部長・葛城愛莉(side:葛城愛莉)

第25話 愛莉さんの考えてること

「うーん……」


 机の上に広げた台本を見て、頭を抱える。

 今見ている台本は以前玲央が書いてくれたものだ。私が台詞を忘れて、上演できなくなってしまった台本でもある。


 玲央が初めて書いた台本で、悩みながら何度も書き直しをしていたことも知っている。


「……本当は、もう一度やりたいけど」


 この台本は、元演劇部のために玲央が一から書いたものだ。だから人数も当時の部員数に合わせていて、とても五人じゃ上演できない。

 一人で複数の役を演じたとしても無理がある。


「書き直しとかできるのかな。でも、それもどうなんだろ」


 高校演劇で演じる台本は、生徒が書き下ろした作品である必要はない。既存の台本を使うところもあるし、顧問が書く学校もある。

 大会では上映時間は60分以内と決まっているけれど、校内公演にそんな決まりはない。といっても、60分以上の劇なんてやったことはないが。


 新生演劇部、初めての公演だ。私にとっても、他の部員たちにとっても記憶に残る公演になるだろう。


 迷った結果、私は玲央に電話をかけた。

 一人で考えたって結論は出ないし、玲央の気持ちをちゃんと聞きたいから。


『もしもし?』


 1コールで玲央は電話に出てくれた。基本的に玲央は土日、一日中家に引きこもっている。

本を読んでいたら電話に気づかないかもしれないと思ったけれど、気づいてくれてよかった。


「今、ちょっといい?」

『いいですよ』

「校内公演の台本のこと、相談したくて。台本決まらないと、練習にも入れないし」


 校内公演まで、約一カ月。基礎練習しか経験のない一年生たちのことを考えると、練習時間はなるべく多く確保したい。

 台詞を覚えるまでは立ち稽古には入れないし、早めに台本を決める必要がある。


『愛莉さん。それなら、今から会って話しません? 昼ご飯とか食べながら』


 玲央に言われて、時計で時間を確認する。現在の時刻は午前10時。今から用意をして家を出たら、ちょうど昼飯時だろう。


「そうしよ!」

『了解です。じゃあ、準備できたら連絡するんで、愛莉さんも教えてください。あとはLimeで決めましょう』

「うん!」


 なんかこの感じ、いいな。昔に戻ったみたい。


 電話を切って、クローゼットを開く。

 玲央と会って、部活の話をしながら昼ご飯を食べるだけ。たぶんお洒落なレストランじゃなくて、近所のファミレスとかだ。


 分かってる。分かってるけど。


 久しぶりだし、とびきり可愛くして行ったっていいよね?





「愛莉さん、気合入ってますね」


 待ち合わせ場所にくるなり、玲央はそう言った。


「……それより先に言うこと、ないの?」

「遅れてすいません。あと、可愛いです。似合ってますよ」


 私を見つめて、玲央が甘く微笑む。その笑顔で褒めれば私が許すとでも思っているのだろう。


 遅刻癖も、相変わらずだな。


 こんなところまで嬉しくなってしまうんだから、玲央のことに関して、私はどうしようもないのかもしれない。


「……っていうか玲央、荷物多くない?」


 休みの日に合う時、玲央はいつも小さな鞄を持っているだけだ。冬場はコートにポケットがあるから、鞄すら持っていない時もあった。

 それなのに今日は、大きめの黒いトートバッグを肩にかけている。


「パソコン、持ってきたので」

「パソコン?」

「はい。台本修正するなら、あった方が便利かなって」


 驚いた私を見て、玲央が悪戯っぽく笑った。唇の端だけをちょっと上げて笑う、からかうような笑い方。


「愛莉さんの考えてることくらい、分かりますよ」


 玲央が鞄の中から取り出したのは、古びた台本だ。

 表紙に『太陽と月の魔法使い』と書かれたもの。私の鞄の中にも、全く同じ物が入っている。


「今度はちゃんと、成功させましょうね」

「……うん。約束する」

「愛莉さん、顔怖いですよ」


 軽やかに笑って、玲央は私の手を引っ張った。


「とにかくまずは腹ごしらえです。行きましょう、愛莉さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る