私は、その後は順風満帆、30歳で、高等検察庁に所属して東京で活動していた。

そして、変わったことといえば、１か月前に結婚して、男性と一緒に暮らしている。

別に結婚しなくても良かったの。

でも、雰囲気として結婚したほうが勝ち組みたいな目線を感じて結婚することにした。

今は、別に子供なんて考えていなくて、しばらくは仕事に専念するつもり。

パートナーもそれに同意している。

パートナーは、高校の時にクラスが一緒だった人。

高２の時に、親が転勤で地方に行ったから、それ以降会わなかったけど。

でも、当時は彼のことが好きだった。

男性って、女の子をからかうでしょう。

そんな中で、私をからかった男性に、彼は怒ってくれた。

それ以降、彼を見るのが恥ずかしくなったの。

そして、彼のことばかり考えている自分に気付いたわ。

彼も、私のことを好きに違いないと思った。

雨が降り始めた帰りに、私を傘の中に入れてくれたこともあるし。

バレンタインのときには、彼へのプレゼントを作っていた自分に驚いていた。

自分の家のキッチンをチョコレートの匂いでいっぱいにして。

チョコレートを入れて固めるシリコン型とか、チョコレートとか買っていた。

あの頃は、とても、あどけない私で微笑ましい。

でも、転校してから、あんなに好きだった彼のこと、どうしてか忘れていたの。

そして１年ぐらい前かしら、スーパーで食材を買っていたら、後ろから声をかけられた。

振り返ると、彼がそこにいたの。

「あれ、工藤さんじゃないか。久しぶり。」

「宮本くん、本当に久しぶり。この辺に住んでるの？」

「ああ、でも、すぐに分かったよ。小学校のときとそれほど変わってないね。」

「それって、ディスってる？」

「そういうことじゃなくて、すぐに分かったということだよ。今、仕事とか何をしてるの？」

「検事なの。宮本くんは？」

「僕は、IT系の会社立ち上げて、そこで社長をしてるんだ。」

「社長さん？　すごいじゃない。頑張ってるのね。」

「３人しかいない会社で、社長といっても、それ程じゃないんだけど。それより、工藤さんは検事なの？　すごいじゃん。悪を懲らしめる正義って感じかな。」

「それほどじゃないわよ。地味な国家公務員よ。」

「そうかな。まあ、再会できたんだし、これからも仲良くしようよ。」

「そうね。」

別に今更、好きだったなんて言うほどじゃない。

でも、そんな出会いから、一緒にいる時間が増え、結婚することになったの。

私の仕事は今のままでもいいと言うし。

今から振り返ってみると、彼との思い出は楽しかったかもしれない。

今、感じることがないワクワク感があったように思う。

毎日が楽しかった。

そんな同じ時間を過ごした人と一緒にいられるのは、良いことなのかもしれない。

別に、今更、一緒にいてもワクワク感ということはないし、空気のような存在。

だから、どちらでもいいけど。

もちろん、結婚したい人がいるということは花恋にも話した。

花恋は、私にもそんな気持ちがあったんだととっても喜んでくれてたの。

とってもいい友達。

パートナーにも会わせると、パートナーのことをとても褒めてくれたわ。

結婚式にも友達として出席してくれた。

これからも、友達としてはずっと変わらないけど、パートナーの方と幸せに暮らしてねって。

それから、結婚して１年が経ったけど、仕事に忙殺される日々を過ごしていた。

そんななか、パートナーは香港に事業展開すると言って、１年間、日本にいない日々となったの。

いままで１人で暮らしてきたのに、パートナーと一緒にいるはずの部屋で１人暮らしは寂しかった。

そんな時だった。いきなり倒れてしまったの。

最初は何が起こったのかわからなかったけど、手足がしびれて動かない。

また、顔もしびれて声はでない。

でも、意識はしっかりしていて、目は見えるし、耳もいつも通り。

脳の中で出血とかしたのかしら。

目線は床を這い、ソファー横のテーブルにスマホがあるのが見える。

それを使えば救急車とかを呼んで助かるんだと思うけど、体が動かない。

日が暮れ、そして朝を迎えても、意識はしっかりしているけど体は動かなかった。

とても寒い。頬はずっと床の上で痛いはずだけど何も感覚はない。

すごい長い時間、何もできずに、目の前のソファーだけが見えていた。

私は床にころがり、２日が経ったときだった。

玄関のドアが開き、パートナーが香港から帰ってきたの。

そして、倒れている私をみつけ、病院に運んでくれた。

そして、私は九死に一生を得た。

３ヶ月ぐらい入院した後に退院し、その後、３ヶ月ぐらい自宅でリハビリ。

最近は、どうにか、普通には生活できるようになった。

その間、パートナーは私のリハビリに真摯に付き合ってくれた。

そして、１年ぐらい経った頃、私は検事の仕事に戻ったの。

元の生活に戻れたのは、パートナーのおかげで、本当に感謝している。

でも、時間って残酷。命の恩人のありがたみを、私は、忘れていった。

パートナーの作ってくれた料理をゴミ箱に捨てたり。

忙しくて外食するから、作る必要はないと言ったでしょうと捨て台詞をはきながら。

結婚記念日のお祝いで家で待っていたパートナーに嫌味を言ったり。

あなたは暇でいいわねと。

私は、日々の仕事に追われ、パートナーの優しさは当たり前のものだと思っていた。

今、仕事ができるのはパートナーのおかげなのに。

あなたの事業は上手くいっていないから収入が少ない。

それだったら、部屋の掃除をもっとしないさいよと言ったこともあった。

床に落ちている髪の毛を指さして怒ったこともあった。

とうとう、パートナーは私に言ったの。

「翠、僕たちって、どうして一緒にいるんだろう。翠は、高校のときに僕を好きだったと言っていたじゃないか。心の大切なところで僕らは繋がっていると思って一緒にいるんだけど、それは変わっていないんだよね。」

「なんのことかしら。女性なんて、いつも恋してる生き物なのよ。あなたは、その１人にすぎないの。私は、私がしたいことを邪魔しない人と結婚しただけなのに。」

「そういうようにしか見てなかったんだ。なんか、僕らは一緒にいる意味がないみたいだ。僕のサインをした離婚届を置いておくから、離婚したければサインをして、出しておいてくれ。」

そういって、彼は離婚届をテーブルの上に置いて私のもとから去っていった。

私も、別に彼がいなくても困らないし。

逆にいると邪魔だと思っていたのでスッキリした気持ちだった。

今どき、離婚なんてよくあることだし、１回結婚していれば、負け組とか言われないと思う。

逆に、１人で暮らしていくのに困ることはないし、そっちの方が楽。

何も困ることはない。私は、誰もいない部屋で、離婚届にサインをし、市役所に出しておいた。