第16話 フリマと名付け
(じゃあ、まずは、装備を整えましょう!)
張り切った様子のフェニスの第一声は、そんな言葉だった。
「装備?」
(お兄さんには、昨日のPKの賞金があるじゃないですか!それを使えば、装備でATKを盛るなんて簡単です!)
「ああ、そういえば・・・」
昨日のPKの賞金12万Fは、まだ全て手付かずだ。ATK補正は、俺の場合腐るモンでもないし、何か良いものがあるなら、むしろ買いたかった。
「でも、買うたってどこで?」
(コミュニティにあるフリマサイトです。今からお店を探してとか悠長な事言ってられませんから)
「フリマ?」
(メニューに『コミュニティ』って項目があるので、そこをチェックして下さい)
「お、おう」
言われた通りにスマホからメニューを操作すると、通販サイトのようなものがウィンドウで立ち上がった。
(見ての通り、プレイヤーがゲーム内で利用出来るフリマサイトです。まずはこれで、最初に必要な物を揃えましょう)
「なるほど」
プレイヤーは、多少の手数料を支払えば、各種カードをここで売り買い出来るらしい。
MMOの商売と言えば、対面販売でコミュニケーションみたいなイメージもあるが、プレイヤーにしてみれば、こっちの方が時間が節約出来る事もあって、利用者は多いらしい。
また、トレード機能やオークション機能もあるようで、わらしべ長者的にうまく立ち回れば、この機能だけで装備や資金を充実させる事も出来るそうだ。
(まあ、買い占めとかして価格操作とか始めたら、運営に絞められると思いますけど)
「出来るか、そんなモン!」
こう言っちゃなんだが、俺にそんな商才がある訳ねえだろ?!伊達に東京まで出てきて、配達ドライバーなんてやってねえのだ。
(・・・今は無職ですけどねー)
「うっせえ、アホンダラ!」
俺は苦々しく吐き捨てつつ、フリマサイトのウィンドウに目を落とした。
「買うのは、ATK補正のカードだよな?」
(そうですね。装備だったら、とりあえず【鍛治士】用のハンマーとか・・・あとは、籠手やグローブ、アクセサリーなんかが良いんじゃないですか?)
「ふむふむ?」
確かに、作業用のハンマーは良いかもな。
ただ、出来れば生産だけじゃなく、戦闘とかでも共用出来る物がいい。
とりあえず【鍛治士】で検索をかけてみると、いくつか候補になりそうな物が出てきた。
「お、このハンマー良いな!・・・おお、この鉢金、カッケェ!・・・ん?この籠手も良さそうだな!」
(・・・お兄さん、まだ他にも買う物あるので、程々でお願いしますね~)
「え?・・・まだ、なんか買うのか?」
(買います。っていうか、本番はこの後です)
マジか。
でも、装備以外に何を買うってんだ?
