第14話 どいつもこいつもチートでずるい
早朝。
街からさほど遠くない河川敷で突発的なモンスターとの遭遇があり、そこで練習していた様々なクラブ活動の子供達が街の警備によって避難させられる事件が発生したらしい。
幸いこの大きな街の警備は国とも連携しているのでかなり強く、勇者や聖女といった特別な力が無くてもさすがにはぐれ魔物から街を守るくらい余裕だったようなのだが、それでも勇者の紋章が輝き、ダークナイトが魔物を一閃したと街の人に教わる。
私は正直この街の超高級な魔物避けと金のかかった警備なら前の町ほど身近な事件は起きないと勝手に思い込んでいたので、内心穏やかじゃなかった。
未来の私の国の民どもをあまり怯えさせないよう、さも余裕な感じで急ぎ現場に向かわなければ。
颯爽と優雅に朝食を済ませて研究所の外へと向かう。
「タリア王女!大丈夫、被害は無いですよ、怪我人も居ないので焦らないで!」
「ふぇんふぇんはへっへらいら(全然焦って無いが)」
「落ち着いて!食べ終わってからで大丈夫ですって!」
なぜか研究所の職員達に邪魔をされるが問題は無い。ついでに補助輪というか補助足のついた二輪車を用意して貰ったので結果的には走るより圧倒的に早く辿り着いたし。
ちなみに昆虫を参考にした魔導補助足は道中あちこちで悲鳴が上がってたので馬車同様に再検証が必要だと思う。ものすごくカサカサしてて動きが速いので私ですら本能的な忌避感がある。
キッズどもをビビらせるわけにはいかないので途中で補助を無くしてフラフラと怪しい運転で接近したものの、既に一旦避難させられたらしく幼い子は殆ど居なくてそれなりにでかい若者が十数人くらいしか残っていなかった。
そして……なんだか良く分からんがヤマトが警備や子供らと口論になっていた。感情的に言い合ってるとかではないが誰かと反発する姿は珍しい。というか初めて見る。
「アネモネ、これどういう流れ…?」
本当はすぐさま警備と子供らから話を聞きたかったのだけど、空気を呼んで割り込まずアネモネに助けを求める。
「!! よかったタリア!お願い、警備の人を説得して欲しいの!」
「うえっ!?」「ええ!?」
私と恐らく隊長らしきおっさんが同時にうめき声を上げる。
「何やったんだよお前ら…」
しぶしぶ近づきながらおっさんに問いかけると、無罪を主張するように必死で手を振っている。
「じ、自分らはただ避難指示と街の外での練習禁止を伝えただけです。他に場所が無いとゴネられてて…」
「場所が無いっていうか、どっちにしろ大会が中止になるんだから練習する意味無いだろ。」
「は!?」「え!?」
「ちょ!!デリカシー!!王女!デリカシーが!!!」
ざわつく若者たちと警備。唖然としている勇者と聖女。
あれ?なんか私やっちゃった?
死んだ目の少年達がヤマトに声をかける。
「だから言ったじゃないか勇者さん。お願いしてくれるのは嬉しかったけどもう意味無いんだよ。タリア王女が中止だと思ってるならもう本当に無理だよ。」
「てか僕なんかレギュラーですら無いよ。なんとなく惰性で続けてただけなんだ。」
「……!いやっしかし!俺が!俺が完全に食い止めるから!タリアにもちゃんと頼めば…!」
どうやら子供らも警備も諦めているのにヤマトが食いついていた構図らしい。
「そうじゃなくって、タリア王女が断言したって事はもう答えが決まってるんだよ。」
「えっ?あ、いや私は別に権力で止めたりしないぞ!?ただ状況的に中止に決まってんじゃんって話なだけで。」
そして急な飛び火に狼狽する私。
ヤマトとアネモネと、ついでに子供達まで絶望的な表情で私を見ている。そ、そんな目で見ないで欲しい。私が悪いのか?
「いや!?本当に止めたいわけじゃないぞ私は!!子供らのクラブがそんな大事だとは思わなかったが、やりたいなら来年とかに安全になってからまたやればいいじゃん!!」
「「「……」」」
え?
