第4話 100匹のゴキブリの駆除より1匹のヤモリの救助

 県営住宅に越してきてから10年になる。

 私は野外の昆虫は、蚊や蛭のような一部の例外は別として大概好きであるが、室内に無断で侵入してくるモノではアシダカグモだけは苦手中の苦手である。自分が物心ついた頃には父親が気味悪がって、必ず殺していたのをしょっちゅう見ていた所為であろうと思う。祖母も母も全然平気だったのであるが。


 苦手ではないが、蚊とゴキブリは当然嫌いである。そのゴキブリであるが、年間30匹ぐらいがゴキブリホイホイで駆除できていた。

 3年前のある日、ゴキブリホイホイの部屋の中に予想外のモノを見つけてしまった。ヤモリである。中にいるゴキブリ数匹はまだ蠢いているが、ヤモリは触ってみてもピクリともしない。ゴキブリとは生命力が違うようだ。

 ヤモリは大好きというほどではないが、好きな方である。掌に乗せた時など、少し吸い付くような足の感触がすごく心地よい。それを不覚にも殺してしまった。詫びの気持ちと後味の悪さが残った。


 100匹の害虫を殺して1匹の好きな虫も殺すよりは、101匹とも殺さない方を私は選ぶ。

 これは10人の有罪者を有罪にするとともに1人の無罪者も有罪にするよりは、11人とも無罪にする方を選ぶのと同じ原理であろう。


 その日からゴキブリホイホイは使えなくなった。1年半、ゴキブリとは同居した。むき出しの食べ物をキッチンに放置する事は無いのでそれ程は苦にならない。とは言え、衛生上よろしくない上、何よりもゴキブリを求めて一番苦手なヤツが無断侵入してこないとも限らない。


 ある日、行きつけのゼネラルストアで、1年間有効で置いておくだけでゴキブリが居なくなるという売り文句に引き寄せられゴキブリ駆除の商品を買った。使用してみて、1年間で6~7匹の死骸を見つけた。

 あとの20数匹はどうなったのだろう? 見えない部屋のどこかで昇天しているのか? それはそれで、あまり気持ちの良いことではない。


 ある朝、キッチンのフロアで潰れたゴキブリを発見した。どうも昨夜トイレに立った時、死骸を踏みつけたのではないかと思う。こうなると、駆除の仕方としてなら、ゴキブリホイホイの方がまだマシなように思う。


 さて、今年の夏はどうしたものか? いささか気になる昨今である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る