


 私はレティシアとヴィオラさんの接戦に、完全に心を奪われる。あの二人の走る姿が……まるで伝説の一ページのようで……私が作りたい世界のようで……だから私は……。

 レティシアの根性とヴィオラさんの余裕な走りから受けた刺激は、明日のヴィクトールビギナー・カップで私が走る時に活かせるかもしれない。


「レティシア、すごいな……私も……」


 私はそう呟き、両頬を叩いて気合いを入れる。


「時に君は……私の走りを意識していないだろうか?」


 アウリスさんに言われ、ドキリとする。確かに最終直線で一気にごぼう抜きするスタイルは……まんまアウリスさんのパクリだ。


「す、すみませんアウリスさん!」


 私は慌てて謝ると、アウリスさんは表情を変えずに私を見つめる。


「……別に君のスタイルを否定しているわけではないさ。だが、それは君の走りか?」

「え? ……それってどういう……」


 アウリスさんの言葉の意味が分からず尋ねる。でも、その瞬間、レース場からスキル発動の掛け声が聞こえ、意識がそちらに持っていかれる。


「【星の道程アストラ・ヴィア】」


 ヴィオラさんだ。揺れる吊り橋の上をなんなく走っている。あれは……足の踏み場の正解が分かるスキル? この天空の橋ゾーンは飛行と跳躍が禁止で、吊り橋は脆く、間違えた場所を踏めば簡単に崩れ落ちてしまう。レティシアは足を踏み外しても落下する前にロープを掴み、即座に復帰して耐えているけど……あれじゃ勝てない。

 案の定、レティシアはヴィオラさんに追い抜かれる。


『ここでヴィオラ選手、先頭に躍り出た!! レティシア選手はここで失速か!?』


 ……レティシアでも勝てなかったか。


「アウリスさん……私は……」

「君の走りは、君だけのものだ。それを忘れずに走るんだ」


 そう言って私の肩を叩くアウリスさん。私はヴィオラさんの勝ちを確信する。彼女はあと直線を走り切るだけ。だから……


「負けて……たまるかぁああああああああああ!!!!!!!!!!」

「え? ……レティシア?」


 叫び声。レティシアの全力の声が会場に響き渡る。


「【無限疾走エテルノ・クルスス】! 【無限疾走エテルノ・クルスス】!! 【無限疾走エテルノ・クルスス】!!!」

『おおっと!?!? 前代未聞!!! 同一スキルの三重掛けだ!!!!』


 スキル同時起動!?


「ヴィオラ、やっぱり私は貴女に勝ちたいの!!」

「……ううん、勝つのは私」

「違うわ! 私が勝つ!」


 すごい……すごいよ、レティシア。彼女の走りは土を大きく巻き上げ、駆けた跡はまるで土柱が立つかのように大地を抉る。ヴィオラさんとの距離をぐんぐん詰めていく。私は観客席で立ち上がり、息を呑む。


「…………レティシア……それ、貰うよ。【星の煌めきアストラ・フルゴル】、【星の煌めきアストラ・フルゴル】、【星の煌めきアストラ・フルゴル】」

「え!?」

「うそでしょ!?!?!?」

『なななな、なんと! ヴィオラ選手が即興でレティシア選手の三重掛けを模倣し、超加速をしたぞ!! これは決まったか!? ヴィオラ選手、後ろを走るレティシア選手との差を再度開ける!!! そしてそのままゴール!!』

「私の……負けだ。まさか……負けるなんて……」

「……はぁ……はぁ……」

「あぁ……」

『今、この瞬間!! 1着はヴィオラ・アストラ選手! 2着にレティシア・ヴェントゥス選手が入りました!! このレースを制したのは、ヴィンテール・ジュニアサマー・カップを制したのは……ヴィオラ選手だぁああ!!』


 レース場は歓声に包まれる。私はレティシアとヴィオラさんの走りを見て、胸が熱くなる。レティシアの根性、ヴィオラさんの冷静さ……二人ともすごい。


「すごい……」

「ああ、そうだな。だが……」


 アウリスさんが私を見る。そして言う。


「君は彼女たちに勝たなければならない。違うか?」

「あ……」


 そうだ。私はヴィクトールビギナー・カップで勝って……そして次はヴィオラさんに挑もう。

 ゴール後、レティシアが観客席の私に手を振る。彼女の汗だくの笑顔が、悔しそうだけど輝いている。私は手を振り返し、心の中で呟く。レティシア、すごかったよ。私も負けないからね。

 ヴィオラさんが表彰台でトロフィーを受け取る。彼女の無表情な顔が、ふと私の方を向く。私の勘違いかもしれないけど、あの銀色の瞳が「次はお前だ」と言っている気がして、背筋がゾクッとする。


「アウリスさん、私……明日のレースで絶対に勝ちます。レティシアやヴィオラさんに追いつくために!」


 アウリスさんが微笑む。


「君の走りを見せてくれ、フィリア。君ならできる」


 私は力強く頷く。観客席の熱気がまだ冷めない中、私は明日のヴィクトールビギナー・カップを想像する。【魂の道ヴィア・スピリタ】で加速し、【王者の跳躍レクス・エクス】で障害物を越える。レティシアの根性、ヴィオラの冷静さ、二人の走りから学んだことを全部活かすんだ。


『次の障害物は過去最大の挑戦だ!! ヴィクトールビギナー・カップ、明日開催!! 新人たちの熱い戦いに期待せよ!!』


 実況の声が響く。私は胸を高鳴らせながら、レティシアがこちらに駆け寄ってくるのを見る。


「フィリア! 明日、絶対勝ってよ! 私、応援に行くから!」

「うん! レティシア、ありがとう! 絶対に勝つよ!」


 私は彼女の手を握る。ヴィオラさんの背中が遠くに見える。あの背中に追いつくために、私は走る。自分の走りで、伝説を創るんだ。

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