嘘でしょ、全員めちゃくちゃ冷たい目で見てくる。なんで?そんなに私悪いこと言ってる?今は無理でどうしてもやりたいなら中止じゃなく延期するしか無いよね?
「…こいつらはもう上の学校へ行く。今回が最後で来年なんか無いんだ。なんとかならないのか?」
ボソリとヤマトが言う。ようやく意味が分かってきた。なるほど学校対抗戦で、卒業するから来年はその学校代表として出られないって話か。
「つ…いっ!……今の無し!」
次の学校で出ればいいじゃんって言おうとして隣のアネモネにつねられて止められる。危ない、どうやらここは地雷原らしい。
まずいぞ、クラブ活動みたいなやつ全く興味無かったから雰囲気が全然分からない。もしかしてこの地域の子供らってそんなに学校対抗戦に命賭けてんの?
普段はもうちょい気を配れる自信があるんだが、独自文化の空気がわからないと外の人間には普通に難しいだろ。身内ノリやめろ。
てか異世界の勇者が身内ノリの最先端で過激派してるのはなんなんだよ。
難しい顔をしたヤマトが一歩前に出てくる。
「タリア。俺は戦うなら絶対に決着をつけるべきだと思う。」
「お、おう?」
何の話だ?戦ったら大体決着つくだろ。引き分けだって決着だよね?
「例え最後の大会でもレギュラーに選ばれなくって、選手になれなかったとしてもだ。レギュラー争奪戦も大会の一部であり、悔しい敗北で、ちゃんとした決着なんだ。」
「う…ん?かんけっ……今の無し!続けて?」
選手じゃないなら関係無くねと言おうとしてまたつねられた。アネモネの冷や汗が凄く、子供らの勘づいた視線が痛い。そういや一人レギュラーじゃないけど練習してたって言ってたわ。なるほどあれね、負けという結果だろうとそれを奪うなってやつね?
わかるわかる。でも迂闊にわかるって言うと絶対危ない気配がしてるから言わないで聞く。
「部活っていうのは明確にゴールのある別の人生なんだ。その競技や創作をする、その部活所属の自分という存在は最後の大会で死ぬ。」
そんな大げさな。つねられる。
「大げさじゃないんだ。部活なんてやる必要は無い。意味もない。プロに行けるなら違うんだろうがそんなやつ一握りだ。その部活と共に生きた人生は明確にそこで終わる。その先に続いていない。そこからは部活の無い別の人生なんだよ。……だから、絶対に結末だけは奪っちゃいけないんだ。」
やばい。キッズ一人が声も無く泣いてる。変な共感スキルをやめろヤマト。そこそこ背のでっかい若者の泣く姿はちびっこのギャン泣きと別ベクトルでちょっと心にダメージ来るだろ。
困った顔で助けを求めている警備ども。恨めしい目で見てくるキッズども。いや別に私が中止にするわけじゃないんだが!?そしてなんとも言えない複雑な表情で見てくる勇者と聖女。
え?もしかして私?私になんとかしろって言ってる?完全に部外者なんだが!?
