Secret love
KOMUGI
第1話 キミは俺を知らない
「
彼女が俺を呼ぶ。
違う俺を…呼んでいる。
*****
―3ヶ月前―
桜が散り始めた時期。
大学を卒業後に就職した先は、ある企業の子会社。ビルやホテル、施設などのデザインや設計を扱い、更に旅行会社にも手を広げている。俺は、その中でも設計士の方に就職した。
2代目で大きくなった会社…株式会社 garden【ガーデン】…現社長は
父は子会社で設計士をしていたらしく、母とは恋愛結婚だと話していた。今は支店取締役なんだが…現場が好きだとよく話していた。
その父の影響で俺は設計士を目指す事になった。
そして、祖父の影響を受けているのが俺の兄。兄といっても双子なんだが、大学も経営学部を卒業し、今は本社で営業部に所属している。
ステップを踏んで上に配属予定らしい。いわゆる後継者ってやつだ。
共に22歳だ。
父は婿養子、それが結婚の条件だったとか。
俺と悠斗、外見は周囲も騙せるほど似ている。親族だって見分けがつかない。
ただ、性格には差があると思う。
悠斗はかなり外面が良い。人を見て態度を使い分ける二面性があり、恋人がいるくせにセフレがいた時期もあった。正直、節操のない悪いヤツだ。そして、セフレはセフレではないという事実。何故なら…俺を演じて付き合っていたのだ。
そんな俺はというと…特定を作らず来るもの拒まずだった。だから都合が良かったんだろうな。
そもそも俺は、恋愛に対してかなりドライだった。ずっと女は面倒だと思っていたから。
ただ、今回は興味があったんだ。
本来なら引き受けない。それこそ面倒だから。
でも…今回は違う。
*****
悠斗に縁談の話が持ち上がった。結婚そのものは先の話なんだが。
相手は他会社の社長令嬢。ウチよりも大手企業で世界にも進出している。そこの次女らしく、生粋のお嬢様で世間知らずだと説明されていた。現在17歳で高校3年生なんだとかで彼女が短大を卒業する21歳で結婚予定、高校卒業後に婚約発表という流れらしい。
お互いに会った事などないのに話だけは進む。
もちろん、結婚に関しては悠斗も承諾している。時期社長になるために必要な事だと。
いわゆる政略結婚。
俺はただの傍観者…の、はずだった。
婚約発表までの間に、お互いを知り親睦を深めておくように…悠斗は祖父にそう指示された。もちろん、従う事になるのだが…。
「優斗さ、俺の代わりに会ってきてくれないか?」
「は?」
あろうことか、奴は俺に投げてきた。そういうヤツだ。
「俺、今、女いるからさー。すぐに切れないし、頼むよ」
「いや、意味わかんないけど?女いるのと結婚相手に会うの関係ないだろ」
「指定日、彼女の誕生日なんだよ」
誕生日…その言葉だけで何故か諦めモードにさせられる。
女は面倒…違うな…悠斗が面倒を起こすんだ。悠斗が俺のふりして浮気するから面倒な事になって…面倒だと思うようになったんだよな。
俺は溜め息をついた。
「世間知らずのお嬢様だろ?遊べない相手に今は時間使えないね。嫌でも最終的に彼女の相手になるんだ。遊び納めしておきたいだろ?」
「相変わらず最低だよな」
「オマエだって、特定を作らないだろ」
(それはオマエのせいだろ)
「上手く俺を演じてくれよ」
「やだよ」
「会社の為だろ」
こんな奴が時期社長で良いのか?祖父も両親もコイツの本性知らないんだよな。
「…名前は?いつが指定日だよ」
(可哀想な女だ)
幸せを掴めないだろう少女に少しだけ興味がわいた瞬間だった。
*****
そして指定日に俺は悠斗を装い待ち合わせ場所に向かった。それが3ヶ月前…入社より少し前の事だ。
「はじめまして。
俺の前に姿を見せた彼女…生粋のお嬢様…。
白い肌にサラサラの黒い髪、小柄で幼い感じの印象なんだが…スタイルは良い。
薄いピンクのワンピースと白いパンプス。汚してはいけない…そう思わされた。かなり、良心が痛んだ。
「桜庭 悠斗です。今日は会っていただき、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」
爽やかな笑顔で挨拶をした。悠斗の外面バージョンで。
そんな俺を見て彼女は頬を赤らめた。免疫ないんだろうな…。
「私、幼少時代から女子校なんです。男の方は親族とだけしか言葉を交わした事がなくて…」
「そうなんですか?教師とかは男性、いなかったんですか?」
「一度も担当になったことないです」
(それは…凄いな。大丈夫なのか?)
「もうすぐ誕生日なんですが、その…18歳になりますので、そこから社交デビューになります。あの…お誕生日パーティー…来ていただけませんか?」
「え?あ、宜しいのですか?」
頑張って伝えて来ているのがわかる。それが微笑ましい。
「できれば、エスコートしていただけませんか?たくさんの殿方に会わなくてはならなくて…。未来の旦那様に支えていただきたいのです」
「そうですね…僕が貴女をこの先も支えて行く事になりますから、ぜひ、エスコートさせていただきます」
(俺じゃないけどさ)
愛想よくニコリと微笑む。
「ありがとうございます。えっと…悠斗さん」
(俺は…悠斗じゃないけどね…)
心の中で冷ややかに笑う。
(俺も外面良かったんだな…)
俺も最低な男だと実感した瞬間だった。
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