第53話 未来へ END

勇者たちは驚いた。当たり前だな。倒すべき相手・魔王が命を好きにしていいと言ったから。

『抵抗はしない。その代わり、約束は守ってくれ』

 俺は体中の力を抜いた。自分の周りを覆っていた魔力の壁を解いた。


『魔王直属の四天王が、我らの王を見届けます。約束をたがえたときは……』

俺の後ろに、いつの間にか魔王四天王が控えていた。俺がいなくなった後、こいつらに託せる。


『わかった。勇者の名において、王へ必ず伝える』

勇者 ルルンは魔王に約束してくれた。約束を果たしてくれたなら、この命などいい。

 カチャリ……と、勇者が剣を構えなおしたのが聞こえた。

『魔王様……』

 俺は目を静かに閉じた。


 【ちょっと待って――!】

 

 女性の声が頭の中で響いた。なんだ? 誰だ!? 俺は周りを警戒したが、誰も怪しい者はいなかった。勇者たちを見てみると、奴らもキョロキョロと周りを見ていた。

 この声の主は……。


【私はこの世界を見守っている 女神です!】

 『えっ!? 女神様!?』

『本物?』

この場にいた皆が警戒心をあらわにした。

 

【本物です! 魔王マオは倒してはいけません!】

本物の女神と答えた声はマオを倒してはいけないと言った。

『え、なぜ?』

 勇者パーティの一人が女神に聞いた。


【魔王の体の持ち主、マオがいずれ世界を救うからです!】

 え――っ!? と勇者たちは声をあげていた。……俺も初耳だ。


【詳しくは言えません。言えばどこかで歪みが生じます。でもこの魔王は、倒さないでください】

勇者たちは動揺してお互いの顔を見合っていた。 

『いくら女神様の言うことでも信じられない……『わかりました、女神様!』』

仲間の言葉をさえぎって、勇者は女神に答えた。


【この魔王は自分の身を犠牲にして、おのれの仲間魔族や魔物を救おうとしました】

勇者の前にふわり……と、女神の姿が現れた。神々しくて美しい姿だった。キラキラと光り、向こう側が透けて見えてた。


『女神様……!』

 勇者たちはひざまずいて、女神を見上げて讃えていた。俺は立ったまま勇者たちを見ていた。

【それに……善と悪は必要なのです】

『善と悪……』

 勇者は呟いた。勇者が善で、魔王のが悪ということか。


【あなた達をもう一度、やり直しさせます。善と悪・鉾と盾。両方のバランスを保つように】

『えっ!』

『!?』


【それでは頼みますよ……私の子たちよ……】

 女神はそう言い、姿が消えていった。

『女神様!』 


 次の瞬間。――周りが目を開けてられないほど、眩しくなって気を失った。



『この子はマオと名づけよう!』


 

 「マオ? どうしたの? ボーっとして。大丈夫?」

まぶたを開けると、目の前にルルンとジーンがいた。は一回目の転生のことを思い出した。

 「ルルン、ジーン」

 目の前にいる幼馴染の名を呼んだ。


 「なに? マオ」

「なんだよ。マオ」

 僕は両手を広げて、二人に勢いよく抱きついた。二人はよろめくこともなく、僕を受け止めてくれた。

 「ルルン! ジーン! もう、大丈夫だよ!」


 二人の肩に顔を乗せて、僕は泣いた。


 女神様は、三人を生まれ変わらせ幼馴染として一緒に過ごさせた。ルルンとジーンは監視役なのかと思ったけれど、そうではなく盾の役割だったようだ。


 「か、帰ろうか」

目尻を拭ってルルンとジーンに言った。少しの間、二人の肩を借りて泣いていた僕はぐちゃぐちゃだった感情がスッキリした。


 「だね! あとはまかせて、リール村へ帰ろうか!」

ルルンが僕の肩を、ポン! と叩いた。

 「マオの、から揚げが食いたくなった」

ジーンはお腹が空いたようだ。

 「たくさん作るよ!」

 僕は笑顔で答えた。




 ――そして僕はまたいつものように、お総菜屋さんとダンジョン経営・お食事処で元気よく働いている。


 

 「いらっしゃいませ! 空いているお席へどうぞ!」

お食事処で、お昼ご飯を作っていた。店内はほとんど満席で、席が空くまでを待っているお客さんがいる。

 「今、テーブルの上を片付けているので、もうすぐご案内できます!」


 少しずつ時間が経つのにつれ、空いてきた。おかげさまでお総菜屋さん・ダンジョン経営・このお食事処や村のお土産屋さん、ベルのベジタブルショップその他のお店は評判を聞きつけた冒険者たちや観光客で、にぎわっていた。


「マオさん、大変です――! ダンジョン地下四階に、惑わす歌声が! 冒険者が迷いまくってクリアできません!」

 ダンジョン専門 魔族従業員が、慌てて僕を呼びにお食事処まで来た。

 「またか……」

 地下四階の時々現れる、セイレーンのせいだと分かっている。


 「すぐ行くね!」

お食事処の従業員さん達は慣れたもので、僕が抜けても大丈夫な精鋭ぞろいだ。無言で頷いて見送ってくれる。

 セイレーンに、注意するためダンジョンへ向かった。クラーケンのタコスケと一緒にいるのが楽しくて、つい歌ってしまうらしい。


 ケルベロスのケルガ、ベロン、スーグは変わらず元気がいい。この間はダンジョンの壁を壊してミレーヌとサウスさんに怒られていた。

 プルプルは僕が毎日ダンジョンの点検と見回りをしているときにやってきて、肩に乗って一緒にダンジョン内を見回っている。


 僕の記憶が戻ったことを知った二人は、改めて僕に感謝の言葉を述べてきた。

「魔王様が私達、魔族・魔物の代表として、命を懸けて守ってくれたおかげで私達は人間からの脅威から逃れました。ありがとう御座いました」

 僕がで「命を懸けて守る」と言わなければ、人間対魔族の全面対決になっていたらしい。

 

 

 勇者ルルンは、お城で騎士たちへ剣の指南役として正式に任命されたそうだ。僕が魔王だということは知らないまま。……それでいい。

 ジーンはさらなる高みへ……と、武者修行の旅へ出たそうだ。すごい。

 

 僕は……。

 

 世界征服など興味ないので、美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します!

 

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