「……いや!?そんな目で私を見るなよ皆!なんだよ、やりたきゃやればいいだろ!?」
「だからやりたいんだってば!でも中止なんだろ?」
ヤマトが子供らを庇うように前に出て警備と王女に立ち向かう。くそ、ふざけるなよ、なんでこの私を敵役みたいにするんだ。私はいつだってキッズの味方だぞ。
「ええい、なんなんだよ!?だったら延期って事にして安全になってからその旧学年でその大会すりゃいいじゃん!今更こんなとこで揉めてないで最初からそういう大会開きたいですって色んなとこに提案すればいいだろ!まったく、知らん界隈の身内ノリを察して助けろとか無茶言うなよ。」
「……え?いや、しかし、卒業してからそんな…次の世代は次の大会に本気で挑むべきだし巻き込むわけにも……」
急にごねるヤマト。おい本当にふざけるなよ。やりたいって言ったのはそっちだろ。
「それこそキッズ共が決めて私に言えよ。私やヤマトみたいな部外者が決める事じゃないわ。自分らのやりたい事なら自分らで考えて自分らで動けよ。」
「いいんですか!?」「もし間に合えば卒業前とかでも!?」「来年でも早期なら新人勧誘戦みたいなOB入り大会とか…」
「だからいいとか悪いとかじゃないんだって。まず先に議論で、良し悪しはその後だろが。」
まずい、今度は完全になんとか出来るつもりになって騒ぎ始めてしまった。まだ何もしてない人間が勝手に成功したつもりで結果を喜んでて良いわけ無いだろ。
「勘違いするなよ?逆にやりたくないやつの反対意見だってお前らと同価値なんだからな。反対意見に勝てるかどうかもさっき言ってた決着がどうこうの一つだろ。浮かれるのには早すぎるだろ。」
ぎゃーぎゃーと甲高い声。ダメだ聞いてねぇ。いや一応聞いて反応してるんだけど多分もう成功のビジョンに囚われている。まぁでも動かないよりはマシだしもういいか?歩く前に躓いたつもりで拗ねてるより良いでしょ。せめて歩いてから道に文句言えよな。
ぶつくさ年寄りじみた説教する私と、王女の長話を余裕で無視して騒ぐ若者達と、言葉を失い停止するヤマト。
王族って割と挨拶とかさせられるものなので、こっちは大体みんな長い説教とか得意だし、聞く側はスルースキルが大体高いものだ。だがスルーするな。知的天才美少女王女のちゃんと理屈の通った天才的な意見やろが。
「あ!そうだ、はい注目。絶対これだけ聞け。いいかキッズ共、いきなり最適解を目指すなよ!一つの案に絞るんじゃないぞ。絶対反対もあるんだから、実現したいならそれを上回れるように沢山アイディア出せ。案を出す前の相談でもいいからとにかく色々出せ。国に提出さえすれば一応私は協力してやるから将来私を王にしろ。」
「事前の誘導は違反です王女!」「服装さえ痴女じゃ無くなれば応援します!」「白衣メガネは好き」
こんなに民に協力的な優しい美人王女なのにどうして誰一人素直に応援しないんだ。もっと素直になれ。
「キッズに良いこと言う説教って正直気持ち良いのでもっと言いたいんだけど、こいつら全然ちゃんと聞いてないので快感も薄いし許せん。」
「死ぬほど台無しになるからマジで余計な事言わないでくれ」
そしてヤマトまでガッカリしてる。なんだよお前も気持ちよく語ってたろうが。
恐らく都合の悪いところや退屈な部分を聞き流す事で元気を取り戻しすぎたキッズ共が、ワイワイガヤガヤとハイテンション過ぎるノリで私にじゃれついたあと、嵐のように去っていく。皆と相談しなきゃと叫んでいた。子供がしょげてるのは嫌すぎるけど元気なキッズは普通にうるさい。中間をくれ。そして話を聞け。
背中を見送っていると、遠くでさらにやかましい叫び声が上がっていたので、むしろ大半が退避させられた後の会話で良かった。少人数でも耳が痛いもん。学校の先生って凄い。
「あの、ありがとうございます王女…」
「お…!?」
警備の一人が丁寧に膝をつけてお辞儀する。嘘でしょ、私王族なのに式典とかマナーじゃなく純粋にこれをされるのってかなりレアな気がする!ちなみに前回は勇者への敬礼の出汁にされたやつで、その前はいつか覚えてすらいない。
「自分もその…息子が中止だろうと薄々分かってても必死に練習続けてたんで。その……今日帰ったらそれ言ってみます。」
「良く分からないけど私の手柄ならそこもちゃんと伝えて欲しい。」
「伝えます」
「そんな素直な反応!?てかどっちにしろお前らが街守り抜いたあとの話だから他人事みたいに言ってるなよ。私はいつだって民に協力するけど、結局最後はお前ら次第だろ。」
めちゃくちゃ真面目に敬礼される。……クラブ活動って協力するとこんな崇められる感じなの?そんなにスポーツとか創作の大会って楽しい?いや創作は好きだけど、私決められた大会とかより自分で好きなもの勝手に作る方が好きだぞ。
いやでも今後の覇道の為に一考の価値はあるな。
「……」
「あれっ!?ヤマトも!?」
「……今日のところは参ったと言ってやる」
「なんで偉そうなの?よくわからんが負けたなら負け犬らしくしろよ」
「……わんわん」
「あっ逆にうざい!」
まさかの勇者まで敬礼してきた。態度は終わってるけど。必死に大会させたがってたのに協力したから?
