守りたいあなたへ

咎日心彌

第一話《太陽がどんなに輝いていても、沈む時がある》

寒星のような剣閃が静寂を切り裂き、未完の悲鳴とともに止んだ。男の剣はまっすぐ振り下ろされ、その斬撃はまるで決意の咆哮のようだった。


地に伏した影の目は見開かれ、遺言は虚空に飲み込まれた。口元には恐怖が凍りつき、指先はまだ剣を握る形を保っている。傷口から流れ出た血は焦土に染み込み、冷たい月光の下で暗い赤に輝き、まるで呪いの刻印のようだった。


男は剣を収め、刃を包む気流が殺意を秘めた残響のように漂っていた。彼の左頬には凄惨な傷跡があり、微かに震える筋肉が無限の痛みと憎しみを物語っていた。彼は砕けた馬車のそばに立ち、目線を壊れた車体の中に丸まる少女の弱々しい姿に向けた。


十五歳のエリア――蒼白な頬には涙の跡が残る。本来なら青春に輝くはずの顔は、今では傷だらけで荒れ果てていた。男は跪き、彼女をそっと抱き上げた。その動作は計り知れない苦しみを隠しているようだったが、眼差しには鋼のような決意が宿っていた。


焦げた大地には破片が散乱し、亡骸はあえぐ者もいれば、灰となって溶け込んだ者もいた。沈みゆく夕陽が血のような赤い光で戦場を包み、霧のような死の静寂が広がっていた。男の孤独な影は剣を下げたまま前へ進み、その影は夕陽に引き伸ばされ、地平線と溶け合った。


「すぐに着く……耐えてくれ。」

男は低くつぶやいた。その声には冷徹さの中に隠された微かな温かさが感じられた。彼はエリアを馬に乗せ、毛布でしっかり包み込むと、荒れ果てた廃墟を抜けていった。


崩れた木造の家が視界に映り、瓦礫の間から枯れた小さな手が伸び、無言の哀願を示していた。男は一瞬足を止めたが、やがて振り返らず立ち去った。風が埃を巻き上げ、彼と彼女の背中を吹き抜けた。


二人は廃墟の中心に辿り着くと、男は馬から降り、少女をそっと地面に横たえた。彼は持っていた水筒を開け、彼女の額の埃を拭い取った。その指先は微かに震え、過去の影に触れるかのように慎重だった。


遠くの片隅には、月光に微かな輝きを放つ古井戸が佇んでいた。男は井戸の傍に歩み寄り、水を汲んで顔を洗った。冷たい水が頬を滑り、意識が鋭く冴え渡る。井戸水に映る疲れ果てた顔、その左頬の傷跡は、まるで彼の過去を嘲笑っているかのようだった。


低く唸るような咆哮が廃墟の奥深くから響き渡り、静寂を破った。


「来たか……」

男の目は鋭く光り、手は無意識に剣の柄にかけられていた。


夜闇に浮かび上がる怪物の影――巨大な体躯、割れた鱗の隙間から黒い液体が滲み出し、牙をむき出した口は耳元まで裂けている。その眼には狂気と飢えが宿っていた。


男はゆっくりと剣を抜き、その刃は月光を浴びて冷たい輝きを放った。彼は足を止め、表情の緊張で左頬の傷跡がさらに凄まじく見えた。剣気が夜風と交錯し、次に起こる死闘を暗示しているかのようだった。


怪物が低く唸りながら男に飛びかかると、大地が震え、瓦礫と埃が舞い上がった。男は退かずに迎え撃ち、怪物の鋭い牙が襲い掛かる中、剣を握る手に力を込めた。


刃が鱗に触れると鋼のような硬さに阻まれ、金属が擦れる耳障りな音を響かせたが、深く貫けなかった。怪物の爪が男の体を激しく叩きつけ、彼は地面に投げ出された。鮮血が衣服を染める。


「クソッ……」

男は息を切らしながらも歯を食いしばり、地面から立ち上がった。その瞳には折れない光が宿り、剣先を再び怪物の心臓に向けた。今度は剣を包む気流が力強さを帯びていた。

彼の爪は再び男に向かって振り下ろされた。その巨大な力は空気を引き裂くようで、男の胸を狙って迫る。


男は気流を素早く操り、両脚をわずかに曲げ、大きな力で自らを後方へと弾き飛ばした。体内の気流が潮のように湧き動き、それに助けられる形で後ろへ跳躍し、かろうじて致命的な一撃をかわす。


