第27話【憐火と祖母と、チカラ】
〖五月女憐火視点〗
なにから話しましょうか。
わたくしの……いいえ、こんな一人称やってられないですね。
わたしの名前は、五月女憐火。
いたって普通の女子高生だと自覚してるんですよ、これでも。
よく、いいとこのお嬢様だと誤解されますけど。
生まれも育ちも、ごくごくありふれた庶民でしかないんです。
そう思われる原因は、祖母にあります。
祖母はかなり厳しい人で、色んな習い事をやらされ、言葉遣いや普段の振る舞いも祖母の望むようにするよう物心ついたときから強制されてきました。
両親も祖母に対して強く言えないようで、あまり味方になってはくれず。
なぜそこまで厳しくするのかという問いには、祖母は決まってこう言いました。
「女ってのは、強くなくちゃいけないんだよ。だから、若いうちに色んな武器を……“
わたしは祖母のことは好きではないし、習い事なんて大嫌いでしたけれど。
この祖母の言葉だけは、否定できない自分がいました。
小学校の頃から、男というやつはいつも馬鹿みたいに威張っていたし。
いやらしい目でジロジロ見てくる変態も、数えきれないくらいいました。
そんな男に、弱いわたしは抵抗する力を持たない。
その事実が、とても怖かったんです。
そのことに加えて、わたしが祖母の言いつけを守っているのは、祖母がわたしと交わした約束にありました。
「大学を卒業するまでは、ばあちゃんの言いつけを守っておきな。そのあとは、憐火の好きに生きればいい。いい会社に入って世の男どもより稼げるようになるなり、男を
おそらく祖母は、自分に力がなかったせいで色々と苦労をしたのだろうと思います。
もちろんそのことへの同情心で、言いつけを守っているわけじゃなく。
祖母は、本気でわたしの未来を案じてくれているとわかったからです。
だからこそ、それまでは例え面倒でも言葉遣いは丁寧にして、立ち振る舞いにも気を付けて過ごすように心がけ。
そうして毎日を過ごしてきた、わたしでしたけれど。
高校に入学する前日に、祖母は亡くなりました。
両親はなんだかんだ言いつつも、祖母が亡くなったことを悲しみ。
もちろん、わたしもそうでした。
嫌な思い出ばかりで、枕を濡らした夜も数えきれないほどありましたが。
それでも、その日に流した涙の方が圧倒的に多かったのが、自分でも意外でした。
しばらく喪失感に苛まれながらも、高校生活に支障をきたさなかったのは、祖母の教えのたまものだと言うしかなかったですね。
そこでようやくわたしは、祖母の言うところの“力”を既に手に入れている事実に気が付いたわけです。
その成果もあり、わたしの高校生活はスタートダッシュを切ることに成功しました。
中学時代から既にその片鱗は見えていたものの、高校からはより一層周りから一目置かれはじめ。
勉強も運動もそれ以外のことも、周りより秀でているという事実は、尊敬を持って世間に迎えられることを知りました。
妬む女子もたくさんいましたけれど、それすら祖母より学んだ社交性の技術でうまく誘導し。今では彼女らもわたしのファンと化しています。
わたしは日々に充実していました。
そんななかでわたしは、吉良桜皐月という女生徒と出会いました。
そう、あなたのことですね。
わたしと同じように“力”を持つ人種だということは、中学の頃から噂程度に耳に入ってきていました。
それでも中学時代は同じクラスになることがなく、
幸か不幸か、球技大会や体育祭で敵対する機会にも恵まれなかったため、
これまではなんとなく、率先して話し掛けることはせずに終わってしまっていたが。
ついに、あなたと対する機会がやって来ました。
最初はバレーボールの試合でしたね。
身体を動かす技術は凄いけれど、バレーは素人でワンマンプレーが目立つ人。
とりあえず第一印象はそんな感じでした。
それでも、最後に見せたあのスパイク。
あれを見て、自分が手加減をされていた事実を突き付けられて、わたしはプライドを大きく傷つけられたものです。
