第6話 デッキビルド
「・・・負けた?」
「・・・あー、まあ、ドンマイな」
PvPモードが解除されて復活したムルジアは、魂が抜けたような顔で呟いた。
そんな唖然とするムルジアに、俺はなんとも言えない心境で短く労った。
正直、突っかかってきたムルジアも悪いのだが、アヤに言われて大人げなく本気で応じた俺にも問題がある。
どうせなら、最初に少しくらい見せ場を作ってあげても良かったのだ。
でも、あんまり舐めプするのも、印象悪いしなぁ。それに、俺も久しぶりのPvPな上に、ドリマという初めての機種でやる分、加減が分からなかったのもある。
今回は、色々仕方なかった。
「・・・まあ、機会があったら、今度は色々教えてやるよ。じゃあ、またな」
俺はそう言い残してムルジアから離れた。入れ替わりで仲間の二人が駆け寄ってきたので、後の事はそちらに任せることにする。
そして代わりに俺は、ニヤニヤとゲスい顔して笑っている今回の首謀者に声をかけた。
「おい、良かったのか、こんな事して・・・?」
正直、メンドクサイ男をギャフンと言わせたかった、という気持ちは分かる。
動画投稿者として、俺を宣伝する必要があったのも、まあ、理解は出来る。
でも、ここまで大々的に噛ませ犬みたいにしてしまうと、色々外聞が悪いと思うんだが。
しかし、アヤの方はそうは思わないようで、親指を立てて言い放った。
「全然OK。最高だわ!」
「・・・良いのかなぁ」
《・・・まあ、GG》
《草・・・まあ、ストーカー君は、色々反省が必要だったと思うし》
《えーと、ストーカー乙》
《なんだろう。あまりに一方的すぎて、ストーカー君が可哀想になってきた》
《WWWWWWW》
ほらぁ。半分くらいの視聴者が思いっきりドン引きしてんじゃん。ただ、ムルジアが瞬殺されと事自体は、みんな好意的に受け止めているようだ。
・・・ムルジア、お前、どんだけ嫌われてんだよ。
でも、ぶちのめした側の俺はフォローしようがないので、もう知らんぷりするしかないのだ。
そして当然、アヤがストーカーなんて言われてた相手のフォローなんぞする訳もない。
アヤは、ムルジアを無視して改めてカメラに向き直った。
「さて、みんなどうだった?コイツの実力は?」
《なんかよく分からなかったけど、スゴイのは分かった》
《レベル1の動きじゃねえ》
《でも、ムルジア瞬殺は笑ったw》
《とりあえず、アヤが連れてきた理由は分かった》
《アヤノン、マジでソイツ何?》
コメント欄が戦々恐々としている。
まあ、同じゲームをやってるなら、俺の動きが普通じゃない事くらいすぐ分かるだろうからな。
俺としても、昔やってたゲームの感覚がまだ一通り残っていて一安心だ。
そんな事を考えていると、不意にアヤが俺をカメラの前へ引っ張り込んだ。
「アハハ、まあ、気になるよねー。じゃあ、一つだけ!コイツはね、私のリアルお兄ちゃんだよ!」
「え?」
「「「「「は?」」」」」
《《《?!》》》
なんとここで、アヤが俺の正体を暴露した。完全に不意打ちだったので、俺も一瞬、思考が止まる。
しかし、それ以上に衝撃だったのは、野次馬とリスナー達だった。
そして、悪戯を成功させて満足そうにほくそ笑んだアヤは、俺を見せつけるようにカメラにポーズ。
「じゃ、そういう事で~。正式な紹介はまた今度するから、リスナーのみんなは次の動画をチェックしてね!じゃあ、お疲れ~」
そう言って笑顔で手を振りつつ、アヤは容赦なく配信を切った。
そして、野次馬達に軽く挨拶を残してその場を後にする。俺を強引に引き摺りながら。
俺は、苦笑いをこぼしながら、適当に頭を下げてアヤについていくしかなかった。
それなりに周囲の視線を集めながらも、アヤは慣れたように路地に入り、そしてサクサクと奥へ進む。
10分ほど歩き回ってひとけがなくなった事を確認して、アヤはようやくその足を止めた。
