第5話 最低最悪な時間

【秘密の花園】

俺達はそこで会話を交わし唇を交わす。

それ以上の行為はさすがに気が引けた。彼女を、そこまで巻き込むつもりはない。罪を知っているのは俺だけ。

彼女はあくまで婚約者とキスをしているんだ。



****


かなり俺は彼女にハマっていた。

いつもと違う女…俺が優しい気持ちになれる。

そんな彼女に…今日は近付けない。



彼女の誕生日パーティーに優斗で参加する俺。今は本来の自分でいる。


彼女が住む豪邸のパーティールーム。初めて家の中に入ったが、かなり広い。その中で1人ただ置物のように立っていた。


悠斗が彼女をエスコートして来賓に挨拶をしていた。それを親達は微笑ましく眺めている。


(面白くない)


18歳の彼女は大人なドレスを身にまとう。赤でタイトなドレスは白い肌に映える。体のラインが強調されて今まで隠していたスタイルをあらわにしていた。


「優斗さん、こんばんは」

「どうも」


悠斗にエスコートされて俺に挨拶に来る彼女。腰に手を回す悠斗が憎らしい。


周囲は既にもう社交場。主役は用済みらしく注目されていない。


「じゃあ、俺は付き合いが残っているから若菜は自由に過ごして」

「はい、わかりました」


寂しそうな表情の彼女を置き去りにしようとする悠斗。

だけど…彼女の頬にキスしてから去る。いきなりキスされて呆然としている彼女は戸惑い固まっていた。


「…」


俺の視線に気付き我にかえる彼女。作り笑顔がぎこちない。


「お恥ずかしいところを見せてしまって…すみません」

「べつに…」


今、彼女と会話する気にはなれない。かなりの嫉妬でグルグルだから…たとえ頬だとしても。


「あの…そういえば…質問なんですけど、悠斗さんは喫煙者ですか?」

「え?まぁ…はい」

「そうなんですね…知らなかった…」


悠斗は普段からタバコを吸う。俺は既にやめたけど…昔はイライラすると吸っていたんだ。


「何で?」

「え?あ…吸っているとこを見たことなかったから。だけど今、微かに臭いがして」


彼女は居心地悪いのかソワソワしていた。

だけど俺はその隣でお構いなしでお酒を飲んでいた。

2人でいるせいだろうか。時々、俺を悠斗と間違えて挨拶をしてくるヤツもいた。


「似てないのにね」


彼女はポツリと呟き俺をチラリと見た。


「似てない?」

「全然、似てないわ」


(何を言ってるんだ?毎回、実際に会ってるのは俺だし、それを悠斗だと信じてるだろ)


「…少し抜け出します?どうせ皆、気付かないですし」

「俺と?」

「だって、悠斗さん…いないから」

(何を考えている?)

「ここは落ち着かないから」

「…別に…かまわないけど」


俺は悠斗との違いをみせる為、悪い男になりきる事にした。今まで会っていた俺は悠斗だ。

悠斗が演じる俺が優斗である必要がある。それが優斗なんだから。


少し歩くと俺は彼女に話しかけた。


「少し酔ったらしい。休憩できる場所ある?」

「え?あ…大丈夫?」


俺を心配そうに見つめてくる。やめてほしい…罪悪感が増すから。


「静かな場所が良いなら…別館の客室が」


別館…確か花園の横にあったあれか?一戸建ての大きさの建物、客室だったのか。


「すぐそこだから」

「あぁ」

「案内、するね」


彼女は俺の手をとり別館に向かった。自然に握られた手。

うぶな彼女はどこだ?)

優斗相手なのに。


別館に入ると彼女は部屋の奥に案内する。

本当に警戒心がない。いつだって誰からでも襲われそうだ。正直、心配になる。


「紅茶でも淹れましょうか?」

「いや、水で良い」


彼女は棚からコップを取りだし水を入れる。服装とは不釣り合いな行動だ。


「実は、ここの建物…私と悠斗さんの新居になる予定の場所なんです。父が去年、建てました」

「新居…」

「その時は、まだ相手は決まってなかったですけど」

(ここが…2人の愛の巣…2人が生活する?)

