第9話  遊びがいいの?

 僕は、土曜は店に行きしのぶを指名してしのぶの売り上げに貢献した。そして、平日はだいたいしのぶのマンションで濃厚な過ごし方をするようになった。なんと恵まれた生活なのだろう? なんだ? なんだこれは? なんやねーん? 今まで不幸だったから、まとめて幸せがやって来たのだろうか?


 或る晩、1度抱き合ってから、しのぶが僕の腕枕でこちらを見つめながら言った。


「崔君、私、明日から1週間、生理休暇で地元の長野に帰るねん」

「そうなん? 地元、長野やったん?」

「うん」

「でも、長野に何があるの? なんで帰るん?」

「旦那と息子がおるねん」

「家族がいたんかい!」

「うん、別に不思議なことでもないやろ?」

「まあ、まあ・・・そやな」

「私な、1度家庭を捨てて男と駆け落ちしたんやわ」

「え! どういうこと?」

「そのままやで。家の貯金を全部持って男と駆け落ちしたの」

「で、どうなったん?」

「その男とは1年も続かなかった。急にDVになって、最後は私が持って来たお金の残りを全部持って消えた。私、捨てられてん」

「で? 実家に帰ったの?」

「私、もう親兄弟がいなくなってたし、行く所が無かったから家に戻った」

「ほんで?」

「旦那はもう働かなくなってた。2人の息子も、冷たい目で私を見るようになった」

「ほんで?」

「旦那に、『持ち逃げした分の金を、体を張ってでも稼いで来い』って言われた」

「ほんで?」

「地元の風俗店では働けないから、大阪で風俗嬢をしてる」

「そうやったんや」

「うん。だからな、崔君、崔君は他の女の子と遊んでもいいよ」

「どういうこと?」

「だって、私は家族に縛られてるから、崔君のお嫁さんになってあげることも出来へんもん。それに私、何歳やと思う?」

「店の指名写真には36歳って書いてあったけど」

「勿論、さばを読んでるのはわかってるやろ?」

「うん」

「私、40歳やで。崔君、31歳やろ? 束縛出来へんわ」

「僕は、しのぶさんが40歳でも構わへんで」

「ダメ、ダメ。崔君が自由に遊んでくれた方が私も気が楽やねん」

「そうなん? ほんで、僕としのぶさんはどうなるの?」

「今まで通りやで。渡した合い鍵は持っててええよ。ほんで、寂しい夜は一緒に寝たらええやんか。私も寂しいから、崔君と寝る方がええし。あ、時々は店でも指名してや。なあ、そうしよう。私、崔君を束縛するのには罪悪感があるわ」

「うーん、やっと、しのぶさんと付き合えると思っていたのに」

「ええやんか、いつでも会えるし、いつでも一緒に眠れるんやから」

「うーん、わかった・・・」

「崔君、本気じゃなくてもええやん。遊びの方がええ時もあるで。私も崔君が好きやけど、また家族を捨ててまで・・・っていうほどではないから」

「わかった。ほな、別の女の子を指名してみるわ」

「多分、どの女の子でも機嫌が良いと思うで。私、みんなの前で崔君のことを話してるもん。お客さんとしての崔君のことやけど。めっちゃ良いお客さんやって」

「そうなん?」

「みんな、『そんな良いお客さんに気に入られてええね-!』って羨ましがってるわ」

「そうなんや」

「あ、私とプライベートで会ってるのは言うたらアカンで」

「それは、わかってる。大丈夫や」

「崔君、離婚と婚約破棄で傷ついたんやろ? しばらく遊んだらええねん」

「遊びね・・・それがええのかな?」

「うん」



 次の土曜日、しのぶは長野。僕は店に入って、初めてしのぶ以外の指名用パネル写真を見た。びっくりした。僕好みの美人が何人もいた。『これは楽しめるかもしれない』と思った。


 指名しようとしたが、休みだったり、接客中でタイミングの合わない女性が多かった。で、スグに対応してもらえる美人を指名することになった。90分と思っていたが、その女性がしのぶ以上に僕の好みだったので、奮発して120分コースにした。その女性の名前はアキナだった。指名写真には29歳と書いてあった。


 アキナとホテルに行った。アキナは元モデルということだった。写真よりも美人だったから驚いた。写真より実物の方が美人って、そんなことあるの? 165センチ、脚も長くてスラッとして、服のセンスも抜群だった。脱いだら、また驚いた。胸は形の良いEカップだった。僕はアキナにメロメロになった。僕はその時、『しのぶの言う通り、今は遊んでもいいのかもしれない』と思った。僕とアキナは初対面とは思えないくらいに盛りあがった。


 翌日は、しのぶの時と同じようにフレンチのフルコース。アキナは喜んでくれて盛りあがったが、しのぶの時とは違ってスグにプライベートデートとはいかなかった。


「休みの日に、プライベートでデートしない?」

「ダメ」



 僕はまたアキナを指名した。今度はプレイ中、アキナを喜ばせまくった。


「休みの日に、プライベートでデートしない?」

「ダメ」



 僕はまたアキナを指名した。今度はプレイをせずにトークだけで親睦を深めた。


「休みの日に、プライベートでデートしない?」

「ダメ」



 僕はまたアキナを指名した。今度は普通に風俗タイムを過ごした。


「休みの日に、プライベートでデートしない?」

「ええよ」


「え?」







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