「ふぅ、色々計算外だったけど、まあ、上手くいった感じかな~」
「・・・正直、色々どうかと思うけどな」
スマホでSNSや動画のコメントを確認し、アヤは上機嫌に笑みをこぼした。
対して俺は、なんとも言えない思いで嘆息する。そんな俺に、アヤは首を傾げた。
「えー?アイツの事、気にしてんの?」
「まあ、それなりに?流石にちょっと大人げなかったっていうか」
正直、色々と加減を間違えたと思うのだ。
言ってみれば、学生が仲間内で格ゲーで遊んでる中に、プロゲーマーが乱入して必殺コンボでハメ殺しにしたようなもんだからな。
まあ、一応コンボまでは思い留まったけど。
俺は、プロゲーマーではないが、ちょっとした特技がある上に、実は肩書きまで持っている人間だ。
普通の人から見たら、大人げないと言われても仕方がない。
一応、俺は21歳の大人なのだ。
「そんなこと言って~。実は結構、気持ちよくなったりしてんじゃないの~?」
「・・・まあ、否定はしねえけどな」
正直、久々のPvPは、それなりに気持ちが上がった。相手がヘボだったとはいえ、それなりの速度の相手にカウンターを差し込む快感は、何物にも代え難い。
この快感を久々に味合わせて貰った事には、アヤにもムルジアにも大感謝だ。
「・・・まあ、出来ればもう少し歯応えが欲しかったけどな」
「ははっ、それに関しては大丈夫。EOJは、普通のゲームじゃないからね」
俺の思わず漏らした不満の言葉に、アヤはニンマリと剣呑に微笑む。
その笑みは、それが嘘ではない事を、何より雄弁に語っていた。
どうやらEOJには、コイツをマジにさせるだけのモノがあるという事らしい。
ふーん、そりゃ楽しみだ!
「いいね。そう来なくっちゃ」
「うん、期待してて。まあでも、今は色々説明が先だけどね。とりあえず、色々覚えて貰わなきゃだし」
「まあ、そりゃそうだな」
新しいゲームを始めたら、まずは基本の確認である。
MMO RPGというゲームは、プレイヤーの技量ももちろん大切だが、一番重要なのは、『ゲームへの理解度』だ。
システム、シナリオ、世界観、そういったゲームに詰め込まれているあらゆる要素をどれだけ広く、深く理解出来るかが、ゲームを楽しみ、攻略する為の鍵になる。
「んで、とりあえず一つ聞きたいんだけどさ?」
「ん?」
「兄貴、なんでMPが無くなってんの?」
「・・・ああ、それな」
アヤの指摘に、俺は思わず顔を顰めた。
そう、俺のMPは、今もジリジリと減り続けてすでに残り1になっている。そう、最初に貰った謎の『ジョーカーカード』の効果だった。
「俺もよく分かってねえんだけど、なんか妙な『ジョーカーカード』を貰っちまってな」
「ジョーカー?・・・なんでMPが減ってくのよ?」
「俺が聞きてえよ」
という事で、俺はアヤと一緒にステータスを確認する事に。スマホでステータス画面を出して、見えやすいように、ウィンドウを空中に開く。
ステータス
名前;ユーフラット
性別;男性
レベル;1
HP;1000/1000 MP;1/20 SP;30/30
職業;【なし】
称号;【ルーキー】
ジューカー;【カース・オブ・ブラック】
「HP多いな?」
「このゲーム、ステが基本固定だからね」
RPGでお馴染みの攻撃力や防御力といったステータスは、全プレイヤー一律で固定。それをデッキに入れる各種カードで強化していくのがEOJのスタイルだ。
その影響でHPだけは、ゲームが進んでも問題がないように、はじめから多く設定されてるらしい。
「でも、MPとSP?こっちはなんか普通な感じだぞ?」
「そっちはプレイヤーのレベルで上がる奴。強いカードを初心者がなんでも使えるようにしちゃうと、色々問題あるでしょ?」
「ああ、なるほど」
カードを使うシステム上、EOJではカードのトレードが当たり前に行われている。
