第16話 ダンジョン(洞窟)③ 地下二階 休憩所




 警戒しながらそっと、ぽっかりと開いた穴の中を覗いてみた。

そこは自然にできた穴ではなく、誰かの手によって掘られたみたいだった。

僕達はその穴に入り下へと、緩やかな階段を降りて行った。


 

しばらく階段を降りて行くと、ごつごつとした岩の壁ではなく綺麗に整えられた空間があった。

「なんだ、ここ?」

 ジーンが僕の後ろから覗きこんで言った。不自然に作られた空間の奥は明かりが漏れていた。

 「奥になにかあるみたい。行ってみよう」

八畳くらいある部屋の大きさの、四角い殺風景な空間を通り過ぎて奥へ行くと何かが見えてきた。


 「うそだろ? 壁とかに、看板があるんだけれど!」

 ジーンが目を疑いながら、僕の肩に手を置いて話しかけてきた。ここは魔物が住み着いているダンジョン(洞窟)。まだ誰も踏み入っていない場所なはずなのに、お店の看板がば――ん! と目立つようにあった。

「なに? 『地下二階 休憩&ご宿泊所(仮) いらっしゃいませ!』だって!?」

 ジーンは、はあ!? と言って看板をじっと見ていた。なにか嫌な予感がする……。


 「入ってみるか、マオ」

「う、うん……」

その設置してある場所の下に入り口があった。僕達は半信半疑で中に入った。


 「いらっしゃいませ――! ご無事に、『地下二階 休憩&ご宿泊所(仮)』へ ようこそ! お二人様、ご休憩ですか? 宿泊でしょうか?」


 明るい声で出迎えてくれたのは、黒髪の女の子だった。

「え? なんでこんなところに?」

 ジーンはまさかこんなダンジョン地下の二階洞窟の中に、女の子がいるとはおもわなかったのだろう。驚いている。

 女の子は僕にウインクした。

 

 嫌な予感が当たった。

黒髪の女の子は、魔族の女の子 ミレーヌだった。姿を変えて、長いひらひらフリルのついた白ブラウスと、ひざ丈のレースのついた可愛いスカートに着替えて、その上にフリルエプロンを付けた接客業スタイルになっていた。

 事前にミレーヌが「わたくしに、おまかせてくださいませ!」と言っていたのだけれど、こういうのとは思わなかった。


 「なに、マオ。知っている子なのか?」

ジーンは僕に疑問の目を向けた。そうだよな……。

 「ちょっと前にお総菜屋へ来てくれたお客さん。だけど、なぜここにいるかはわからない」

 嘘は言ってない。


 「ダンジョン探検に行くと聞いて! ぜひ、お手伝いしたいと思いまして」

可愛い。可愛いけど、この子は魔族です。僕は心の中で言った。隣にいたジーンは見惚れちゃってる。

 「お、お名前は! なんていうのかな? 俺はジーン!」

ジーンの好きなタイプの、可愛い子だからなぁ……。

 「まあ! ジーンさんとおっしゃるのですね! わたくしはマオ様……いえ、マオさんのお友達の と申します」


 名前を変えてジーンに答えた。にっこりと微笑んだは、魔族には見えなかった。


 「とりあえず今日は臨時で、わたくしがここでお手伝いをしています。今後は違うスタッフが配属されますの」

 そうなのか。僕は全く知らなかった。――あとで詳しくミレーヌから聞こう。


 「そうなんだ」

ジーンは魔族と疑わず、ニコニコ機嫌よくカウンターに寄りかかってミレーヌ偽名レーヌと話をしていた。


 「お休憩は、アルコール類は無しのお飲み物とお食事。お宿泊は一泊からのお泊りになります。どちらのご利用ですか?」

 ミレーヌは慣れた従業員のようだった。

「飲み物と軽い食事がしたいかな! なあ? マオ」

「ソウダネ!」

飲み物と食事が出せるなんて……。どうなってる?


 「ではお好きなお席でお待ちください! メニューが置いてありますから、そこから選んでください!」

 「オッケー!」

 ご機嫌なジーンに僕は何とも言えない気持ちになった。


 先にジーンは席を選びに行き、カウンターの近くの席に座った。

「ねえ、どういうこと? ミレーヌ」

僕はメニューを見始めたジーンに、気づかれないようにミレーヌに話しかけた。


 「この洞窟ダンジョンは、魔王様の持ち物なのです。持ち主の名前は変えておりますが、正式に手続きしているものなのです」

 ミレーヌはいつもの口調で僕に話をしてきた。え、魔王の持ち物だって?

 

「いくつものダンジョンがこの国に存在しておりますが、それらは魔王様の持ち物です。はるか昔から全部、正式に手続きして代々の魔王様に引き継がれています」

 ニコッとミレーヌは笑った。

 「ダンジョンはすべて魔界につながってますので、管理は必要ですわ」

「え」

ダンジョンは魔界につながっている!? やばくない!?


 「ああ、大丈夫ですわ。人間は、ほぼ最下層までたどり着けないようになってますの。安心してください」

 ふふっ! と笑みを浮かべた。――いや、笑っている場合じゃないけど。

 「今回このダンジョンは、地下三階まで解放いたしましたの。ダンジョンは魔族の管理のもと、運営してます」


 魔族の管理のもと……? 

僕は、聞きたくなかった裏話を聞いてしまって力が抜けた。運営とか……夢がない。

 「え、でもケルベロスが困ってるって言ってたよね?」

 レベルの低い魔物が増えすぎたって言ってた。


 「そうです。魔王様が代替わりして、ちょっと混乱していましたので。でも魔王様側近のがまとめましたので、もう安心です!」

 「なにその魔王側近って!? 四天王!?」

とんでもない言葉が出てきた!

 ミレーヌが「マオ様、お声が大きいですわ」と指を唇に当てて「シー」と言った。ミレーヌはちょっと人間の擬態を間違えて覚えてるかもしれない。

 

 その時、ジーンが僕達を呼んだ。

「注文していいかな――?」

 ジーンの声はお店中に響いた。

「は――い! 今、行きます」


 「これから改造して冒険しやすいダンジョンにして行きますので、魔王様の意見もお聞きしたいですわ!」

 スキップのしそうな軽い足取りでミレーヌは、注文を待つジーンの席へ行った。


 なんだか僕の知らないところで、凄いことになってそうだ……。


 「俺は炭酸水と、マオさんのお総菜屋のから揚げ!」

ジーンはニコニコしながらレーヌに注文をたのんでいた。ん? 今なんて……?

 「はい。マオさんは何になさいます?」

僕はテーブルに置いてあったメニュー表を開いた。


 そこには『マオさんのお総菜屋さんから買い付けた美味しい物』と、でかでかと書いてあって、僕のお総菜屋で売っているものがメニュー表にあった。

 「ちょっ……「許可していただきまして、ありがとう御座います! マオさん」」

「なんだよ――、マオ。いつの間に……」 

 いつの間に仲良くなったんだよ? という、ジーンの心の声が聞こえたような。


 「買い付けてから氷魔法で凍らせてますので、出来立てのままですわ!」


 もう僕にはミレーヌの勢いは止められそうにない。流されるまま、任せたほうがよくなってきた。魔族運営ダンジョンなんて初めて聞いた……。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る