とはいえあなたにも弱点はあった。
とりあえず、料理がからきしダメなんですよね。
なにかの理由で、またできない振りをしている可能性も考慮し料理研究会に誘ってみたんですが。すぐに本気で下手だとわかりました。
そんなに怒らないでください。悪気はないんです。
話を戻しますね。
いつしかわたしはそんなあなたに対して、言い様のない劣等感みたいなものを感じるようになりました。
いつも自然体で、それでいて強く、時には弱さもみせ、しかし人を惹き付ける力を持っている。
わたしと似て非なる魅力を持つ同級生。気にするなというのが無理というものですよ。
そんなとき、強神会という格闘団体から、アプローチがあったんです。
吉良桜皐月に関する情報が欲しい、と。
おそらくわたしを狙い撃ちにしたわけではなく、あなたの近くにいる生徒全員に大なり小なり接触していたのかもしれませんね。
たいていの人は、無視したことでしょうけれど。
わたしは敢えて詳細を知りたいと返答しました。
我ながら、浅はかな行動とは思います。
そして、オウマという方からあなたに関することを聞く形になりました。
相手はそれなりにテレビにも出ている有名な人でしたので、わたしも
ついあなたに関することを、少し話してしまったんです。
言い訳になりますが、タイミングが絶妙だったのもありました。
実は、たまたま北田くんにPPPに誘われたその日の放課後に、オウマさんとお会いする予定だったんです。
そのとき半ば強引に謝礼を受け取ってしまった手前、そのあとも引くに引けなくなってしまって……いえ、これも言い訳ですね。
ここへ来てから、止まる機会はいくらでもあったわけですし。
ウラヌスタワーで、わざとあなたと鈴木くんを分断するように仕向けたり。
鈴木くんと触れあっているのを、あなたのファンに見せつけたり。
色々と指示されるまま、動いてしまったんです。
…………ごめんなさい。
お願いだから、そんな恐い顔で睨まないで。
だ、だから鈴木くんに恋愛感情は持っていませんから。
え? それはそれで腹が立つ? うわ、めんどくさ……。
ちょっ、待って、なにその構え!
恐い恐い! やめてください本当に!
はぁ。もう、脅かさないでください。
こほん。それで、えっと。
早い話がわたしは、あなたに嫉妬していたんです。
だからこそ、色々といじわるをしてみたくなってしまったんです。
けれど、いじわるなんてレベルでは済まないことだったと今は痛感しています。
情けない話です。
これでは、わたしのことを妬んでいた女子連中と同列、いいえそれ以下ですね。
もちろん後日、オウマさんに謝礼はお返しするつもりですが。
そんな程度で、今日のことをなかったことにはできません。
謝ってすむ話ではありませんが、本当に申し訳ありませんでした。
わたしのことを、どのようにしてくれても構いません。
殴られても蹴られても、今回のことを誰に言いふらそうとも、ご自由に。
それはわたしの自業自得で起きてしまったことですので、一切文句は言いません。
……っ!
あーあ、また手加減されちゃいましたか。
いっそ、あのパンチゲームにやる位の勢いでやってくれても良かったんですよ?
ええ、わかっています。
今のビンタひとつで全部帳消しで後腐れなく友達になる、なんて都合のいい話でおさめるつもりはありません。
最初に言ったでしょう、これは未来の話だって。
遠くないうちに必ず、今回のことは何らかの形でちゃんと償いはします。
本当に、申し訳ありませんでした。
ああ。
パレード、もう終わりみたいですね。
ごめんなさい、鈴木くんとの時間を邪魔してしまって。
それじゃあ、わたしはもうこのまま帰りますね。
鈴木くんにも、北田くんにも謝っておいてください。
ああ、そうだ。最後にひとつだけ。
今日一緒に撮ったプリクラ、あれだけは他の人には見せないでくださいね。
さすがにちょっと、恥ずかしいですから。
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