内心首を傾げながら、言われるがままに予算4万Fで3つ装備を見繕った。
【重鉄の鍛治槌】
種別;マテリアル/武器
攻撃;19
重量;10
耐久;100
効果;【鍛治士】が装備した場合、器用度+3。
【アームドバンクル】
種別;マテリアル/アクセサリー(腕輪)
攻撃;6
重量;1
耐久;100
効果;なし
【硬皮牛の革手甲】
種別;マテリアル/防具(腕)
攻撃;8
防御;10
重量;7
耐久;100
効果;なし
まず、一番奮発して買った【重鉄の鍛治槌】が2万4000F。
ちょっと大ぶりなピッケル共用の金槌なのだが、なんと【鍛治士】が装備した場合、DEXボーナスが入る効果があるのだ。
正直言うと、予算的にちょっとキツかったのだが、この効果は捨て切れず、購入。
しかしその分、残りは効果無しの装備で辻褄を合わせた。
まずアクセサリーの【アームドバンクル】は、二の腕に装着するタイプの真鍮製のバンクルだ。効果は、攻撃力アップのみのシンプルなモノで、おそらく【細工師】の習作か何かだろう。値段は、5000F。
そして、【硬皮牛の革手甲】は、ハードオックスの革で作った手甲だ。
指のない皮手袋と上腕をガードする革の手甲が一体になったもので、なかなか凝った作りの装備である。
攻撃力がある辺り、おそらく拳闘も想定した装備なのだろう。咄嗟にぶん殴れる仕様は、【鍛治】の面以外でも俺と相性が良く、非常に俺好みの一品だった。
値段は1万5000F。
僅かに予算オーバーだが、これくらいなら許容範囲だ。
ステータス
名前;ユーフラット
性別;男性
レベル;14
HP;1000/1000 MP;1/34 SP;70/70
職業;【侍LV11】【鍛治士LV7】
称号;【ルーキー】【新米組合員】
ジューカー;【カース・オブ・ブラック】
装備;【数打ちの刀】【粗末な革の胸当て】【硬皮牛の手甲】【革のブーツ】【重鉄の鍛治槌】【アームドバンクル】
スキル;【剣術LV12】【生産の基本LV7】【クリティカルLV13】【発見LV9】【採掘LV7】【鍛治術LV5】【剛力LV3】
召喚;【ウィスプLV1】
ショートカット;【初心者ポーション】【バインダー(採掘用)】
これで、装備はだいぶマシになったな。
出来れば、胴の装備も入れ替えたかったが、あのハンマーを買う為なら仕方がない。
しかし、まだ財布には8万フォイル程度は残っていた。
ここまで資金を残させて、フェニスは何を買うつもりなのか?
そんな俺の疑問に、フェニスは答えた。
(必要な素材は、【薬草】300個。【鳥の羽根】210個。【火色の石】30個。【霊石】3個です)
「・・・いや、多いな?!」
【薬草】1個50F。300個で1万5000F。【鳥の羽根】1個30F。210個で6300F。【火色の石】1個400F。30個で1万2000F。【霊石】1個で9000F。3個で2万7000F。
〆て6万と300F。
言われるままに買い付けていったら、マジで装備代より高くなった。
「・・・おい、マジで何に使うんだよ?」
フェニスが無駄な事をするとは思えないが、それでもこれは、意味が分からない。
【火色の石】とか【霊石】は、まだ俺が作る刀の強化素材になる可能性があるが、【薬草】とか【鳥の羽】なんて【鍛治】で使う訳がない。
どういう事だと不機嫌顔で訴ると、フェニスは自信満々に説明を始めた。
(これは全部、【ウィスプ】の育成素材です)
「ウィスプ?・・・あ、昨日貰った【召喚札】か!」
一瞬、何を言われたのか分からなかったが、そういえば、そんな物を手に入れたんだっけか。
俺はデッキの中から【ウィスプの召喚札】を呼び出して手に取った。
すると、カードに〈合成可能なカードがあります。カードを合成しますか?〉というインフォメーションが浮かび上がる。
なるほど、これで用意した大量の素材を合成すると、【ウィスプ】のレベルが上がる訳だ。
ウィスプ【ウィスプ】
愛称;なし
種別;モンスター/召喚
レベル;1→30(MAX)
HP;200/200 →316/316
MP;15/15 →73/73
SP;5/5→34/34
攻撃;1→30
防御;4→33
知力;6→93
精神;4→91
敏捷;2→31
器用;1→30
スキル;【浮遊】【火魔法】【物理無効】
アーツ;【火の粉】→new【ファイヤーアロー】【ファイヤーボール】【レッドフォース】【ファイヤーウォール】【身代わり召喚】【エンチャントファイヤ】【クイックリロード】
改めて見たウィスプのステータスは、ハッキリ言って典型的な雑魚幽霊と言った感じのものだった。
まあ、それもそのはず、ウィスプは、ファースの郊外にある墓所のダンジョンに出現する雑魚モンスターで、【物理無効】で初心者を驚かせるくらいの立ち位置らしい。
当然、そんなモンスターが強い訳もなく、ステータスは貧弱そのものだった。
「・・・なんつうか、明かり代わりって言われるのも納得だな。【物理無効】だからって、さすがにこれは脆すぎないか?」
頼みの【火魔法】もこのステータスじゃ、大した威力にはならないだろう。【魔法使い】タイプのキャラが、火力が弱いって致命的だ。
とてもじゃないが、6万もの大金をかけてレベルアップさせるモンスターとは思えない。
上がるステータスを鑑みても、雑魚の誹りは免れないし、ましてや、コイツが刀を作る為の秘策だなんて信じられなかった。
しかし、フェニスは勿体ぶるように言葉を続ける。
(わかりません?・・・その子、お姉ちゃんと同じ【火魔法】が使えるんですけど?)