気流の波動により彼の体はまるで燕のように軽く、風の轟く音さえ感じられる。しかし、彼は知っていた。この速度と力がもたらす消耗がどれほど大きいかを——それは鋼の綱渡りをしているようなものだと。


魔力を込めた剣の刃が鱗を貫き、低い気流の轟音を発した。怪物は激痛に咆哮し、狂ったように暴れ回る。男は歯を食いしばり、左手で剣の柄を槌のように何度も叩きつけた。連続する衝撃の後、ついに剣の刃が鱗を完全に突き破り、深く怪物の心臓に突き刺さった。


怪物の咆哮は突然止まり、その巨大な体が地面に崩れ落ち、砂塵を舞い上げた。男は地面に片膝をつき、荒い息を吐きながら呟いた。

「この日々は、いつまで続くんだ……」

彼の声には疲労と自嘲が混じっていた。


傷口から血が流れ出し、荒涼とした大地に滴り落ちる。彼の体は限界に近づいており、その瞳には茫然とした光が宿っていた。


彼は重い足取りで怪物の死骸に近づく。腐臭が鼻を刺す中、彼は迷わず素手で怪物の胸を切り開き、魔力の濃い気配を放つ心臓を取り出した。そしてためらうことなく、その汚れた肉塊を口に運ぶ。


腐敗した臭気が口腔内で炸裂し、魔力が洪水のように体内へ押し寄せる。それは彼の霊核と魔脈を激しく刺激した。胸の光が再び輝き、不吉な力を吸収するように煌めく。全身に激痛が走ったが、彼は不快感を必死に耐え抜き、最後の一口を飲み込んだ。すると疲労と傷の痛みがわずかに和らいだ。


「止まれない……彼女が、まだ俺を必要としているんだ。」

彼は小さく呟き、遠くに横たわる少女に目を向けた。疲れ果てながらも立ち上がり、彼はエリアを抱き上げて馬の背に乗せ、毛布で彼女をしっかり包んだ。


男は彼女の額に垂れた髪をそっと払いながら低く囁いた。

「エリア……もう大丈夫だ。」


剣を収めると同時に、緊張した体が少しずつ緩んでいく。しかし、その疲れた目は重苦しさを湛え、過去の影から抜け出せないようだった。彼の思考は三ヶ月前に遡る。それは彼の人生を一変させた日、ブロウの町が怪物の暴虐によって壊滅した日だった。


あの日を境に、彼の歩む道はすべて災厄の予兆のように感じられた。夜が訪れるたび、地の底から這い出る怪物たちは古の気配に導かれるように現れる。彼とエリアには、抗いがたい呪いがかけられているかのようだった。かつて彼女を守る背中は、今では災難の源となっていた。


どこへ行っても、夜が訪れると怪物が襲いかかり、無辜の者たちを虐殺し、町を廃墟に変えた。彼はすべてを目撃しながらも、どうすることもできなかった。怪物たちは何か言葉にできないものに引き寄せられているようで、彼自身が災厄の源となり、悪夢を次の地へと導いているのだった。

夜風が軽やかに吹き、血の匂いや腐敗の臭いを運び去るが、それは新たな脅威の予兆でもあった。男は遠くの地平線を見上げ、揺るぎない決意をその目に灯していた。


昏睡状態のエリアは、彼の唯一の心残りだった。進み続けるため、そして生き抜くために。彼はエリアの冷えた額を優しく撫で、かつてのあの明るく元気な少女の姿と、今目の前にある蒼白で力のない顔が重なった。かつて彼はブロウ村の騎士として、平和と秩序を守る役目を担っていた。しかし今、彼は災厄の使者となり、荒れ果てた廃土を彷徨っていた。


彼はエリアの乱れた髪を整え、剣を使うことに慣れた者とは思えないほど慎重に、手を動かした。指先が微かに震え、動揺を抑えつつも、その夢を覚まさぬようにと努めていた。


エリアの顔を見つめながら、彼はあの日のことを思い出す。エリアが養子の死体を抱えていた時、村の乞食が彼に向かって、養子セルヴェンを指差しながら、不明瞭でありながらも不気味な笑みを浮かべて言った言葉を耳にした。