つまり、課金するなり、地道にトレードを繰り返していけば、強力なカードを最初から使う事も可能なのだ。
しかし、それを全て許してしまうと、ゲームバランスは崩壊する。
だからカード効果を使う為のMPとSPは、プレイヤーがレベルを上げて増やすようにしてあるようだ。
「だったら、HPも同じ仕様で良いんじゃねえのか?」
「私はこれで良いと思うな。ステが色々変わるから、HPは一定の方がやりやすいもん」
「そんなもんか」
まあ、確かにデッキの内容でキャラ性能がコロコロ変わる以上、HPくらいは分かりやすい数字の方がキャラ性能が把握しやすくて遊びやすいか。
格ゲーなんかと同じ奴だな。
自分で作ったキャラを、自由に選べると思えば良い訳だ。
「そうそう。好きなカードを集めて、好みのキャラを作る感じ?デッキをいくつも用意しておけば、その場で簡単にスタイルを変えられるし、そういう意味では、キャラチェンジ系のシステムに近いかも?」
「なるほどなー」
なんでカードゲームみたいなカードやデッキなんてシステムになるのかと思っていたが、そういう意図があった訳か。
この手のゲームでは、スキル制やステータスポイント制などを採用する場合が多いが、共通するのは、ポイントを消費してキャラを強化していくものという事だ。レベルアップなどでポイントを貯めて、その分、強くなれるというシステムである。
しかし、そういったシステムは、一度ポイントを使うと元には戻せない。
環境や気分、状況に合わせて職業やスタイルを変えるといった遊び方は、基本的に無理だ。
加えて、誰もがみんな、最初から最適な選択を出来るものでもない。
よく分からずにポイントを無駄に使ってしまって、思うようにキャラを作れなくなるというのは、よくある話だ。
もちろん、ゲームによっては救済措置なんかがあったりもするが、気軽に物理職から魔法職に変えるとかは、無理だ。そんな事をするくらいなら、別アカでキャラを作り直す。
しかし、EOJは、必要なカードさえ集めれば、どんなスタイルにでも設定ひとつで変更可能だ。
その点は、非常に自由度が高いと言える。
「カードにもレベルがあるし、持ち歩けるカードに限度もあるから、あんまり欲張るのもダメだけどね」
「まあ、その辺はどうでも良い。それより俺はステ振りの失敗とかがないのが良いな!」
手間がかかっても、カードさえ集めれば良い訳だろ?小難しい育成論なんかをいちいち調べなくても良いのは、大助かりだ。
そんな俺の意見に、アヤは笑った。
「兄貴って、そういうトコ、全然ダメだもんね」
「ほっとけ」
俺は、細かい数字をアレコレ管理するのが苦手なんだよ。
だから、俺はキャラを育てるゲームより、練習して体で覚えるタイプのゲームの方が得意だった。
まあ、それはともかく、今は『ジョーカー』だ。俺は『ジョーカーカード』の項目をクリックしてその詳細を表示させる。
【カース・オブ・ブラック】
種別;ジョーカー・コントラクト/呪い
効果;魂を蝕む黒き悪魔の呪い。(MPが、2以上ある場合、10秒毎に一定量減少する。減少量はプレイヤーのレベルに依存する)
アーツ;【黒キ獣】
「うわー、マジの【呪い】じゃん。MP強制消費とか、ありえないんだけど~」
「面白がってんじゃねえよ!」
カードの詳細に目を丸くして、それから遠慮なしに笑いだしたアヤに、俺は思わず声を荒げた。
しかし、アヤはそんな抗議など気にも留めず、勝手にウィンドウを操作して【カース・オブ・ブラック】のカードを直接確認する。
すると、アヤは
「・・・お、星3つ?・・・ってことは、一応「当たり」なんだね、コレ」
「は?・・・当たり?」
「うん。初期配布のジョーカーって、基本、SRなんだよ。でも、たまにその上のURを引く人がいるの。だから兄貴のコレは、当たり」
「・・・えー?」
MPをあっという間に1にするこのジョーカーが当たり?
