第25話【やけ食いとサラリーマンと、サプライズ】
〖???視点〗
日が沈み、そろそろ夜のパレードがはじまる頃合いになり。
PPPの客たちはこぞって、場所取りのために移動していく。
そんな人混みの動きを眺める、異色の四人がいた。
和服の青年、パンダ着ぐるみの少女、ブランド品に身を包んだ女、空手着の大男。
そんな奇天烈な組み合わせの彼らは、ププラの太陽食堂のオープン席に座り。
少し早めの夕食をとっていた。
スパゲティにオムライス、ハンバーグにエビフライにステーキ、味噌汁にアイス……。
統一性のない食事の数々を、ほぼやけ食い状態で喰らう彼らは明らかに目立っていたが。
本人たちはまるで意に介することもなく食事をしながら、反省会を繰り広げていた。
「負けや負ーけ。ボロ負けもええとこやったな」
「…………くやしい。吉良桜皐月……あそこまで強いなんて……渾身の傑作の着ぐるみスーツの力が、まるで通じなかった……」
「気に病むな。今回ばかりは相手が悪かった。我々もまだまだ井の中の蛙だったということだ」
ツバサはポロポロと涙を流し、オウマになだめられていた。
「まだよ」
唯一、ヒミコはバクリとエビフライを噛み千切り、ダンとテーブルを叩いてヒステリックな叫びをあげる。
「あたくしの本気はこんなもんじゃないわ! みてなさい! 今度は極道や暴力団の精鋭を集めて、カチコミをかけてやる!」
「ちょいちょいねーさん、さすがにそらシャレにならんて」
「そうだ。我らの誇りを忘れたか。我らは精一杯の力を出し、策も
だがヒミコは諭されながらも、更にもう一度テーブルを叩き落ち着く様子もないようで。
「嫌よ! このまま引き下がれない! 次こそは、もうそれこそ法に触れるようなことをしてでも、あの小娘を血祭りにあげてーーーー」
「そのへんにしとけよ」
そこへ、声がかけられた。
パレードがはじまったようで、PPPの客たちはほとんどそっちに注目していたが。
唯一、四人へ向けて明らかに殺気を含んだ声をかけた人物がいた。
それにより、食事を続けていた四人は一瞬で椅子から立ち上がり戦闘態勢になる。
しかしそんな彼らの前に姿をみせたのは、ボサボサの髪に、気だるげな猫背、しわくちゃのスーツを着た冴えない中年の男だった。
「だ、誰よあんた」
「気にすんな。しがない高校教師だよ。名前は西森ってんだ。覚えていてくれなくてもいいぞ」
日常会話でもするかのようなセリフであったが、そこに込められた怒気は、四人に確かに伝わっていた。
「睦月老の遺言があるから、こっちとしても必要以上に手出しできなくて、参ってるんだがな。とはいえ、物事には限度ってもんがある」
オウマは額から汗が流れるのを感じつつ、他の三人を守るようにわずかに前に出る。
だが対するサラリーマン風の男は、一歩足りとも動かずにただ言葉を続けていく。
「あまりに非道な行いには、こっちもあらゆる手を使って敵を追い詰める手筈なんだ。あんたらも格闘家の端くれなら、非道な真似はやめて正々堂々の真っ向勝負をするべきだと思うがね」
その言葉を受け、場にしばしの沈黙が訪れる。
パレードの賑やかなBGMが、四人にはやけに遠いものに聞こえた。
そこから、しばらく緊張の時間が流れたのち。
オウマは意を決したような神妙な顔つきで、言葉を漏らした。
「わかった。我ら〖強神会〗は、吉良桜皐月から手を引こう」
「そ、そんな。オウマ、あんた本気……!?」
ヒミコが異を唱えるが、オウマは発言を撤回するつもりはないようで。
それ以外のふたりも、わずかに顔を曇らせたものの、オウマに反論することはなかった。
「それは、敗北宣言と受け取っていいんだな?」
「好きに受け取って貰って構わん」
「そうか。それじゃ、これ以上の問答はいらないな。お疲れさん」
そう言うと。サラリーマン風の男からは、さっきまでの威圧感が嘘のように消え去り。
どこからどう観察してもただのサラリーマンになって、その場から去っていった。
オウマたち四人は、そうしてようやく緊張から解放され、深々と椅子に座ることができていた。
「ひぇーえ、なんやねん。あのオッサン。あんなんがゴロゴロしとるなんて、ここら一帯は怪物の巣窟かなんかかい」
「……ぶるぶる。同感。……これじゃ、命がいくつあっても足りない……。パレード見て帰ろうかと思ってたけど……すぐに帰って、引きこもりを推奨する……」
「全くだ。これでは井の中の蛙どころでの話しではないな。奴らにとって我らは、生まれたばかりのおたまじゃくし程度の存在でしかなかったらしい」
すっかり意気消沈した三人の様子に、さすがにヒミコもこれ以上余計なことをする気も言う気も失せ、ちびちびとエビフライをかじることしかできなかった。
そうして彼らは食事を済ませ、PPPを後にするのだった。
そんな彼らの背後で、ちょうど花火が打ちあがり。
パレードは盛大に盛り上がっているようだった。
「あーあ、結局あのかわいこちゃんと、お近づきになられへんかったな。今頃あいつら、みんなで仲良くパレード見とるんやろうなあ」
最後にぽつりと漏れ出た一言を、他の三人は聞いていなかった。
言葉を吐いた本人としても、ただの独り言のつもりだったので。
なにか意味があったわけではない。
ただ。
この時のこの一言は、いわゆるフラグというやつであったことを彼自身、知る由もなかった。
※
〖サツキ視点〗
花火があがったのを、私は視界の端で捉えていた。
パレードの音や客たちの喧騒も、耳に届いている。
それでも、私はそちらに注意を払ってはいなかった。
パレードから少し離れた場所、アースキャッスルの裏手。
そこは位置的にパレードが見えないので、ちょうど人目につかない状態にあった。
そんな場所で私が見つめるのは、目の前に佇むひとりの人物。
その人物が今回のPPPでの一件に関して、裏で糸を引いていた黒幕であることを、私は薄々気がついていた。
「それで、なんの用かな?」
「…………」
「もしかして、なにかのサプライズ? 誕生日は少し前に終わっちゃったけど。プレゼントだけくれるとか?」
気さくにそう問いかけてみるが、彼女はなにも答えない。
いや、どう答えたものか思案しているといったところだろうか。
いっそこのまま誤魔化すのはどうか、などと考えている可能性もある。
けれど私としては、さすがにもう見て見ぬ振りを続けるわけにはいかなかった。
「どうしたの? そっちからわざわざ誘っておいて、だんまりは酷くない?」
「そうね。ごめんなさい」
「謝るほどのことじゃないから、いいんだけどさ。あー……それとも今のは、強神会の人に私の情報をリークしたことを謝ったのかな?」
ビクリ、と彼女の身体が震える。
いつものクールな表情に、陰りが見えて来た。
「まああのくらいの、なかよし格闘クラブの人達がやらかしたこと程度なら別に全然気にしなくてもいいんだけど」
「それでも、こっちの気がすまないから」
「そう。それじゃあ全部、話してくれるってことでいいのよね。五月女さん」
もう一発、花火が打ち上がる。
その光に照らされた五月女さんの表情は、
これまでに会ったどんな刺客より、真剣な面持ちをしているように感じられた。
私たちの近くに潜んでいたスパイ。
五月女憐火さんと、決着をつける時がやって来た。
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