まぁ、多分何かあったんだなきっと。クラブで。
ヤマトという名前の定義にそんな特別なクラブ情報は見当たらなかったと思うが、恐らくは本人が言っていたように「何々の学校のなんとかって部活所属のヤマト」は少し現実の「ヤマト」単体とズレた特別な期間限定の人生だったんだろう。今のヤマトとは関係ない特別なヤマトがかつてそこに居て、今はもう居ないと。
…まさか大事な試合前に異世界に誘拐したのではと一瞬ぞわっとしたが、こいつは明らかに大人として働いてたっぽい経験値を持っている。成人年齢や、そもそも年齢の数え方が一緒かは知らないが、話の流れからして多分大事な大会が無くなった経験があるって感じだろう。
…いやどっちにしろいつどんな時期でも誘拐しちゃダメだな?今更の話だが。
小声でアネモネに聞く。
「……これもう私大丈夫?正解?」
こくこくと頷くアネモネ。珍しく駄々をこねるヤマトの姿に相当戸惑っていたようでホッとしているようだ。
……そうだ。しばらく優越感を味わいたいが、ちょうど警備が複数人居て、ヤマトもアネモネも居て、皆が避難したあとの人の居ない開けた場所。
ちょうど同じ加護持ちに聞きながら試したかったんだよね、「庇う」スキルの使い方。
つくづく凄いぞ私。常に天才。全てが正解。
突然の提案ながらも、なんか私に恩を感じてる空気だったから皆が素直に従って気持ち良い。
見事に警備全員「庇う」スキルや応用の加護を持っていてさすが金の有る街の優秀な警備って感じだったし、魔法とかスキルの話が飛び交い始めるとヤマトもいつもの元気を取り戻して目を輝かせ協力的になる。
不意にアネモネが不安げな顔をして、どうして必要だと思ったのか聞いてくる。
「どうしてって……普通に色々な手段が必要じゃない?守る策はあればあるほどいいでしょ?さっきのアイディアは絞らず沢山出せって話と一緒というか。」
静かに頷くが、納得した顔というよりはどうみても不安そうだ。不安ならばこそ色々準備し続けるしか無いと思うんだけどな…?
とりあえず試したい陣形というか、アネモネに抱えて浮いて貰い、結構離れた上空から出来る限り広く庇うつもりで魔力を腕輪に流し、二組に別れた警備に軽く攻撃しあって貰う。
複数人だとどうなるのかとか、攻撃してる側が受ける反撃もちゃんと庇う対象なのかとか、細かくチェックしていく。
広く視野を取るコツや応用的な使い方を実際のスキル持ちから教わって、何度も装備の使い勝手を確かめていく。
「……タリア王女、もしかしてこれってかなり国家機密レベルの装備の実験では?」
「うん」
青ざめる警備達と、はしゃぐヤマトと、全く私を降ろそうとしなくなったアネモネの協力のもと、しばらく実験が続けられて、だいぶ理解してきた。
ウラニアは私の特別研究員なだけあってやっぱりちょっとレベルが一桁違う。それこそ世代一つ分は余裕で違う。思っていたような簡単なスキル再現ではなく、相当熟練の使い手が戦況を変えるような規模で発動させる最上級の再現を狙って作ったようだ。
いわゆる英雄の奥義とされるような、基礎を極めた先にあるべきもの。
ほんとは気軽に再現出来ちゃいけないし、割と優秀な現場の警備らがビビるのも仕方ない。これはこれで人の職を殺す武器にもなっちゃうもんな。
必要素材の値段がちょっといくらなんでも問題だけど、勇者召喚を殺すと断言するだけの事はある。むしろ値段が安かったら勇者召喚の前に警備や衛兵の給料が殺されかねない。
前の町で私は少女を庇え無かったが、これは庇う対象の自動探知まで可能で、範囲も街一つくらいなら余裕で把握出来るほど広い。少なくともこのスキルでは勇者に追いつける。
問題はヤマトの本気がどれほどか分からない事だが、むしろ本気を出させちゃいけない。必要なのは細かい事実では無く、今の技術の方が勇者召喚より上だと知れ渡る事なのだから。