信じられない思いでカードを確認するが、アヤの指摘通りカードには、星が3つ表記されている。
星なしがノーマル(N)。星1でレア(R)。星2でスーパーレア(SR)。星3でウルトラレア(UR)。星4でアルティメットレア(ULR)になる。ちなみに星5以降は、多分あるだろうとは言われているが、現状では未確認。
つまりこの【カース・オブ・ブラック】は、星3つのウルトラレアのジョーカーカードらしい。
「・・・いや、呪いが当たりってなんだよ?」
「うん、なんというかご愁傷様。でも、多分この【黒キ獣】っていうアーツは強いと思うよ?ウルトラのジョーカーだし」
ということで、【黒キ獣】のアーツも確認する
【黒キ獣】
種別;アーツ/魔法
コスト;MP1
状態;使用不可
効果;黒き呪いの獣を召喚する。効果及び攻撃力はMPのチャージ量に依存する。
チャージカウント;36
「えーと、つまり?」
「・・・MPをチャージすればするほど強くなる?」
「あー、なるほど・・・」
呪いで吸い上げられたMPがこのアーツに蓄えられ、発動するとそのチャージ分を全ブッパする魔法な訳か。
魔法が一切使えなくなる代わりに、強力な一撃が使える訳だ。
「MPが1残るようになってるのは、こいつを使う為の分な訳か。でも、使用不可って?」
「それは、単純にチャージが足りてないんじゃない?どれくらいから使えるのかは分からないけど・・・」
「・・・微妙ぉ」
いつ使えるか分からない必殺技ってか?どんな強力な魔法か知らないが、そんなモン、当てに出来る訳がない。
せめてどれくらいチャージすれば良いのかくらい書いといて欲しい。
とはいえ、コイツが俺の切り札である事は、もう決定事項なのだ。諦めて使ってみるしかない。
「・・・とりあえず、MPが貯まるのを待つしかねえか」
「だねぇ。まあ、その内使えるようになるよ。知らんけど」
「うっせえよ!」
とりあえず、このジョーカーに関しては、保留するしかないな。検証しようにも、まずは使えるようになるまで待つしかないのだ。
という訳で、話は次に進む。
「じゃあ、とりあえずジョーカーは置いといて、デッキの説明いくよー」
「おー」
「って言っても、あんま話す事ないけどね。兄貴はまだカード初期装備系しか持ってないし」
まあ、そりゃそうだ。
「とりあえず、今デッキに入ってるカードは、全部設定しないとダメだから、一度デッキを開いて中身確認して」
「おう」
言われた通りにデッキを開くと、中には10枚のカードが入っていた。
中身は【ルーキー】の称号カードが1枚。『武器』、『胸防具』、『足・腕装備』、『アクセサリー』の各【初期装備】のカードが計4枚。
残りは、【職業体験】と【初期スキル】が各2枚と【紹介状】となっていた。
【ルーキー】
種別;コントラクト/称号
効果;ゲームを始めた初心者の証。死亡時のペナルティーを無効にする(3/3)
【初期装備(胸防具)】
種別;マテリアル/防具
効果;デッキから効果発動時、設定した胸防具の初期装備に変化する。
【ルーキー】は、最初にアージュさんの見せてくれた通りだ。各種【初期装備】も、ムルジアとのPvPで先んじて使った『武器』のバリエーションで、好みの防具やアクセサリーに変化する。
「この【職業体験】ってのは?」
「見たまんまだよ」
【職業体験】
種別;コントラクト/職業
効果;選択した職業のコントラクトカードに変化する。【ルーキー】の称号が有効な場合、再選択が可能となる。
「好きな職業にお試しでなれるコンカね。2枚あるのは、メイン、サブって別々にデッキを作ったり、あとはコンボとか?する用」
「コンボ?」
「良くあるでしょ?魔法使いと剣士を組み合わせて魔法剣士にしたりする奴」
「ああ、あるある」
他にも、職業補正を重複させたりしてステータスを特化型にしたりするな。EOJでも、そういった使い方が想定されている訳だ。
「称号は色々補正をかけるカードだから、入れれば入れるだけステが盛れるよ。まあ、入れすぎると他が入らなくなるけど」
デッキシステムの性質上、極端な話、20枚全てを称号にするなんて事も可能だ。
まあ、普通は5枚くらいまでだそうだが。
「そんで、職業を決めたら、次はスキルね」
【初期スキル】
種別;アビリティ/?
