第3話 贈り主はしっかり見ましょう
本日は例の手紙の相手、公爵子息であるユリウス・ラガルドが我が屋敷に遊びに来る日。俺と同い年。父親同士が仲が良いので、たまに遊ぶ仲だ。
そう、そしてそれは他でもない、義弟寵愛ミッションの日。つまり、虐待をしなくて良い日。
「小説の中のアンジェリカは外面が良いなんて、悪役そのものだな」
「悪役ですから」
ただ、今回の寵愛ミッション。これはテオドールにとっては良いことではない。義姉に優しくされ、やっと自分を認めてもらえたと喜んでいると、次の日には罵声を浴びせられる。人間不信に陥ること間違いなしだ。
「早いとこヒロインに癒してもらわねーとな。後七年かぁ……」
「それまで頑張って下さい」
「この世界の為だもんな……わ、これ可愛い」
俺は先日の誕生日に貰った数々のプレゼントの中からグリーンのリボンを見つけ、手に取った。
「今日の服にも合いそうだな。今日の髪飾りはこれにしよ」
「マスター、さっきまでの少しセンチメンタルな感じが台無しですよ」
「良いだろ。せっかく可愛く生まれ変わったんだから楽しんだって。それはそれ、これはこれだ」
チリンチリン。と、ベルを鳴らせば、俺専属の侍女アンナが現れた。
「お嬢様、お呼びですか?」
「今日の髪飾り、こっちに変えてくれないかしら?」
「かしこまりました。では、髪型も変えますね」
アンナの手により、プラチナブロンドの髪の毛がゆるふわに編まれていく。その様を眺めていると、ユリウスが到着したようだ。馬車が停止する音が聞こえた。
「うわ、予定まで一時間もあるのに、もう来やがった」
「アンジェリカ様」
アンナの額に青筋が浮かんだ。
「ふふ、わたくしったらどうしちゃったのかしら」
「くれぐれもユリウス様の前で『俺』なんて言わないようにして下さい」
「はは。俺だなんて誰が……」
「分かりましたね?」
「はい」
アンナは俺が産まれた時から世話をしてくれているので、気が緩んだ時に出る男口調の俺を知っている。
そして、その度に叱られた。それが怖いのなんのって……。今のお嬢様モードの俺を作り上げたのは他でもない。アンナだ。
「このような感じで如何でしょう?」
「とっても可愛いわ」
可愛すぎてユリウスに会わずに手鏡で自身を眺め続けたい衝動に駆られながらも、俺はテオドールを誘いに部屋を出た。
◇◇◇◇
そして、ユリウスと御対面。
「ユリウス様は、いつ見ても眩しいですわね」
「はは、アンジェだって今日も天使の様に可愛いよ」
爽やかに笑う姿は、女子なら誰もが憧れる王子様のよう。
サラッサラの銀髪は肩の上で綺麗に切り揃えられ、肌は陶器の様に真っ白。翠の瞳は何でも見透かしていそうな程に澄んでいる。そして、超が付くほどのイケメンだ。
「アンジェが最近会ってくれないから、ボク嫌われたのかと思ったよ」
「はは、まさかそんな。忙しかっただけですわ」
笑って誤魔化すが、俺はユリウスが嫌いだ。というより、イケメンが嫌いだ。前世で好きな子を颯爽と奪っていったのもイケメンだった。
“イケメン滅びろ!”
ユリウスと会う度にそう思う。自分に魅力が無かっただけで、これが八つ当たりなのは百も承知。そこは突っ込まないで頂きたい。
「それよりユリウス様は、まだお会いしたことが無かったでしょう? 義弟のテオドールよ」
「宜しくね。気軽にユリウスって呼んで良いからね」
「テ、テオドール・ウォーラムです」
辿々しく挨拶するテオドールは見ていて愛らしい。
テオドールも顔は整っている。同じイケメンなのに、身内となると自慢したいくらい可愛いと思えるのは何故だろう。
ちなみに、家族以外には闇魔法のことは伏せている。家族に闇魔法が使える者がいるというのは恥らしい。
「ふふ、テオったらそんな緊張しなくて良いのよ(ユリウス如きに)」
「……?」
急に愛称はまずかっただろうか。テオドールが怪訝な顔で俺を見上げている。
「ん? どうしたの?」
テオドールの目線まで屈んで優しく言えば、テオドールは、たじろいだ。
さて、どうしたものか。はりきって可愛がろうと思ったのに、今まで罵声を浴びせるか、ツンとした態度でしか接して来なかった為、明らかに警戒している。
ケーキやクッキーを『あーん』させようと思ったのに……。
「そうですわ! お茶よ、お茶を致しましょう」
大抵、初デートの時は食事をするものだ。何かを口にしながら距離を縮めよう。もっともデートをした事はないが。
「ユリウス様、本日は天気も宜しいので、お庭にお茶を御用意しておりますの」
「良いね。行こうか」
「ほら、テオも行きますわよ」
勢いに任せてテオドールの手を取れば、テオドールはビクッと肩を震わせた。
「ぼ、僕、やっぱり部屋に戻ります」
「どうして? まだ挨拶しかしてないじゃない」
テオドールは俺とユリウスの顔を交互に見てから言った。
「僕は、姉さんの邪魔しませんから」
「邪魔?」
むしろユリウスが邪魔なんだが。いや、ユリウスがいないとテオドールを虐待しないといけないから、いてもらわないと困るか。
テオドールの発言をユリウスは何やら勘違いしたようで、頬を赤らめながら言った。
「やっぱりそういうことなんだね。父上もそろそろ婚約者を探そうかって言っていたんだ」
「婚約者?」
貴族の子は早くから婚約者を決めるので、珍しい話ではない。しかし、何故今その話なんだ?
「ボク、アンジェとなら良いよ」
「何がですの?」
「惚けた顔も愛らしいね。男性がプレゼントした物を身に付けて、女性がその相手をお茶に誘うのは『あなたの事が好き』と同義なのは我が国の常識だろう」
「あー、あったかも。でも、ユリウスからの……オホンッ。ユリウス様からのプレゼントなど身に付けておりませんが」
レモンイエローのドレスは自分のお小遣いで購入したもの。ネックレスや指輪、髪飾りだって……髪飾り?
「もしやこのリボン、ユリウス様からの?」
ユリウスはニコリと笑って頷いた。
「いやいやいや、これはただ可愛いなって思って付けただけで、ユリウス様からのって知らなくて」
「恥ずかしがらなくて良いんだよ。アンジェの気持ちは分かったから。庭園行こう」
「恥ずかしがってなどいませんから! テオ、とりあえず誤解を解くわよ! あなたも付いてらっしゃい」
「え、いや……僕は……」
「元はと言えば、あなたが勘違いさせるような発言するからよ」
責任転嫁にもほどがあるが、俺は半ば強制的にテオドールもお茶の席に同席させた。
今回は義弟寵愛ミッションの日だったのに、この展開は正解なのだろうか——。
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