スリッパのシンデレラなんているかい

橙こあら

スリッパのシンデレラなんているかい

「あ」


 家の階段を上っていると、スリッパが脱げてしまった。危ない、危ない……。私は割と軽めなスリッパを、つま先で拾い上げて履き直した。


「ん……これって……」


 スリッパが脱げて、ハッとした私。これ、何かに似ているような……そうだ! シンデレラだ! まるで私は、ガラスの靴が脱げてしまったシンデレラみたいだ。


「シンデレラかぁ……」


 ここが自宅じゃなければ……違う場所で私がスリッパを階段に落としてしまったら、それを拾ってくれた人との恋が始まっていたかもしれない。スリッパを拾ってくれた王子様と、スリッパが脱げてしまった私……。

 ああ、なぁんてステキな物語なの!

 今度、会社でやってみようかしら?

 誰が拾ってくれるだろう?

 スリッパは脱げやすいものを用意しなきゃ!

 でも100均で買うのは……うーん。

 今、脱げたのは100均だったけど……。

 あまり安っぽいのはロマンに欠けるかな……。

 でも、しっかりしているのは抜けないし……。

 あーあ、どうしよ~。

 早く王子様を見つけるためのスリッパを見つけなきゃ「いたああああああああああああいっ!」


「うわっ! 何だ?」

「まあ、どうしたの?」

「お姉ちゃん大丈夫っ?」


 足の小指を「ガンッ!」と、ぶつけた私が絶叫すると、驚いた父と母と妹が私の元に来てくれた。みんなが私を心配してくれているけど……言えない。くだらない妄想をして、アホらしい計画に夢中になって、うっかり足の小指をぶつけてしまったなんて言えるわけがない。

 あとシンデレラの場合、階段を下る際にスリッパ……いやガラスの靴が脱げていた。どこが似ているんだよバカ。私と全然違うではないか。

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