レベル;なし
効果;自分の職業に対応した初期スキルから1つを選ぶ。このカードはそのカードに変化する。【ルーキー】の称号が有効な場合、再選択が可能となる。
アーツ:なし
なるほど。スキルの方も2つは、選び直しが出来る訳か。
アージュさんに見せて貰った【俊足】のスキルも、おそらくこの【初期スキル】が変化した物だったのだろう。
まあ、選ぶ職業によって、使うスキルも結構変わるだろうしな。
職業が選び直せるなら、スキルも選び直せなきゃ困るわな。
「ふむふむ。やりたい職業を2つ決めて、それに合わせて装備とスキルを選んでいく感じか?」
「そういう事。まあ、兄貴の場合、もうだいたい決まっちゃってるけどね」
「ん?・・・なんでだ?」
「さっきの『ジョーカー』。あんなの使う以上、兄貴に出来そうな型なんて、そんなないでしょ?」
「ぐぅ」
コイツ、痛い所を!
だが確かに、あの呪いの『ジョーカーカード』を使うなら、それに合わせたカードでデッキを組む他ない。何せ、MPを常に吸い上げられているのだ。なんの対策もなしとは、そりゃいかない。
「まあ、MPが使えないんだし、とりあえず物理系は確定でしょ?」
「まあ、そうだな。SP使うなら、問題ない訳だし」
SPは、スタミナポイントの略で、主に物理系や移動系のアーツの発動に使われるポイントだ。
剣などの武器で使ういわゆる必殺技の類は、こっちを消費して発動する。
MPをほとんど使えない俺は、必然的に、こちらをメインにするしかなかった。
「せっかくだし、魔法使いとかもやってみたかったけどなー」
仕方ない事ではあったが、思わずそんな不満が漏れる。しかし、それをアヤは、鼻で笑った。
「いやいや、無理でしょ、絶対」
「はぁ?なんでだよ?!」
「いや、向いてないって自分が一番分かってんでしょーが?兄貴が後衛職とか、無理無理」
(私もそう思います)
「うっ・・・」
アヤの言葉に、フェニスまでもがわざわざ同意の声を上げた。
妹達に反射的に言い返そうとするが、それよりも早く、二人の言葉が続く。
「いつだったか、回復職やるって僧侶になったら、1週間でモンクになってたの、私、忘れてないからね?」
(FPSでも、スナイパーとか絶対続かないじゃないですか。ナイフを装備から外したの、私、見た事ないですよ?)
「格ゲーだって、インファイト系しか使わないし?」
(たまに飛び道具系を選んでも、なぜか前に出るんですよね。お兄さん、飛び道具は0距離攻撃するものじゃないって分かってます?)
「うぐぐ・・・」
思い当たる事しかなくて、言い返す隙すらなかった。
確かに、回復職やスナイパーみたいな後衛をやっても、結局、前に出て遊んでいる事が多いのは事実だ。
格闘ゲームも、歴代の持ちキャラは、全て近接系である。
だって、どうせ攻撃を避けるなら、反撃も出来る前衛の方が、面白いのだ。
そうなると必然、格闘系僧侶であるモンクで殴り返したり、スナイパーライフルを捨ててナイフを抜いたり、飛び道具を至近距離でぶっ放すなんて事になる。
・・・改めて考えてみると、ホント、碌な事してねえな?