「ん?【火魔法】・・・あ、そういう事か!」
そこでようやく、フェニスが何を考えているのか分かった。
よく見てみたら、ウィスプの使える魔法に、昨日アヤの使っていた【レッドフォース】が入っている。
いや、その他にもサポート系と思しき魔法がいくつも並んでいた。
フェニスは、これらを使ってウィスプに俺のサポートをさせようとしているのだ。
確かにそれなら、ATK不足を補って刀を作れるようになるかもしれない。
(しかも、魔法が使えないお兄さんの助けにもなります。手元にこの子がいるなら、使わない手はないでしょう?)
「ああ、それは確かに」
俺は現状、まさにウィスプのような物理耐性を持っていたり、空を飛ぶなど距離を取っての遠距離攻撃をする相手にすこぶる弱い。
そういった相手に対抗する為の魔法が、全く使えないからだ。
そしてその弱点は、少なくとも【カース・オブ・ブラック】の全貌が明らかになるまでは変わらないだろう。
そんな致命的な弱点をカバーするのに、ウィスプはまさに打ってつけだ、とフェニスは語った。
(確かにステータスは低いですが、その分、比較的お安くレベルキャップまで育てられます。それにそもそも、バフと自衛だけ出来れば、お兄さんなら十分です)
「・・・そういやそうか。俺はそもそも前衛なんだし」
火の魔法使いと言ったら、どうしても火力担当のイメージだが、別にバッファーじゃいけない理由もなかった。
俺が得心したのを理解して、フェニスはさらに続けた。
(EOJのバフは、ステータスに寄らず効果は一律なんですよ。だから、お姉ちゃんの【レッドフォース】もウィスプの【レッドフォース】も効果は一緒なんです)
もちろん、INTが高ければ、射程が伸びる、効果時間が伸びるなど違いは出る。
だが、強化率自体は一律なので、【鍛治】作業だったり、俺の後ろに付いてバフをかけるだけなら、わざわざプレイヤーに頼る必要はない訳だ。
そもそも【鍛治】作業の為にアヤがいちいち来てくれる訳もない。
そういう意味でも、従魔のバッファーは、俺には必要不可欠と言えた。
「むぅ・・・ケチのつけようもない。レベル上げすらしないで、ATKが爆上がりしてしまった」
ムキになって【鍛治士】のレベル上げしか考えてなかった俺とは、えらい違いである。
妹との格の違いを見せつけられた気分で、思わず肩を落としてしまった。
そんな俺に、フェニスは呆れる。
(それは、お兄さんが力押しで解決しすぎてるんですよ。それで考えが、常に力技に寄ってるっていうか)
「うっせえな。そういう質なんだから、しょうがねえだろ」
正面突破する道が見えてんなら、そこを突破するだけの話じゃねえか。
特にゲームなんざ、詰んでから考えたって遅くはないのだ。
(お兄さんって、物分かりは良いし、地頭はむしろ良いと思うんですけどねぇ・・・どうしてこう、脳筋なんでしょ)
「ほっとけ」
嘆かわしいとぼやくフェニスに言い返しながら、俺は手を止めていたウィスプのレベルアップ作業を再開した。
〈契約中のウィスプのレベルが上がりました。〉
〈契約中のウィスプのレベルが上限に達しました。〉
〈契約中のウィスプの進化が可能になりました。〉
初期エリアのモンスターは、LV30でレベルキャップで、これ以上は進化によるレベルキャップ解放が必要ということらしい。
だが、進化に必要な素材は手元にないので、進化までは、今は出来なかった。
「金ならまだあるし、どうせなら進化させても良いんじゃねえか?」
(足りないと思いますよ。それにモンスターには、進化先がいくつかあるそうなので、今すぐ進化は、勿体無いです)
モンスターの好感度や強化アイテムの有無によって進化パターンも結構変わるそうで、ある程度育成方針を決めてからじゃないと、進化はしない方が良いらしい。
(せめて、好感度MAXの進化先くらいは解放してからの方が良いでしょう?)