「ふふ、終末の到来は避けられぬ……お前は彼らの恩寵だ。そして、お前の死が不幸と破滅をお前の元に引き寄せるのだ……」


その声は低く、陰湿な調子で、まるで予言のように彼の心に絡みつき、離れることがなかった。セルヴェンの最後の視線、あのかつて優しかった目が、今や言い表せない秘密に満ちているように見えた。その一瞬の疑念を彼は強引に記憶の奥底に押し込めた。


突然、夜空から高らかな鳥の鳴き声が響き渡り、闇を突き破る光が一瞬彼の警戒心を解いた。しかし、すぐに異常な轟音が再び静寂を切り裂いた。その瞬間、彼の心が引き締まる。


怪物が来た。


それは巨大な腐敗した巨鳥だった。羽毛はほこりに覆われ、体は死のように侵食されて骨のように見える。腹は裂け、内臓が蛇のように蠢いており、不快な音を立てていた。飛行軌道は不安定で、動くたびに内臓が引きずられるような奇妙な音が響いた。


怪物は巨大な爪を振り上げ、空気が一瞬震える。強力な力と速度が狂風のように襲い来る。男はすぐさま周囲の気流を活用し、エリアを抱え、素早く避ける。全ての動きは正確で速く、足元は風のように軽快だが、体力は限界に近づき、膝が震えてきた。それでも、彼はこの戦いを早急に終わらせなければならないことを理解していた。


怪物の爪が猛然と迫る。男は長剣を握りしめ、それを迎え撃った。剣刃が空気を切り裂き、鋭い光を放ちながら、腐敗した怪物の防御を突き破り、胸に突き刺さった。怪物は痛々しい叫び声を上げ、その鋭い爪が再び男に向かって突進してきた。しかし、強烈な衝撃で怪物の腹部が露出し、その弱点が明らかになった。


男は迷わず剣を振るい、馬を近づけ、エリアをその上に乗せた。巨鳥が再び襲ってきたが、男は一閃で怪物の腹を切り裂き、内臓が露出すると、そこに強い衝撃が走った。激痛が走り、肋骨が折れ、腐った物質が体に絡みつく。彼は歯を食いしばり、痛みをこらえ、意志の力で意識を保った。


「本当に手強い……」彼は内部の圧迫をうまく抑え、膝を使って怪物の脆弱な骨格を攻撃した。続けざまに反手で剣を上に突き刺し、肉と骨が砕ける音と共に、怪物の狂った叫び声が響いた。その動きはますます乱れ、翼が激しく羽ばたき、体内の異物を振り落とそうと必死に暴れた。


その隙を突いて、男は怪物の心臓を目指して必死に駆け上がり、長剣が微かに輝く。「終わった。」彼は低く呟き、全身の気を剣に注ぎ込み、一撃で怪物の心臓を突き刺した。強力な気流が爆発し、怪物の翼は硬直した。


巨鳥が暴走する間に、男は全力で剣を振るい、怪物の腹部を切り裂き、その反動で背中から抜け出した。地面に激しく落ち、衝撃を和らげるために怪物の内臓を引き抜いたが、それでも全身の痛みは耐え難い。巨鳥は倒れ、土煙が舞い上がった。彼は息を荒げながら、遠くの馬を確認し、エリアが無事であることを確かめてようやく安堵の息を吐いた。


傷だらけの体を支えながら、男は歯を食いしばり、一歩一歩エリアに向かって歩き始めた。


彼はエリアの傍に跪き、かすれた声で言った。「私たちはまだ生きている、エリア……まだ生きている。」その声は低く、かすれていたが、その中には鋼のように固い決意が込められていた。


遠くの空で、最初の星が隠れ、地平線は微かな光を帯び始めた。それは希望の兆しのようで、たとえそれが弱くとも、彼が前に進み続けるための力を与えるには十分だった。


彼は馬の傍に戻り、エリアの額を優しく撫でた。指先がわずかに震えながらも、遠くから、朝の光が薄霧を突き破って差し込み、この荒れ果てた大地に一瞬の温もりをもたらしていた。


もしかしたら、太陽は西に沈み、夜が来るだろう。しかし、夜明けが来る限り、彼は剣を握りしめ、守り続けるだろう。

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