「婿養子ではないですけど、住まいは近くで…というのが父の希望なんですよね」

「ふーん…」


(最悪だろ…)

想像したくもない。2人の新婚生活なんて。


彼女は赤いドレスを何度も確認する仕草をしていた。多分、露出が気になるんだろうな…スルリと脱げてしまいそうだから。


(それにしても…)

「キミらしくない…似合わないよ」


派手すぎてイメージに合わない。いくらなんでも大人すぎるだろ。


「そうですよね…私も思います。…でも、悠斗さんの希望なんで」

「悠斗の?」

「何着か候補はあったんだけど…あ、そうだ!」


彼女は何かを思い出して一度部屋を出る。他の部屋だろうか?少しして戻ってきた時には違うドレスを身にまとっていた。

それはオレンジ色のパーティードレス。Aラインのスカート仕立てでショールを肩からかけていた。花がついているからか可愛らしく、彼女の年齢に合っている。


「似合うよ、そっちの方が」

「優斗さんの好み?」

「…そうだな」


明るく健康的で良い。俺の好みだ…確かに。


「若菜」

「え?」

「俺を煽るなよ」


(今の俺は悠斗じゃない)

彼女に触れるには…最低な男になるしかないんだ。


「優斗…さん?」


俺は彼女に近付くと手を引き、そして抱き寄せる。彼女は戸惑いながらも腕におさまった。

キスをするのに何度かこんな風に抱き寄せた…悠斗の時に。


「甘い時間…味わいたい?」

「え?」

「女の時間は…男に愛されるよ?」

「は?」


彼女は意味がわからず首を傾げる。


(そうだよな…知るわけがない。男と女の事なんて無知だよな)


「愛してあげようか?」

「何…するの?」

「大人になれば誰もが経験すること」


無垢な少女を俺は…女にしたい。男を知って、艶やかな女になる進化を見たい。


「優斗…さん?」


逃がさない…決めたから。

俺は彼女にとって最低な男になる。彼女を知りたい欲望の為に。


あの日…彼女と唇を重ねた。何度も繰り返し深く深く。知れば更に知りたくなるのは、わかっていた。だから余計に…この欲望は抑えがきかない。


(悠斗に奪われる前に奪ってしまいたい)

「寝室…どこ?」

「え?あ、えっと2階の奥だけど…」


素直に場所を教える彼女に思わず苦笑いしてしまう。

俺は彼女を抱き上げ2階に向かう。


「優斗さん?何を?」


落ちないようにしがみつく彼女。警戒されていないらしい…良いのか悪いのか…。


俺は無言で進む。寝室はかなり広く、大きな窓からの風景はライトアップされた花園だった。


ダブルサイズのベッドに彼女を横にすると戸惑いをやっと見せた。

構わず俺は彼女に股がった。


「優斗さん何…ッ…」


言葉を遮るように唇を塞ぐ。手加減なんてしない、最初から濃いキスを浴びせる。抵抗しきれず、ただもがく彼女。

俺はキスをしながら彼女の体に触れる。初めての行為に体をビクつかせる。


唇を首筋から胸に向けてわせる。ドレスをずらしながら。


「やッ…何を?ッ…あっ」


生身で見るとそれなりに胸がある…着痩せタイプらしい。

軽く胸に触れると、彼女は反応よく体をビクつかせた。


「やだ…やめて!」


彼女の言葉は聞き入れない。踏み入れたからには突き進むべきだ。


涙を浮かべ「やめて」と懇願こんがんする。かなり戸惑っている様子だ。彼女の中で、こんな行為は情報にないのだろう。


「何で嫌?」

「ッ…恥ずかしい…から」

「今、俺が何をしようとしてると思う?」


彼女は首を傾げた。


「セックスだよ」

「え?」


言葉だけは知っている…そうだろうな。一応、知識は入れられているだろう…さすがに。

まさか結婚した男女がベッドで一緒に寝ただけで子供が出来るとは思っていまい。


「若菜のココに、俺のが入る」

「ダメ…ダメだよそれは…」


必死に首を横にふる。


(ダメなのは知っているさ)

「私は悠斗さんの妻になる身なんだから」

「関係ない、俺には」

「何で私にこんなこと…?」


好きだから…愛情が芽生えているから…そんなことは言えない。

だから…最低な事を言う。複雑だが間違えではないから。


「好奇心」





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