「そういえばヤマトってバフ以外は武術だけ?遠距離攻撃とかも出来るの?」
「うーん、まぁ、遠距離も出来るっちゃ出来るぞ。謎のビームが出る。」
「謎のビーム。まぁいいか、誰か受けてくれ。庇って消せるか見ておく」
やや前のめりに警備の一人が勇者の力を一度でいいから受けてみたいと出てきて、なんか武道家同士の手合わせみたいなノリで勇者とニヤついている。だから打ち消すんだってば。力比べにならんから。
「ヤマト、いきなり無茶な全力とかじゃないからな。一般人と王女が受けるんだからな。まずは常識的な威力でだぞ。」
「いや安心してくれ、俺は別にアネモネほど加減知らずじゃないよ。あんまり急に頑張ると体が痛いから嫌だし。」
「えっ私ちゃんといつも加減してます。」
えっ。
「まぁいいや、ツッコむのは今度にして実験開始!ほらヤマトも警備も構えて。カウントダウンのゼロで撃てよ。……いくよ? いいか? さん、にい、、いち、、、ゼロ!!」
カッという乾いた音。
一瞬遅れて響き渡る嵐のような爆音。
稲妻のような白い閃光が、恐ろしいほど大量に私に向かって無数に突っ込んでくる。
それを遠距離攻撃無効のビキニアーマーが弾く音と空気が裂ける爆音で何も聞こえない。世界が白く光っていて何も見えない。
「「「ぅわあああああああああああああああ!?!?!?!?」」」
どれが自分の声かも分からない悲鳴が爆音にかき消されていく。
バカか?
手加減の意味が分からないのか?勇者と聖女は。
こんなん庇わなかったら警備死ぬだろ。
「ーーーー!ーーーーーー!!!」
アネモネが私の近くで必死に叫んでいるがいくらなんでも周りがうるさすぎて聞き取れない。
おいどうするんだ、これ庇うの止められないし、誰かヤマトを止めてくれ。アネモネ、あいつ殴ってきて。
「アネモネ!タリアともっと高く飛んでくれ!逆に近いやつらが危ない!!」
異様に通る声に振り返ると、ヤマトの右手に勇者の紋章が光り輝き、警備の人らを無数の閃光から守っている。
なるほど勇者も手一杯で勇者を止められない…?
……?
あれ?これ、誰が撃って……!?
「敵だ!!もう敵が居る!!アネモネ、絶対にタリアを死守してくれ!」
「ーーー!」
ヤマトの声だけが通る。やっぱりあいつの言葉は何か翻訳というか不自然な仕掛けがあるんじゃないだろうか。
敵。ヤマトが指差す上空には何も無い。まばゆいほど大量の閃光が大雨みたいに降り注いでいるが、空割りドラゴンは見当たらない。なんせ空が割れていない。
「割れてる!もう割れてたんだ!!」
ヤマトは必死に私に説明しようとし続けている。恐らく天才の私がちゃんと状況を認識し対策しないとマズイと考えているんだろう。冷静な頭はそれを理解するものの、爆音と閃光の中で冷静に状況を掴むのは非常に難しい。
割れていない空。割れていると伝える勇者。空から降り注ぐ無数の閃光。
……まさか。
待ってくれ、それは卑怯じゃないか……!?
「小さな穴の向こうから撃ってきてる!!!!」
「ズルいいいいいいい!!!!」
なるほど、天才の私が真っ先にこれを盗む筈だ。遠距離攻撃を無効化出来る国宝が仕舞われたままこれを食らっていたらさすがに後悔しきれない。
冷静に考えたら、上空からドラゴンみたいな空を飛べる敵が来るって話なのに地面で剣を構えて待ってる方がおかしいもんな。普通に上から火吹かれたり石とか投げられるだけでも痛すぎるし。わざわざ降りる必要が無い。全国民は私の犯罪に感謝しろ。
……でもどうしようこれ?運良く止められたけど、もう私動けないんだが。
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