確かに俺のスタイルと、魔法を使うスタイルは、噛み合い悪そうだ。
そんな事に今更思い至った俺に、アヤはやれやれと肩をすくめる。
「近接バカは、素直に剣とか棒とか使ってれば良いんだって」
(そもそもあの『ジョーカーカード』は、ゲームシステムが、お兄さんの適性を鑑みて選んだ物ですよ。向いてないですって、お兄さん)
「・・・うぐぐぐぐ・・・」
散々な言われようだが、否定が出来ねえ。
俺は、この話題を続けると旗色が悪すぎるので、開き直って【職業体験】の選択画面を開いた。
「まあいいや。とりあえず、物理職だな!」
「あ、逃げた」
(良いんじゃないですか?手間が省けますし)
「さあて、どんな職業があるのかなぁ!!」
俺は、聞こえないフリをして、ザッとリストを眺める。
物理職と一口にいっても色々だ。
攻撃力重視のアタッカー、防御重視のタンク、弓などを使う後衛だっているし、盗賊なんかをはじめとするAGI特化の回避タイプなんてのもある。
「・・・とりあえず、武器は剣で良いか」
定番武器であるが故に、この手の武器は、間合いも扱いも色々脳に染み付いている。
ムルジア戦でも違和感なく振れていたし、困る事はないだろう。
「あれ?【剣士】だけじゃねえのか」
武器適正でソートをかけると、5種類も候補が出てきた。
出てきたのは、【兵士】【剣士】【傭兵】【侍】【無頼】。
「・・・なんか妙なラインナップだな」
「所属があるからね」
「所属?」
「うん。さっき【紹介状】ってあったでしょ?職業を決めたら、それに合わせた窓口に行くと、それで仮登録してくれるんだよ」
【紹介状】
種別;コントラクト/称号
効果;組織の窓口で所属を申請して、受理された場合、各【新米】のコントラクトカードに変化する。【ルーキー】の称号が有効な場合、所属の更新が可能となる。
例えば【兵士】なら所属は国。プレイヤーは、国からの命令で様々な場所で戦うミッションを受ける事になるらしい。
同様に、【剣士】は冒険者ギルド、【傭兵】は企業組合、【侍】は異邦人街、【無頼】は闇組織の所属になるそうだ。
「・・・全員、冒険者じゃないんだな」
「やる事自体は、変わんないけどね」
モンスター退治などのミッションは、発注先が変わるだけ。一部の専用ミッションくらいしか今の所、差はないそうだ。
「あとは、二次職が変わるかな。まだハッキリ分かってないけど」
「というと?」
「例えば、国に所属してないと【騎士】にはなれないっぽい」
「ああ、なるほど」
所属が違えば、その組織特有の職業とかも出てくるもんな。成りたい上級職があるなら、その辺も意識して選べよ、と。
「紹介状は1枚しかないから、そこは結構重要なんだよね」
「確かに、悩み所だな」
戦い方なんて、後からでもどうにでもなるだろうが、所属組織は、そうもいくまい。
あまり考えなしに選んでしまうと、後々こんなつもりじゃ!、なんて事になりかねない。
まあ、リカバリーはしやすいゲームみたいだから、そこまで致命的な事にはならないと思うけどな。でも、それにしたってやり直しは極力避けたい。
「兄貴は、なんかやりたい事あんの?」
「いーや別に?」
そもそもこのゲームの存在を知ったのがつい1時間くらい前で、はじめたのも、アヤに言われたからってだけだ。そんなビジョンなどある訳がない。
「・・・むしろアヤ的にはどうなんだよ?なんか俺にやって欲しいとか、なんか希望とかあるんじゃねえの?」
「あれ、聞いてくれるの?随分優しいじゃん?」
「そもそも俺になんかやらせる気満々なんだろうが」
コイツにその辺の事を考えて無い訳がないのだ。
それにコイツは、ある意味、俺以上に俺が何が得意で、何が苦手かを熟知している。
きっと俺向きの選択を考えてくれているはずだ。
「まどろっこしい事はいいから、手っ取り早く説明してくれ」
「ふふっ、兄貴のそういうトコ、私好きだよ」
「へいへい。んで、オススメは?」
俺は、そう言って操作ウィンドウをアヤに送った。すると、迷いない手つきで画面を操作する。
「私としては、こんな感じ・・・かな?」
「ほうほう・・・って、マジか」
「マジだよ、マジ。大マジ」
「むぅ・・・」
俺は思ってもみなかった設定に思わず唸ってしまったのだった。
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