第3話 謎のお客さま(1)

 マリィの手の中でキラリと光るネックレスは、「忘れな草の雫のネックレス」と言うらしい。


 吸い込まれそうな青い雫。こんなに素敵なネックレスなのに、心が晴れないのは、きっと。


 マリィはため息をつきながら、預かりもののネックレスを宝箱に納めて鍵をかけた。


 その夜、マリィは久しぶりに夢を見た。まだ、両親が生きていて、弟が小さかった頃。父が魔法の手ほどきをマリィと弟にしてくれる。


「人の思いは、かたちになって、私たちの生活を助けているんだよ」


 マリィと小さな弟は、不思議そうに首をかしげる。父は続けた。


「木がよく茂って、たくさん果実をつけるとうれしいだろう?その思いを、私たちは叶えることが出来るんだ。自分の思いを強く意識することから、始めるんだよ」


 マリィと小さな弟は、嬉しそうに頷く。


 待って。もしも、両親が生きていることを強く思えたなら、彼らはまだ生きていたのだろうか。店を守るため、家族を守るために、寂しくて辛い気持ちを押し隠して、弟を守り育ててきた過去を、マリィは思い出す。


「強い思いは、ちからになって…」


 マリィが夢から覚めれば、まだ夜も半ばで、あたりは驚くほど静かだった。

 ふと、かまどの方からカタリと音がした。

 マリィの心臓がビクリと跳ね上がる。


 まさか泥棒!?


 マリィは、ベッド横に置いた火かき棒を静かに手にし、音を立てずに素早く起き上がる。そして、足音を忍ばせて土間へ降りた。


 かまどの前でかがみ込む小さな影。月の光を浴びて薄っすらと輪郭が見える。


 暗闇に目が慣れてきて、視界がはっきりしてくる。小さな頭の上にはピンと立った耳、丸まった背中の先には太いシッポが見えた。かまどの横に置かれた籠が転がり、中の芋がこぼれている。


 子ギツネ?


 マリィは、スッと大きく息を吸い込むと、腹の底から大声を出す。


「ここで何をしているの!!?」


 かまどの前で丸まった小さな肩がビクリと跳ねる。影がゆっくり振り向くと、目を丸くした、あどけなさの残る子どもの顔が現れた。

 マリィは、目を何度かパチパチとまばたきする。


 え?人間だったの?


 マリィが見たはずの三角の耳も太い尻尾もいつの間にか消えていた。

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