枯野の詩集

砲撃の音が遠のき

硝煙のにおいが薄れ

閉じた瞼が震えて

最後の息を吐いたあと


兵士のリュックから

一冊の詩集が

こぼれ落ちた


春の風

夏の香

秋の光

冬の雪


詩編の言葉が

光の残像となり

枯れた野原に

立ちのぼる



詩集を見つけた敵の兵士は

汚れた指でページをめく


戦いに出てこの方

ずっと忘れていた

何かを思い出そうと

異国の言葉で書かれた

文字をつたなくたどる


丘を吹き抜ける風が

はこんできたのは

セイレーンの歌声


耳をかたむければ

胸の拍動が同調して

視界が滲む


空だけが青く澄んだ

春の日


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818622170484554057

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る