第26話 決して媚びたりはしない

 「そうだよ、あれ、言ってなかったかな。 この前、ガラクタを片づけたでしょう。 あそこを改装して、カフェになるんだよ」


 「ふーん、そうなんだ」


 「〈よっしー〉の稼ぎだけじゃ、あれだから。 少しだけでも、家計の助けになるでしょう。 それと、家に閉じこもっていたら、息が詰まっちゃうんだ」


 「分かった。 ただし、無理はするなよ」


 「九時から三時までだから、平気だよ。 お店が暇な時は、高校のレポートもやって良いんだ」


 ちっ、〈さっちん〉は自分で物事を決めてしまう性格なんだ、役には立たないけど俺に相談して欲しかったな。

 少し寂しいけど、俺も異界で〈さっちん〉が悲しむ事をしているのだから、何も言えないな。



 「〈よしおさん〉、本日は所長が見えられるので、粗相の無きようお願いしますね」


 「えっ、所長が。 〈渡さん〉、私はどうしたらいいのですか」


 「普通で構いません。 当然ながら、真面目に整理をしていれば良いのです。 ただ、笑顔を忘れずに朗らかにしておいて下さい。 所長は暗いのがお嫌いなのです」


 「はい、頑張ってみます」


 けっ、所長が来やがるのか、邪魔くせぇ。

 来なくて良いのに、笑顔を見せろだと、やってられるか。


 俺は権威や偉そうなヤツには、決して媚びたりはしない、気高いプライドを持っているんだ。


 「ややぁ、これは所長、お久しぶりですね。 本日は研究の成果の確認でしょうか」


 〈渡さん〉は、慣れているんだろう、それほど緊張しないで対応しているな。

 ただ、〈渡さん〉のスキルに、自然に見える作られた笑顔が、存在しないのだろう、かなり気持ち悪い笑顔になっているぞ。


 ほっ、こんなんで良いのなら、俺にも出来そうだ、壁に耳を当てて盗み聞きをしていた俺は、ほっと一息をついた。

 研究室から作業している収蔵庫へ、所長が入ってきたので、俺は手を止めて直立不動となる。


 第一印象は、セクシーな大人の女性だ、ものすごい色気と一緒に鋭さがある、目が普通じゃない、目力があるって感じだ。


 〈渡さん〉からは、中年の女性と聞いてはいたが、中年とはとても思えない、まだ三十代前半に見えると俺は答えるだろう。

 

 美魔女って言うヤツか。

 きつそうな目をしているが、整形もしてそうだけど、かなりの美人だ。


 長袖の白いジャケットで腕を隠しているくせに、スカートはあくまでも短い。

 太ももは決して細くはないのだけど、逆にそれが堪らなくエロい、食べ応えがあるフライドチキンのようだ、脂でジューシーだと思う、痩せたチキンなど糞食らえだ。


 胸元も大胆に開けている、当然わざとなんだろうけど、下着がちょろっと見えているぞ。

 あざと過ぎて女性からは総スカンだろうが、全く気にしていないのが良い、たぶん、傍若無人なんだろう、上司としては最悪だ。


 「あっ、所長様、お早うございます。 宇宙一の美人ですね。 しゃぶりつきたくなります」


 うっ、しまった。

 思わず本音が出てしまった、所長に見詰められると、ポロリと心の声が漏れてしまう。

 ギトギトな手になって、フライドチキンを食いたい。


  「うふふっ、〈よしおさん〉、宇宙一は良い表現ですが、しゃぶらせたりはしません。 私がそんな安い女に見えるのですか」


 うわぁ、怒らせたらしい、マズイな、何とか挽回しろよ、俺。


 「いぇ、所長様は高値の花です。 お高いです。 少し見えていますが、下着もさぞお高いのでしょうね」


 あぁー、余計なことをくっちゃびった、火に油を注いでしまったな、フライドチキンが焦げちゃうよ。


 「まあ、不躾な人ですこと。 当然ですわ、ブランドものよ。 見たいの。 でも見せないわ。 私を口説こうなんて、百年早いと思いなさい。 ふふふっ」


 うわぁ、下着を褒めるのは悪手だったか、冷たく笑われているぞ。

 冷えたフライドチキンなんて、マズくて食えないや。


 「あっ、えぇっと、失礼しました。 あまりにお美しいので、口が勝手に滑ってしまいました」


 脂過多のあんたの太ももで、滑ったんだよ、付け根もさぞジューシーなんだろうな。


 「私を見て舞い上がってしまったのですね。 まるで猿のようですね。 もっと賢くなりなさい。 今のままでは私と釣り合わないわ。 バカは嫌いよ」


 猿と言われて、バカあつかいか、ただ最近の俺は猿のようだったな、欲望のまま生きているような気がする。


 「はい、すみません。 バカは直そうと思っています」


 「せいぜい、努力しなさい。 〈榊〉行くわよ」


 ほっ、首にはならなかったようだ、良かった、〈さっちん〉に怒られなくて済む。


 「了解しました、〈いぶ様〉」


 下の名前は〈いぶ〉なんだ、〈御室 いぶ〉ってかっちょ良い、秘書の男もカッコ良い。


 〈榊〉って名前の秘書は、絶対に所長の趣味で選んだのだろう、イケメンでスタイルも良くて、少し悪そうだ。

 女を一杯泣かしているに違いない、イケメンは必ずだ、そう決まっている。

 太古からの綿々と続く真実なんだ、と思う。


 プライベートでは、〈御室いぶ〉と乳繰り合っているに違いない、ブランドものの下着をいやらしく脱がしているんだろう。

 ちくしょうめ、滅びてしまえ。


 俺はやるせない気持ちを抱えたまま、家に帰った、〈さっちん〉に慰めて欲しいよ。

 だけど、〈さっちん〉は「初日で疲れた」と言って、突かせてはくれなかった、あぁ、下着を脱がせたかったな。


 しょうがないので、〈さっちん〉のパンツを触りながら、ふて寝をするしかない。


 「もぉ、〈よっしー〉は、甘えん坊なんだね」


 えぇ、そうなのか、甘えん坊なら、おっぱいじゃないのかな。

 俺はこの命題に頭を悩ませながら、眠りについた、やっぱりおっぱいの方が甘いはずだ。

 お尻から、お乳は出ないはずだ。

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