「まあ、そりゃそうか」
選択肢を増やせるなら、増やした方が良いに決まっている。
でもそうか、好感度か・・・。
「・・・よし、【召喚】!」
「~~!」
俺は【召喚札】を起動し、ウィスプを呼び出した。
ウィスプは、札から飛び出すと明るさを小刻みに変えながらフラフラ揺れるウィスプ。なんとなく嬉しそうに見える動きだ。
顔のないただの火の玉のくせに、案外、愛嬌あるな。
「よう。レベルアップした気分はどうだ?」
「~~」
ヒョコヒョコと上下に揺れるウィスプ。
頷いた?
「なんか問題あるか?」
「~~~」
フルフルと左右に揺れる。
首を横に振った?
「・・・思ったよりちゃんと受け答えするな?」
気になっていくつか質問してみたら、キッチリYES、NO、それ以外で回答出来た。
そんなウィスプの反応に、フェニスも感心する。
(・・・反応を見るに、ネットワークタイプじゃない、ちゃんとした自律AIが入ってますね。まだAIレベルは低いですけど)
「自律タイプ・・・?」
という事は、ちゃんと自己学習して行動パターンを増やしていくタイプか。ペットロボットや、何ならフェニスとも同じタイプだ。
流石にフェニスのように流暢にとはいかないだろうが、何段階かAIレベルが上がったら、スマートスピーカーくらいには喋れるようになるのかもしれない。
「まあ、喋り出すくらいならいくらでも喋ってくれて良いけどな」
まさか勝手に進化して、妹を始めるなんて非常識なAIではなかろうて。
(・・・なんか失礼な事、考えてません?)
「いいや、別に」
誰かさんの事なんて、別に考えておりませんとも。
まあ、それより今は、ウィスプの件だ。
俺は改めてウィスプに向き直り、腕組みして考え込む。
「とりあえず、名前は付けないとだよな」
「!~~?!」
見るからに驚き、それから期待した様子で、ウィスプがフルフルと揺れた。
なんだ?メチャクチャ食い付くやん?
でもまあ、コイツの前の持ち主のPKは、カンテラ代わりに使ってただけなので、名前とか付けてなかったろうしな。ペットタイプのAIが載ってるなら、期待もするか。
「人魂・・・炎、焔、灯り、行燈、松明、朱色・・・うーん?」
なんとなく漢字の名前が噛み合わない。モンスター名がウィスプで英語だからか?なら、ウィスプの語感から・・・。
「ウィスプ、ウィー・・・うん、じゃあ、ウイリーにしよう」
「~~~!」
一際明るくなりながらクルクルフラフラ揺れるウィスプ改めウイリー。見るからに嬉しそうに見える動きだ。
「よし、ウイリー、早速仕事だ。俺のサポート頼んだぞ」
「~~!」
俺の声に、コクコクと頷くウイリー。見るからにやる気抜群だ。
よし、これで準備は整った。
俺は、まだ見ぬ愛刀に想いを馳せながら、改めて赤々と燃える炉の前に腰を下ろした。
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